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 朝食に選んだのは、モダンで感じの良さそうなカフェだ。
 ベーグルを使ったプレートや、ご飯ものもある。量より質か、と唯も考えたが、それなりに値段や価値のありそうな店を選んだ。
 
 お姉さんが決めて良いよ、とユウマが言うので、近場で、それでもメニューの豊富そうな店を選んだつもりだった。
 
 
 
 こうして向き合うと、唯は嫌でも最初に会った時の事を思い出す。
 
 沈黙が来るとどこか気まずくて、唯が黙り込んでいるとそれを察したのかユウマが当たり障りの無い会話を投げてきた。
 
 暫く他愛の無い会話が続き、唯の緊張は段々と解れる。
 
 
「……仕事って、バーテンダーなの?」
 唯が尋ねると、ユウマは片眉を上げる。
 
「いろいろしてるよ。ツテとかもあるし、それこそ日雇いも。ただ、あんまり人が多く集まる場所は避けてるかな。日程的にもきっちりはシフト入れないし」
 ユウマがそう答えると、頼んだ料理が運ばれてきた。
 
「この間、絡まれてたけど……バーテンダーとかも危なく無い?」
 唯は言葉を選びながら、ユウマの反応を窺う。
 
「あの日はたまたま変な客が居たけど、あそこのオーナー凄く良くしてくれるよ。 融通も効くし今住んでるとこもそのツテ。まぁ割の良い誘いだったら、俺も歓迎だけどね」
 ユウマの言葉に、唯は小首を傾げて千切ったベーグルを口へ運ぶ。
 
 
 
「入れられても無いし入れても無いけど、それ以外の事は全部してきたってこと、お金の為に」
 ユウマがあっけらかんとそう言うので、唯はゴホッ、ゴホッと咽せた。

 周りの人に聞かれていないか、唯は辺りをキョロキョロと見渡す。
 
「俺、結構人気なんだよ。女性用の風俗でも、男性専門の店でも」
 そう言って口の端を上げて笑うユウマは、唯よりも随分大人びて見える。
 
 ユウマの生きる人生は、唯の生きる世界と全く違った。
 
 Ωが社会で生きるにはかなりの困難が付き纏う。頭では分かっていたが、唯の体にズシンとした現実がのしかかってきた。
 
 今唯の目の前に居る人は、今までどう生きてきたのか……––––
 それを考えずにはいられない。
 
 生まれながらにして、苦しく辛い特性を背負わされたのなら、子供は早く大人にならなくてはならない。毎日を、生き抜く為に––––
 
 だから、若いユウマはどこか大人びていて、とてもしっかりしている–––––
 食事をする唯の手が止まった。
 
 
 
「だから、お姉さんをガッカリはさせないつもり」
 ユウマはそう言って、揶揄う様な笑みを唯に向ける。

 唯はただ顔を赤くして、気まずそうに視線を逸らした。
 
 
 
 唯はカフェでしこたまパンを買い込み、ユウマと共に外へ出る。
 
 てっきりこのまま解散でそれぞれ帰ると思っていた唯は、買い込んだパンをユウマに渡すつもりでいた。
 いくつ購入したか正確には分からないが、カフェのオシャレご飯では若いユウマには足りなかっただろうと思っていたからだ。
 だが、ユウマはちょっと行きたいところがある、と言って唯の手を握りズンズンと道を歩いた。
 
 この、ユウマの白くて長い指の感触が、唯の肌にジン、と鈍く、深く染み込む。
 
 ––肌の内側がこそばゆい……
 そう思うと、唯の頬や耳に熱が生じてくる。
 
 
 
 唯はユウマに連れられるまま地下鉄に乗り込んだ。
 

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