7 / 31
7
しおりを挟む「同じ大学だったんだね。Ωちゃん優秀じゃん。まぁヒートがなきゃまだ勉強も捗るか…この辺りのエリアが望ましいって聞いてたけど、なるほどね。
ここならいつヒートが来ても、大学近いから安心だわ」
大学で会った夜、さっそく喬一は瑞稀の元へやってきた。
もうこれだけ相手が近くに居るのなら、プライバシーとか…どこまで国が守ってくれるのか…、と瑞稀は疑問に思っていた。
「俺、千扇 喬一。偽名じゃなかったでしょ、喬一って。」
そう微笑んで、喬一は立ち尽くす瑞稀を抱き寄せる。
「無口だね、相変わらず。同級生なんだから、仲良くしようよ」
喬一は瑞稀に顔を近づけて、不意に口付けしようとする。瑞稀は瞬時に顔を逸らした。
「ああ、嫌なんだっけ。もっと凄い事はオッケーだけど、これは嫌なんだよね」
喬一が瑞稀とピタリと体を合わせ、左右の手は瑞稀の服の下入れられる。
滑るように、その手は肌を這い始めた。
慣れとは恐ろしいもので、瑞稀の体は喬一に触れられる度に、素直に熱を帯び始めていた。
「やっぱ成果出て来てるよ。ほんのちょっとだけど、匂い強くなってる気がする。興奮する…」
瑞稀の体から力が抜け始めて思考が止まる。止まった方が良い。
「そろそろ玩具使おうか?気持ち良いよ、絶対」
そう言って、喬一は瑞稀の手を引いて、ベットへその体を押し倒した。
「ねぇ、腹減らない?」
「いいえ…」
瑞稀は裸でベットに横たわったまま、ぼんやりと天井を眺めている。
いつもの様に、ある程度の事を済ませると、喬一はシャワーを浴びに行った。
いつもと違うのは、寝室に戻って来て瑞稀を食事に誘ったことだ。
「Ωちゃん、いや須藤さん、ちょっと痩せたよね?ていうか連絡先知らないと面倒だから教えて?」
喬一はもう名瑞稀の名前も学部も知っている。気が向けばもっといろいろ調べられるだろう。
電話番号くらい教えても、もうさして影響も無い。
諦めの気持ちが大きかった。
重い体を起こして、電話番号だけを手短に教える。
「瑞稀ね、瑞稀。なんか食べ行こうよ」
「…そんなに高い物食べれません」
どうせ値段も見ずに食べたいものを食べるのだろう、何も考えず、お金の心配も無く…残念ながら瑞稀はそうじゃない。
「いや、誘ったんだから普通に奢るし」
「いいです。お一人でどうぞ」
瑞稀はもう一度横になった。
男という生き物は、自分が達するともう女や性には興味は無くなるらしい。
こちらが肌寒くとも、さっさと起きて好きな事をし始める。
そんなものなのだ、と喬一との関係から学んだ。
「面倒くさー。Ωの処女めんどくさー。ほら、起きて」
喬一は瑞稀を無理矢理起こし、自分が好きそうな薄手で裾の長いキャミソールワンピースを出してきて瑞稀に着させる。
もう嫌とも言う気も起きぬ程、瑞稀は疲れていた。大人が使う玩具、というもののせいで。
「何食べたいの?車出す?」
「…」
この男に、瑞稀が行きたい店を行ったら、果たしてどうするのだろう。
「じゃあ…」
大通りから細い路地を入って、地下駐車場の建物がある裏手に、ひっそりとラーメン屋がある。工事現場で働く泥だらけの人、スーツ姿の人、色々な人が来る庶民的な、小さく狭い店だ。
間違いなく、喬一のような人種は来ない。
入ってからも喬一は物珍しそうに店内をキョロキョロし、スマホで写真を撮ったりしていた。
瑞稀はそんな喬一を気にも留めず、淡々と食べ、淡々と会計をし、店を出る。
「あのさ、一緒に入ったんだから一緒に出ようよ、びっくりするわ」
喬一の事など気にもせず、瑞稀は店を出たが、喬一は慌てて瑞稀の後を追ってきた。
「…同じ店で食べただけじゃないですか。別々に出て何かおかしいですか?友達でも無いし」
瑞稀は落ち着いた口調でそう言う。
嫌味でも皮肉でも無い、事実だ。
「…同級生じゃん?まぁ確かに仲良くはないけど。裸の付き合いの割に」
喬一は瑞稀の歩みに合わせて、あの部屋への道を歩く。
帰らないのだろうか
まさかまだ何かするのか…
瑞稀の気は重い。
「瑞稀は契約が履行されたらどうすんの?ていうかお金何に使うの?」
踏み込んだ質問だな、と瑞稀は思った。
「Ωってヒート1週間以上も続くんでしょ?大変だね。金稼げないよね、そりゃ…ああ、大学の学費とか?私立だし、きっときつよね、薬学部じゃ」
きついのを既に知ってるのだな、と思った。名前がわかった時点で調べられる範囲の事は調べたのだろう。
「そうですね。αにも狙われて大変ですね」
そう言いつつ、結局αに囲われてる自分がなんとも皮肉だ。
「まぁそりゃそういう特性だしね」
当たり前でしょ、という風に喬一は言った。
確かに…仕方ない。Ωがどれだけ悲劇的な人生を辿るか知らない訳では無いはずだ。関係無いだろう、αなら。
その程度の認識だろう。
瑞稀も別に慰めて欲しい訳でも同情して欲しい訳でも無い。
「で、契約完了したらどうすんの?」
しつこいな、と瑞稀は喬一を見る。
横断歩道の信号は赤になった。
喬一は首を傾げて、答えを待ってる様だ。
「奨学金を払った余りで手術して、2度とヒートが来ない体にします」
瑞稀は真っ直ぐ喬一を見てそう言った。
「…は?」
「冗談でしょ?本気?子供産めないよ?それに…勿体無いじゃん、とんでも無く気持ちいい事出来るし、せっかくα産めるのに」
αが産めるのに…自分の出自とどこか重なる言葉だ。
αは感情にあまり流されない。合理的に最短距離を行く。だから、遠回りばかりして効率の悪いΩの気持ちなぞ、理解出来ないしするつもりも無いだろう。
αが、人間ならΩは一体なんだろう。
ふいに東條が浮かんだ。
東條の伴侶は、東條を人間として扱ってくれるのだろうか。
喬一や瑞稀の父のようなαばかりでは無いとわかっている。
けれども、現実はこんなものだろう。
Ωの価値は、αを体で楽しませて、同じ様なαを産んで貰うためのもの。
きっと普通に思い合うなんて、できないだろう。だから、運命の番というものがあるのかな…と瑞稀は思った。
「ていうか番見つければ良いじゃん。噛んだら、ヒートも無くなるんでしょ?」
そう簡単に見つかるのなら、きっとΩは皆すぐ番うだろう。
「…お互い以外と体を重ねられないんですよ?わざわざαがそんな事しますか?耐えれます?」
瑞稀がそう言うと、喬一はうーんと考え込んだ。
「まぁ好きなら…結婚したいとか?[#「?」は縦中横]それこそなんだっけ、あの有名な教授みたいに」
歩みを止めていた赤信号が青に変わる。
早く帰りたい
家に…
早く帰りたい
瑞稀の歩は自然と速くなる、帰りたい家では無いけれど。
10
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説





妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる