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しおりを挟むあれが、ヒートの前触れだとしたら…
瑞稀は言いようの無い恐怖に、自分の鼓動だけが耳に響く。
薫はラット、に突如襲われたのだろうか…
だが、もしかしたら瑞稀がそれを…引き起こした?
自覚も無い。防ぎようが無い。
そしてあの、α特有のラットの匂い…もしまたあれを嗅いだら、自分を抑えられるのだろうか…
「考え事?水、出しっぱじゃん」
その声に、瑞稀はハッと我に変える。
声の人物は水を止め、瑞稀の顔を覗き込んだ。
キッチンで洗い物をしていていた瑞稀は、突然の事に体を2、3歩後退させた。
「…」
喬一は一瞬眉をピクッと動かし、ぐっと体を瑞稀に近づけると、瑞稀を抱き寄せ、首元に顔を埋めた。
「この匂い…α?」
瑞稀は咄嗟に喬一の体を押すが、逆に体を密着させられる。
「へー…ラットのαに会ったの?もしかして、契約違反した?確かめた方がいい?」
喬一は瑞稀のスカートを捲り上げ、手を差し込んだ。
「やめて、違うっ」
喬一から離れようと身を捩る瑞稀を、喬一はまた一層強く抱き寄せる。
瑞稀が喬一と目が合ったと思うと、喬一は不意にその唇を重ねようとしてきた。
瑞稀は首を左右に振り、それを激しく拒絶する。
瑞稀が体を大きく捩ると、喬一は後ろから瑞稀を抱きしめた。
「あっ…!」
瑞稀は思わず悲鳴を上げた。
喬一は、瑞稀のうなじを舐め、吸い付いたり甘噛みし始めたのだ。
「匂い…強くなった…」
喬一の呼吸が少し荒い。
喬一は後ろから、瑞稀の体を弄び始める。
瑞稀は背中から感じる熱に、抗う事が出来なかった。
「再来週までここに来れないかも。
誕生日なんだ、俺の。パーティもいくつかあるし、彼女もその辺りでアメリカから一時帰国するから」
いつも通りの事が終わると、喬一は起き上がって、未だ横たわる瑞稀にそう言った。
彼女…もしこんな事をしているとバレたら、一体なんて説明するんだろ…
いや…お父さんからの誕生日プレゼントって、躊躇わずに言うのか…
人間という認識をして貰う気がしない、と瑞稀は目を閉じた。
喬一の言葉に返事もしない。
喬一はいつもの様にシャワーを浴びて、すぐに部屋を出て行った。
再来週まで、喬一が来ない…。
瑞稀は迷う事なく、重い体を起き上がらせる。本当は眠りたくて堪らないが、1秒でも早く、家に帰りたかった。
行き来は大学と家だけで、瑞稀はそれ以外ずっと寝ていた。時々来る渚と食事をして、他愛の無い会話をする。
その時間は瑞稀にとってとてつもなく心地よかった。
瑞稀が帰っている間、猫のシンビィは瑞稀と共に寝て過ごした。
シンビィは瑞稀の肌寒さを和らげてくれる。一緒に寝て、起きる…目が覚めたらそこに居てくれる存在だ。
日付が変わる頃、瑞稀はふと目が覚めた。
シンビィは相変わらず丸くなって寝ている。
一度目覚めると、その後は中々寝付けなくなり、ふらりとコンビニにでも行こうと瑞稀は外に出た。
そんなに長い期間離れてたわけでは無いのに、近所の景色が無性に懐かしい。
街はまだまだ煌々と煌めいて、眠る事を知らないようだ。
「須藤…?」
瑞稀を呼ぶ声に、気持ちより先に体が反応してしまった。その声を、よく知っているからだ。
瑞稀はあまりに驚いて目を見開く。
口を開けたが、声が出なかった。
そういえば、この辺りの居酒屋で働いてるって言ってた…
いつも会うカフェで、いつか話した内容を瑞稀は思い出す。
自転車を携えて、その人物は真っ直ぐ瑞稀に向かって歩いてきた。
こんな格好で、化粧もして無いのに…
瑞稀は途端に恥ずかしくなり、顔を伏せて、どこかに隠れたい衝動に駆られる。
「時間、ある?」
と低く心地の良い声が、瑞稀の頭の上に降ってきた。
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