そのΩ売りました。オークションで。

塒 七巳

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 あれから、喬一は部屋には来ない。
 
 世間はもう、クリスマスがやってくる頃だ。
 
 瑞稀もあれから一度も実家にも帰っていなかった。

 一度だけ、伊瀬から連絡が来た。
 会って話したい、と…勿論返すこともなく、メッセージは消した。

 1人で良かった。1人が良かった。ただ寝て、起きて食べて、大学へ行く。
 淡々と、それを続ける。
 誰にも関わりたく無い。
 近づけば、より遠くなるのだから。
 
 
 
 世間にクリスマスがやって来て、誰もがどこか浮足立っていても、瑞稀にはそんな事は関係無かった。
 年末年始を前に、さすがに帰ろうか迷ったが、年末は渚の医院も混む。
 
 それが過ぎた頃に一度連絡しようと瑞稀は決めた。
 
 
 ケーキも無く、ツリーもない部屋で、ぼんやりと適当な海外ドラマをずっと流している。
 
 体が怠い…瑞稀がうたた寝をし、日付を跨いだ頃、ふと風呂に入ってないと気付いた。
 
 体を温めれば、怠さも多少良くなる…
 そう思ってなんとか体を起こした。
 
 蛇口を捻り、シャワーからお湯を出すと、蒸気で浴室は真っ白になる。
 
 真っ白…そう思った瞬間、瑞稀の体に燃えるような感覚が駆け巡る。
 
 息が、苦しい…!
 はぁはぁと荒い息を漏らし、瑞稀は床に倒れ込んだ。
 そのシャワーを、止める事も出来ない…
 
 
 これは…と瑞稀に危機感が募る…
 いや、まさか…
 抑制剤を…飲まないと…
 
 そう思っても、体が思うように動かない。
 
 熱い、苦しい…
 
 
 ″欲しい″
 
 
 体の奥から、抉られるように何かが疼いた。
 
 
 
 何か声がして、浴室のドアが薄らと開かれたと思うと、次の瞬間には大きな音を立ててそれは完全に開かれる。
 バシャっと何かが床へ落ちるのは見えた。
 蒸気で真っ白な景色の中、瑞稀は目を凝らす。
 
 そこには、中からケーキが崩れて出ている白い箱があった。
 
 
 目線を上へやると、ダウンジャケットを着たままの喬一が立ち尽くしている。
 
 その手で、自らの鼻を覆って…

「お前…」
 喬一がそう言うと、目の色が変わった。
 
 獲物を見つけた肉食獣のように、鋭く圧倒的な圧を放っている。
 
 何かに突き動かされるように、喬一が瑞稀へ手を伸ばした。
 
 

 ヒートが、遂に来てしまった。
 
 
 
 
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