9 / 31
9
しおりを挟むあれが、ヒートの前触れだとしたら…
瑞稀は言いようの無い恐怖に、自分の鼓動だけが耳に響く。
薫はラット、に突如襲われたのだろうか…
だが、もしかしたら瑞稀がそれを…引き起こした?
自覚も無い。防ぎようが無い。
そしてあの、α特有のラットの匂い…もしまたあれを嗅いだら、自分を抑えられるのだろうか…
「考え事?水、出しっぱじゃん」
その声に、瑞稀はハッと我に変える。
声の人物は水を止め、瑞稀の顔を覗き込んだ。
キッチンで洗い物をしていていた瑞稀は、突然の事に体を2、3歩後退させた。
「…」
喬一は一瞬眉をピクッと動かし、ぐっと体を瑞稀に近づけると、瑞稀を抱き寄せ、首元に顔を埋めた。
「この匂い…α?」
瑞稀は咄嗟に喬一の体を押すが、逆に体を密着させられる。
「へー…ラットのαに会ったの?もしかして、契約違反した?確かめた方がいい?」
喬一は瑞稀のスカートを捲り上げ、手を差し込んだ。
「やめて、違うっ」
喬一から離れようと身を捩る瑞稀を、喬一はまた一層強く抱き寄せる。
瑞稀が喬一と目が合ったと思うと、喬一は不意にその唇を重ねようとしてきた。
瑞稀は首を左右に振り、それを激しく拒絶する。
瑞稀が体を大きく捩ると、喬一は後ろから瑞稀を抱きしめた。
「あっ…!」
瑞稀は思わず悲鳴を上げた。
喬一は、瑞稀のうなじを舐め、吸い付いたり甘噛みし始めたのだ。
「匂い…強くなった…」
喬一の呼吸が少し荒い。
喬一は後ろから、瑞稀の体を弄び始める。
瑞稀は背中から感じる熱に、抗う事が出来なかった。
「再来週までここに来れないかも。
誕生日なんだ、俺の。パーティもいくつかあるし、彼女もその辺りでアメリカから一時帰国するから」
いつも通りの事が終わると、喬一は起き上がって、未だ横たわる瑞稀にそう言った。
彼女…もしこんな事をしているとバレたら、一体なんて説明するんだろ…
いや…お父さんからの誕生日プレゼントって、躊躇わずに言うのか…
人間という認識をして貰う気がしない、と瑞稀は目を閉じた。
喬一の言葉に返事もしない。
喬一はいつもの様にシャワーを浴びて、すぐに部屋を出て行った。
再来週まで、喬一が来ない…。
瑞稀は迷う事なく、重い体を起き上がらせる。本当は眠りたくて堪らないが、1秒でも早く、家に帰りたかった。
行き来は大学と家だけで、瑞稀はそれ以外ずっと寝ていた。時々来る渚と食事をして、他愛の無い会話をする。
その時間は瑞稀にとってとてつもなく心地よかった。
瑞稀が帰っている間、猫のシンビィは瑞稀と共に寝て過ごした。
シンビィは瑞稀の肌寒さを和らげてくれる。一緒に寝て、起きる…目が覚めたらそこに居てくれる存在だ。
日付が変わる頃、瑞稀はふと目が覚めた。
シンビィは相変わらず丸くなって寝ている。
一度目覚めると、その後は中々寝付けなくなり、ふらりとコンビニにでも行こうと瑞稀は外に出た。
そんなに長い期間離れてたわけでは無いのに、近所の景色が無性に懐かしい。
街はまだまだ煌々と煌めいて、眠る事を知らないようだ。
「須藤…?」
瑞稀を呼ぶ声に、気持ちより先に体が反応してしまった。その声を、よく知っているからだ。
瑞稀はあまりに驚いて目を見開く。
口を開けたが、声が出なかった。
そういえば、この辺りの居酒屋で働いてるって言ってた…
いつも会うカフェで、いつか話した内容を瑞稀は思い出す。
自転車を携えて、その人物は真っ直ぐ瑞稀に向かって歩いてきた。
こんな格好で、化粧もして無いのに…
瑞稀は途端に恥ずかしくなり、顔を伏せて、どこかに隠れたい衝動に駆られる。
「時間、ある?」
と低く心地の良い声が、瑞稀の頭の上に降ってきた。
10
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。



可愛い可愛いつがいから、「『練習』の相手になって」と言われてキスをされた。「本番」はだれとするつもりなんだ?
やなぎ怜
恋愛
獣の時代から続く旧家・狼の家系に生まれたウォルターが、つがいのマリーを劣悪な環境から救い出して一年。婚約者という立場ながら、無垢で幼いマリーを微笑ましく見守るウォルターは、あるとき彼女から「『練習』の相手になって」と乞われる。了承した先に待っていたのは、マリーからのいとけないキスで……。「――それで、『本番』は一体だれとするつもりなんだ?」
※獣/人要素はないです。虐げられ要素はフレーバーていど。ざまぁというか悪いやつが成敗される展開が地の文だけであります。
※他投稿サイトにも掲載。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる