最悪の相性

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最悪の相性

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「ねぇ、結婚て、自分と相性が最悪な人とするらしーよー?」


* * *


目覚まし時計のアラームが、午前6時を告げる。百合子はそれを止めると、ベッドから起き上がり、カーテンを開けた。何のことはない、いつもと変わらない彼女の1日が訪れたのである。
出版社で勤務している百合子には、大切なことが2つあった。ひとつは、時間。そしてもうひとつは、価値である。とは言え、一言で価値と言っても色々な意味合いを持つ。ここで言う価値とは、百合子が今後の自分の人生を潤すに値するものなのかどうか、と言う基準である。
ともかく、彼女のライフスタイルにはこのふたつが大きく関わっていた。

朝、8時。本来9時から始まるこのオフィスは、まだ誰の姿もなく、しんと静まり返っている。百合子はこの誰もいないオフィスの景色を見るのが好きであった。社員たちが来れば、時間との勝負に追われてひしめき合うこの空間も、この時だけは、ゆったりと時が流れるのを感じることができる。そして、その時間を独り占めできるようで、百合子は朝、誰よりも早くこのオフィスに姿を現すのであった。もっとも、彼女が効率良く仕事をこなすためでもあったのだが。

百合子は上着と荷物を自分の机に置くと、ツカツカとオフィスの窓に近寄り、潔く戸を開けた。朝の爽やかな空気が、百合子の黒く艶のある長い髪を優しく撫で、閉じ込められていた空間の中に入り込み、交わり、やがてオフィスは新鮮な空気で満たされる。百合子はそこで自身をその空気の中に調和させるように、目を閉じ、深呼吸をする。そして目蓋を開くと、今日またやって来るハードスケジュールの迎撃準備を整えるのであった。
時刻が8時30分を回ると、他の従業員たちがチラホラと顔を見せ始める。挨拶をする従業員たちの声に耳だけ傾け、その返事を返しながら、百合子はすでに立ち上げたパソコンに向かいキーボードを叩いていた。この出版社に勤めて、百合子は8年目を迎える。今や5人居た同期は1人もおらず、上司や先輩の数より部下の数が圧倒的に多かった。百合子は無駄を好まない。無駄だと思える要素は容赦なく排除した。仮にそれが、人であっても。そんな百合子を恐れ、敬遠する者も少なくはない。無論それもあって、百合子は社内で誰かとつるむと言うことを一切しなかった。

時刻は、もうすぐランチタイムを迎えようとしていた。ふいに、腕時計に目を落とす百合子を呼ぶ声が聞こえ、百合子が顔を上げた。
「瀬尾くん、ちょっと。」
上司である浜田部長だった。百合子がその声をキャッチし、部長の席まで無機質にヒールの音を鳴らす。
「なんでしょうか。」
浜田部長はいつもにこやかで、百合子は彼が怒ったり、怒鳴ったりしているのを見たことがなかった。そのにこやか部長から、百合子が今いちばん聞きたくない名前が、百合子の耳に届いた。
「瀬尾くんさ、相川くん、知ってるでしょ?」
“相川”・・・、その名を聞き、百合子の眉が反応する。
「・・・ええ、知らない方が不自然ですから。」
「うん、その相川くんとね、今度の仕事、君、コンビ組んでくれないかなぁと思って。」
「・・・は?」
突拍子のないことを言われ、百合子が唖然と口を開く。
「いやさ、常務がね、彼は頑張っているから、なんとか成長させてあげたいんだって言ってね。で、どうしたらいいかと頭を巡らせていたら、君の顔が思い浮かんで。君と一緒に行動してもらうことで、君の仕事っぷりを盗んで、相川くんの糧にできるんじゃないかってね、こうお考えなんだよね。」
突然のことに、百合子は一瞬、時が止まったように動かなかった。浜田部長の口から出た相川と言う男は、百合子が会社の中で1番嫌う存在であった。

今年入社したばかりの彼は、半年も経つと言うのに仕事が人の3倍遅く、ミスを連発し、人に対して頭を下げてばかりいる。もちろん百合子は当初、この相川と言う男を追い出そうと考えた。しかしまずいのは、彼は常務に気にかけられているのである。何故、会社に貢献出来ない人材である相川を常務が好んでいるのか。その理由はいたって簡単で、海外に留学中の常務の孫に、相川がそっくりだと言うのだ。ただそれだけのことで、会社に利益を齎さない人材が居座っているのだから、おかしな世の中である、と百合子は腹の中でこう思っていた。
「僕もね、相川くんの頑張りようには感心しているし、彼が成長してくれればとても喜ばしいことだと思ってね。どうだろう、瀬尾くん。引きうけてもらえないかね。」
どうもこうもない・・・。百合子は心中だけに思いを留まらせることができず、その表情を露わにした。
「・・・大変申し訳ないのですが、部長。確かに私と組めば、彼にはメリットがあるのかもしれません。しかし、私に得るものは何もありません。彼に時間を費やすことで私の仕事も遅れますし、はっきり言わせて頂きますと、彼にそこまで労力を裂く価値を見出せません。」
百合子のきっぱりとした態度に、浜田部長は笑い声を上げた。
「うん、まぁそう言われるだろうとは思っていたけどね。確かに仕事面できみにメリットと言うと難しい話かもしれないねぇ。だけど、仕事に対するひたむきな姿勢は、僕も本当に見習いたいと思うほどだよ。彼と組めば、もしかするときみの中にも新しい何かが芽生えるかもしれない。案外、良い相性かもしれないよ?」
何が良い相性なものか。最悪の相性だ、組まなくてもわかる。彼は、相川は、自分と似ても似つかない、まったくもって正反対の人物だ。そんな人間とコンビを組んでもうまく行かないことは目に見えている。
「・・・ともかく、私の気持ちは、そう言うことですので。」
そう言い放ち、一礼をすると、百合子はさっさと自分の席へ戻って、昼を告げるチャイムと共に席を立ち、
昼食を摂りに外へ出た。
「・・・まぁ、いちど、話しておいで。」
にっこりと笑う浜田部長の顔は、いつになく穏やかであった。

百合子はオフィスを出ると、お気に入りの洋食屋へと足を運んだ。オフィスから少し離れたところにあるので、社内の人間にも知られておらず、お昼時でもほとんど込み合っていることはない。
百合子は窓際の席に着くと、お馴染みのメニューを注文し、ふぅと小さく一息吐いた。
ふと、百合子の耳にカランコロンと来客の合図が聞こえ、徐に百合子が顔をそちらに向ける。刹那、百合子の顔が驚愕の二文字を示した。百合子の目に映ったのは・・・。
「あ・・・、せ、瀬尾さん・・・!」
百合子が社内で格段に嫌悪する、あの相川であった。
「・・・・・・どうも。」
いくら嫌いな相手とは言え、百合子は自分が社会人だと言うことを忘れてはいない。表面上で作った最低限の社交辞令を相川に向けた。
「あ・・・、ど、どうも・・・!」
この、無駄にたどたどしい態度も、百合子が相川を嫌う要因のひとつである。
「あ・・・、あの・・・、よろしければ・・・、ご一緒してもよろしいでしょうか・・・?」
「・・・構わないわよ、私、急ぎの仕事があるから食事を済ませたらすぐオフィスに戻るから。」
「あ、はい!大丈夫です!ありがとうございます!」
百合子のあしらいを気に留めず、子犬がしっぽを振って喜ぶかの如く、相川が百合子の向いの席に座る。得てして人間と言うものは、一度嫌いになった人のこととなると、どのようなことにでも負のイメージを抱いてしまうものである。無論、百合子も例外ではない。相川は席に着き、注文を済ませると、百合子の顔を見て小さく笑った。
「は、浜田部長に、穴場の洋食屋さんがあるからって教えて頂いたんです。行くと良いことあるかもよって・・・、そしたら、瀬尾さんに会えました・・・ははは。」
・・・部長め・・・。百合子は心の中で舌打ちをした。以前、百合子は浜田部長を気に入っている店だとここに連れて来たことがあった。あんな穏やかで温厚そうな顔をしておきながら、時に部長のやることには虚をつかれる。
「・・・あの、瀬尾さん・・・、部長から聞きました・・・。お、オレ・・・あ、いや、僕とコンビを組むのを、瀬尾さんが、得るものがなにもないって言ったって・・・。」
早速、情報漏洩である。百合子はますますあのにこにこ親父に呪いをかけたい衝動に駆られた。
この日本社会にあるまじきこの状況は、一体どう言うことか。罵られた本人をわざわざ敵の元へ送るなど。
それと同時に、百合子は己の仮面を外し、相川を見た。
「・・・じゃ、もう取り繕う必要はないわね。話を聞いたのなら早いわ。そう言うことだから。」
ぴしゃりと言い放つ百合子に、相川が目線を下に落としつつ、答えた。
「・・・は、はい、 確かにおっしゃる通りです・・・。浜田部長に、それできみ、どうする?このまま引き下がる?って聞かれて・・・。・・・僕は・・・、だからと言って、僕は、この機会を逃すつもりは・・・ありません・・・って・・・こ、答えました・・・。」
その返答は、この見るからにヘタレな青年にしては、少し意外なものである。
「でも、あなたひとりの問題じゃないでしょう。私が嫌だって言ってるんだから。」
「は・・・、はい・・・。だから・・・あの・・・その・・・、瀬尾さんのメリットになるようなことを僕ができれば良いってことですよね・・・。」
あくまで希望を捨てない方向の相川に、百合子が大きく溜め息を吐く。
「・・・あのねぇ、あなた・・・。」
「あの・・・!僕自分でもわかってるんです!仕事遅いしミスばっかで人にフォローしてもらってばっかりだし!みんな良い人だからそれでも笑って接してくれるし!常務のお取り計らいでなんとかここにいさせてもらってることだって痛いほど身に染みてるんです!だから!瀬尾さんと一緒にお仕事させて頂いたらこんな僕でもちょっとはマシになるんじゃないかと思って!強く思って!」
「あの・・・ちょっと・・・。」
「だから!お願いです!瀬尾さんのメリットになるようなことで僕になにかできることがあれば!いやできないことでも!言ってください!僕全力でやりますから!じゃないと・・・ぼ、僕・・・僕は・・・!」
そこまで言うと、相川はハッと我に返ったような顔を見せ、前のめりになっていた身体を元に戻した。
「・・・すみません・・・。興奮してしまいまして・・・。」
「・・・・。」
相川が真っ赤になった顔を覆い、伏せた。しばらくすると二人の食事が運ばれて来て、机の上に置かれた。百合子はフォークを手に取ると、相川に訪ねる。
「・・・どうしてそこまで?」
百合子の問いに、伏せていた相川がゆっくりと顔を上げ、拳をぎゅっと握り、百合子を見た。
「・・・どうしても・・・、叶えたい願いがあります・・・。それを叶えるために・・・。」
「・・・叶えたい願い・・・?」
「・・・はい・・・。」
この男に、無論興味はない。だが、意味あり気にそんなことを言われると、気になってしまうのが人間である。
「・・・私と一緒に仕事したら、叶うっての?」
「・・・はい・・・。」
わけがわからず、百合子は眉を顰めた。
「・・・その願いって・・・?」
「そ・・・、それは・・・。・・・い、言えません・・・今は・・・。」
そう言われると、ますます知りたくなる。しかし、長年会社で養われた百合子のプライドが、それを許さなかった。
「・・・ま、別に何でもいいけど。ともかく、私にメリットを与えるなんてことは、あなたにはできないわね。元々欲なんてないし、あったとしても大抵のことは自分で叶えられるから。」
「・・・でも・・・だけど、僕は・・・。」
「申し訳ないけど、私、仕事出来ない人嫌なの。私は時間と価値を何よりも重要視する人間よ。あなたと私ね、最悪の相性よ。コンビなんか組んでも良いことなんてひとつもないわ、だから諦めて。」
相川に言い放つと、百合子はさっさと食事を口に運んだ。相川はまだ、食事には手を付けておらず、ただ皿の上にある食事をじっと見つめていた。やがて百合子の食事が終わり、「じゃ、お先に。」と席を立とうとする百合子を、立ち上がって相川が呼び止めた。
「・・・どうしても・・・ダメですか・・・!?」
相川の瞳は、怯えながらも、ひた向きに百合子を捕えていた。
「・・・どうしても、ダメ。そう言ったら、諦める?」
「・・・えっ、・・・いや・・・。・・・いいえ、諦めません・・・!僕は、それだけ瀬尾さんのことを尊敬しています!それに僕、臆病ですが、立ち直りは早いと思いますので・・・!」
すぐに消え去ると思っていた彼の熱意が以外にも失われていないことに、ほんの少しばかりだが、百合子は感心を覚えた。
「・・・私ね、しつこい人も嫌いなの。」
「あっ、す、すみません・・・。」
しゅんとなる相川を背に、百合子が会計を済ませ、扉に手をかける。カランコロンと、扉に付けられた鐘が音を立てた。外へと足を踏み出す前に、百合子は立ち止まると、相川へと声をかけた。
「・・・あなたの願い、教えてもらうわ。」
「・・・・・・え?」
鈍い速さで、相川がその言葉に反応する。百合子は顔を後ろへゆっくりやると、再び言った。
「私とコンビを組む条件。あなたの願いを教えてもらう。・・・それなら、引き受けてもいいわ。どうする?」
「・・・・・・へっ?」
「しつこい人間は嫌いなの。だから防衛線を張っておかないと、後々厄介だから。」
「・・・あ・・・あ・・・。」
「ただし、やっぱり使いものにならないと判断したら、容赦なく見切りをつけるからね。」
「やります!やりますやります!!ありがとうございまぁーっす・・・!!」
店内中の客の注目を一気に集め、小躍りしそうな相川を扉でシャットアウトすると、百合子は急いでオフィスへと足を向かわせた。

自分でも不思議だった。最初は問答無用で断ろうと決めてかかったのに。だけど興味が湧いたのだ。
自分とコンビを組むことで叶えられる、彼の願いとやらに。

「・・・ね、彼の瞳、いいよねぇ。魔法にかかっちゃった気分しない?」
オフィスに戻り、即行で浜田部長の元へ行って抗議しようとした百合子の聞いた彼の第一声が、これだ。
「・・・気分しない?じゃないですよ部長・・・。」
浜田部長には、調子を崩される。戦闘態勢に入ろうとするこちらがいつもバカを見るのだ。
「まぁまぁ、瀬尾くん。三ヵ月の間だけなんだし、彼、いい子だから、ね。」
「いい子だからと言うだけでは、会社では通用しません。」
「でも、引き受けちゃったんでしょ?」
「・・・・・・・。」
「仲良くね、フフ。」
なんだかまんまと浜田部長に嵌められた気分である。部長は、相川をあそこに寄こせば、百合子がイエスを与えると知っていたかのようである。
ともあれ、こうして百合子は、自分と最悪の相性の人間と三ヶ月の間、行動を共にすることになったのである。

「遅い。」
仁王立ちの百合子の前に、汗だくの相川が前屈みで息を切らしながら足を止めた。
「ハァハァ・・・、すっ、すみません・・・、いつもより早く起きるって、思ってたより難しくって・・・。」
「言い訳は結構。いい?私と組むってことは、どんな言い訳も通用しないと思いなさい。さっさと席ついて、
原稿、昨日言った手順で、優先順位の高いものから仕上げて持って来て。」
「・・・あ、は、はい!」
「返事の前に“あ”を付けない!」
「あっ、はい!・・・あっ、すみません!・・・あっ・・・。」
「・・・ハァ・・・。」
最悪のコンビ結成初日。早速、前途多難の兆候が多分に過る百合子であった。
その日から、オフィスに響く百合子の声と、相川が頭を下げる姿を見ない日はなかった。
相川を気の毒そうに見る社員たちとは逆に、浜田部長はいつも笑顔で二人を見つめていた。

そんな調子で、コンビ結成から一週間が過ぎた夜。暗がりの中、とぼとぼと家路に着く百合子の姿があった。
時刻は21時を回っている。常に18時の定時終業を守っていた百合子にとって、すでに3度目のルール違反である。あらかた予測していた通り、相川はともかく仕事が遅い。彼の性格上、きっちり仕事をこなそうとするためなのだが、そのきっちりに無駄が多いのだ。そのために引き起こされるミスは、その8割が時間によるものであった。
その無駄を百合子が黙っているわけはなく、何度も省くよう細かく指示をするのだが、やはり、性格と言うものは自分を表現する揺るがないものとだけあって、直る気配はない。
こうなることはわかっていた。しかし、甘かった。自分が教育すれば、変わると思った。けれどもどう転んだところで、人は変えられないのである。
一連の出来事を思い出すと腹が立ち、百合子の足が早まる。こうも自分を苦しめるとは、さすが、最悪の相性である。やはり無理なのだ、そんな相性でコンビを組もうなどと言うのは。誰が好きでこんなにも合わない相手と交わると言うのだろうか。
そう思った時、ふと過った記憶が百合子の速まった足を緩めた。

「ねぇ、結婚て、自分と相性が最悪な人とするらしーよー?」

頭の中で鮮明に響いたその声は、昔の友人のものであった。

* * *

「・・・はぁ?なんでよ、一生一緒にいようって相手なのに、そんな人選ぶわけないじゃない。」
「そーなんだけどね~、だけど、恋は盲目って言うじゃない?盲目にさせといて、最悪な相性の相手を選ばせるんじゃな~い?」
「・・・だからなんで。」
「ん~?えっとぉ・・・、確か、自分を成長させるためだって。」
「・・・成長よりも、最高の相性の相手と楽しい日々を送りたいわね。」
「だ~よね~。ま、ほんとかどうかわかんないし話だけどね~。フフッ。」

* * *

・・・最悪の相性。もし彼女の言うそれが無くはない話だとすれば、たまったものではない。百合子の相手は、相川みたいな人間だと言うことになる。
背筋に寒気を感じると、百合子は、この奇妙なコンビを早々に解散に導く決意をした。決意をしたのだが、まだ気になることが残っている。そう、相川の願いである。ここまで引っ張っておいて聞かずに終わるのでは腑に落ちない。よし、相川の願い事を聞き出してから、解散しよう。百合子はそう決意し直すと、再び足を速めたのであった。

「どうしたんですか?瀬尾さんから飲みに行こうなんて!」
「・・・えっ?ああ、いや、その、あなたなりに頑張っているようだし、少し労ってあげてもいいんじゃないかと思ってね。」
百合子と相川は、洒落たレストランバーの片隅の席に落ち着いていた。身銭を切るのだ、なんとしてでも目論み通りに事を運ばなくては台無しである。ここはひとつ慎重に・・・と、行きたいところではあるが、百合子のせっかちな性格がそれを許さなかった。
「で、相川くん。あなたの願いってなんなの?」
「へっ!?」
唐突の質問に、相川が箸を止める。そしてあっと言う間に顔を赤くした。
「ななな、なんでですかそんな唐突に・・・!」
「いえ、別に。そんなに引っ張るものでもないんじゃないかと思って。」
淡々と返す百合子とは真逆に、相川の言動はたどたどしい。
「・・・ま、まぁ、そうですけどでも、今じゃなくても・・・、この企画が終わる頃に言いますよ・・。」
「それじゃ遅いのよ。」
「・・・えっ、な、なんでですか・・・?」
思わず、強くなった口調に百合子がハッとなる。
「・・・あ、いえ、ほ、ほら、これからもっと忙しくなると思うのよ、今のプロジェクト。だからこうしてゆっくり食事できる時間も無くなると思うし、せっかくだから忘れないうちに聞いておこうと思って。」
「・・・は、はぁ・・・。」
「さ、だから教えてちょうだい。聞いたところで誰かに言いつけたりなんてしないわよ、ね?」
「は、はぁ・・・。」
急かす百合子に、変わらずぎこちない態度で相川が応じる。食事を口に運ぶことも出来ず、ただ俯いて顔を赤くしていた相川だが、やっとのことで顔を上げると、百合子を見つめ意を決したような顔をした。
「・・・わかりました。・・・けど、僕の願いを言う前に、瀬尾さんに・・・ひとつ聞きたいことがあります・・・。」
「・・・え?私に?・・・いいけど・・・、何?」
百合子が承諾すると、相川は持っていた箸を置き、両手を膝に付いた。
「・・・あの・・・。」
言葉に助走を付けると、相川は声を発した。
「・・・あの、瀬尾さん、今年の春の新入社員歓迎会のこと、覚えてますか・・・?」
百合子が目線を左上に上げる。
「・・・今年の春・・・、歓迎会・・・。」
次の瞬間、百合子の顔がサーッと青ざめた。そして大きく見開いた目で、相川を見つめた。
「・・・わたし・・・なにかしたの・・・?」
「・・・やっぱり・・・、覚えてないんですね・・・。瀬尾さん、“私もう、一生結婚なんてしない”って言ったこと・・・。」
相川がハァと大きなため息を吐いた。
「・・・・・。」
相川の言った通り、百合子はその時の記憶を失っていた。百合子は酒を浴びすぎると記憶を失くしてしまうのである。それ故、酒との付き合い方は慎重にしていたのだが、その時は色々な事情が重なってしまい、ついに自身の臨界点を突破してしまったのである。そして目が覚めた時は、自宅リビングのソファに横たわっていた。無論、それまでの経緯など知る由もない。記憶を失った空白の時間のことを思うと、百合子は項垂れた顔を持ち上げることが出来ず、二度とやるまいと誓ったのである。
無言で皿の上を見つめる百合子を見ながら、相川は再び箸を手に取り、料理へと伸ばした。
「・・・方向が同じだったので、僕が瀬尾さんをタクシーで自宅の前まで送って行きました。その時に瀬尾さん言ってました。“私は一生結婚出来ない”って・・・。」
「・・・・・・・・。」
沈黙し、膝の上で両手を密かに震わせる百合子を気にしながらも、相川が続けた。
「“こんな可愛げのない女なんて、誰も好きになってくれない。愛される自信がない。だからひとりで生きて行くって決めた”って・・・。」
俯いたままの百合子の、ギュッと握りしめた掌からは、じんわりと汗が滲んでいた。
顔を、上げられなかった。相川が今言ったことは、百合子が無意識に、常日頃から思っていることだった。
こともあろうにその心の声を、一番聞かれたくない相手に聞かれてしまったのである。
「・・・覚えてないとは思ってました。瀬尾さん、次の日、まったくそんな素振り見せなかったから・・・。」
もはや百合子の頭の中では大洪水が起きて、ありとあらゆる堤防が決壊してしまったかのようである。
恐らく、相川の言っていることは真実だろう。百合子は以前にも同じように記憶を失い、同じような発言をしていたことを友人から聞いていた。俯いたままの百合子に気遣いながらも、相川が質問を投げた。
「・・・あ、あの、瀬尾さん・・・、どうしてそんなこと思っているんですか?」
思わぬ質問を相川が投げ、思わず百合子が顔を上げる。
「・・・ずっと聞きたいと思ってました。瀬尾さんは、仕事が出来て、自信に満ち溢れている人だと思っていました。だけど・・・、本当のあなたは・・・もしかしたら違うのかなって・・・。僕から見たら、いえ、社内の誰もが、あなたのことを優秀で素晴らしい人間だと思っているはずです。・・・だから、不思議なんです。どうしてあなたみたいな人が、そんな後ろ向きなことを考えているんだろうって・・・。」
相川の瞳はまっすぐで、光を帯びていた。その目に見つめられた百合子は、浜田部長の言葉を思い出した。
・・・なるほど、確かに彼の言うことは一理あるな、と百合子は溜め息を吐いた。そして魔法にかかったように、今まで力が入っていた肩をゆっくり下ろすと、何かを手放したかのような、今までとまったく違った表情を見せた。
「・・・自信なんて、ないわ。・・・昔からね。」
口を開くと、百合子はコーヒーカップに手をかけた。
「私ね、姉がいるんだけど、すごく美人な姉でね。それでいて頭も良くて、誰からもちやほやされてた。何人恋人が変わったかわからないくらい男性とも付き合いがあったし。
・・・姉と比べて私は、顔も良くなければ、成績も秀でてるわけじゃない。両親は子供の私でもわかるくらい、姉を贔屓して可愛がった。神様って、なんて不公平なことするんだろうなって思った。・・・だから、誰も助けてなんてくれないんだから、自分ひとりで生きて行く力を身につけなきゃって思ったの。」
口にコーヒーを含むと、百合子はカップを机に戻した。
「・・・あなたの目に映ってる今の私は、嫌いな自分を覆うための偽りの私よ。本当の私は・・・、姉と比べることばかりして、自分なんかダメなんだって思ってる、卑屈でコンプレックスの塊の人間なのよ・・・。」
百合子の話を、相川はただ黙って聞いていた。頷くでもなく、ただじっと黙って、まっすぐな目を百合子に向けていた。そしてそのまっすぐな瞳のまま、百合子に向かって口を開いた。
「・・・そんなこと、ないです。あなたは・・・素晴らしい人です。」
「・・・よして、同情なんて。」
「同情じゃないです。ほんとにそう思ってるから言ってるんです。・・・僕、正直最初はあなたが怖かった。
きっと僕みたいに出来ないヤツなんかの気持ちがわからない、鬼のような人なんだろうって思ってました。・・・だけど、あの時、タクシーであの言葉を聞いてから・・・、あなたの見方が変わりました。“あの人も僕と同じなんじゃないか”って・・・。僕と同じで、コンプレックスを抱えながら、それでも一生懸命生きているんじゃないかって。」
百合子の瞳が微かに揺れた。百合子から目線を逸らし、少し照れたような表情をすると、相川は更に言葉を続けた。
「・・・あの日から瀬尾さんを自然と目で追うようになると、わかったことがたくさんあって。
あまり他と交流を持たない人なのに、給湯室でお湯が足りなかったら事前に沸かしておいてくれたり、洗いかけのままの食器があったら片づけておいてくれたり、コピー機の紙を使いやすいように近くに置いといてくれたりとか・・・、瀬尾さんの素敵なところをたくさん見つけたんです。」
「・・・・・・・。」
思いがけず自分をよく見られていることに、百合子は驚いた。自分としては何の気なしにやっていただけなのに、それが相川の目に止まっていたことに照れ臭さを覚え、顔を伏せた。
「・・と、ともかく、私はほんとはそんな人間なの。だから・・・。」
そこで言いかけると、百合子は再び顔を上げ、続けた。
「・・・だから解散しましょう、このコンビ。」
「・・・えっ?」
さり気なく微笑むと、百合子は相川を見た。初めて、会社の人間に本当の自分のことが言えた。ただそれだけのことなのに、百合子の胸は久しく充足感でいっぱいだった。不思議な感覚である。だからもう、相川の願いのこともどうでもよくなっていた。
「さっき聞いたでしょ。私は素晴らしい人間じゃないし、あなたのことを育てられるような器量も持ってない。この1週間でわかったの。それで、さっき部長に話して来たら、“相川くんがイエスなら解散してもいい”って言ってらしたから・・・。」
「好きです!」
「・・・は?」
「あっ・・!いや、その・・・!間違えました・・・!嫌です!」
「・・・嫌ですって・・・、このまま私とコンビを組んでも、あなたには何のプラスにもならないのよ?だからこうして・・・。」
「・・・いや・・・!やっぱり間違ってません・・・!す、・・・好きです!!」
「・・・相川くん?あなた何言ってるの?」
「ぼ、僕は、せせせ瀬尾さんが・・・すす、・・・・・・・・・好きです!好きなんです・・・!!」
石炭をめいっぱい積んだ機関車のような勢いで、相川が叫んだ。しん・・・と店内が静まり返る。レストランの従業員、そして店内客の注目が一気に自分たちに向いていると察知した百合子は、完全に冷静さを取り戻し、相川に言った。
「・・・相川くん、店、出ましょう。」

店を出たふたりは、前後に微妙な距離を保ちながら、街灯がちらほら灯る夜の街を歩いていた。
突然過ぎる告白をまだ消化できず、百合子は、ただぼーっと空を見上げながら歩いていた。
その後ろを、何とも言えないような顔つきでそろそろと相川が歩く。店を出てからふたりの間に一切会話はなかった。
やがて、長い沈黙を破ったのは、相川である。
「あ、あの・・・。」
百合子の背中に声をかけると、相川は立ち止まった。おもむろに、百合子が振り向く。
「・・・あの!きょ、今日は、ご馳走様でした・・・!あの、色々とご迷惑をかけるようなことを言ってしまって・・・すみませんでした・・・。」
潤んだ瞳で、相川が百合子を見る。百合子は微動だにせず、相川を見ていた。
「・・・今日のことは、すべて忘れてください。それと、僕は・・・、出来たらこのまま瀬尾さんとのコンビを続けたいです・・・。至らないところばかりで迷惑かけているのは重々承知ですけど、だけど・・・それでも僕は・・・。」
「・・・あなたの願いって・・・なに?」
「・・・えっ・・・。」
先ほど聞かれた質問を、再び百合子に投げかけられる。
「・・・・・・・。」
ためらい、地面に目を落とす相川は開いた口をそのままキープした。
「・・・私のこと・・・好きなんでしょう?・・・だったら教えてよ・・・。」
「・・・だから言えないんです・・・。」
言う気がない、とわかり、百合子が片眉を上げる。
「・・・なんでよ・・・、教えなさいよ・・・。・・・どうせ、あなたの言ったことなんて口から出まかせなんでしょ・・・。私のほんとの気持ち知って、おもしろがってたんでしょ・・・。あいつだって・・・、オレと一緒で、大したことないヤツだったんだって・・・!」
「僕は瀬尾さんに幸せになってほしかったんです!」
「・・・うそ言わないで!」
「嘘じゃありません!瀬尾さんの・・・、瀬尾さんの考えていることは・・・、ただの思い込みです!勘違いの、ただの思い込みなんです!」
「・・・は・・・?おもい・・・?」
「だってそうでしょ!?もし瀬尾さんにきれいなお姉さんがいなかったら・・・、瀬尾さんのご両親がお姉さんを贔屓しなかったら・・・、瀬尾さんはそんなこと思わなかったんです!だから勘違いなんです、事実じゃないんです!・・・捨ててください・・・!そんな勘違いの思い込みは・・・!」
ぜぇぜぇと、肩で息をしながら、まっすぐに百合子を見て、相川が訴えた。言われた言葉を受け止めるのが精一杯で、百合子はただ相川を見つめることしか出来なかった。
「・・・な・・によ・・・、なによ・・・、いきなりそんなこと言われたって・・・!勘違いだなんて言われたって・・・!私はずっとその環境で生きて来たのよ?急に変えられる訳ないじゃない!・・・なんなのよあんた・・・、仕事で足を引っ張るわ、・・・いきなり・・・いきなり“好き”だなんて言うわ・・・!」
「いきなりじゃありません!」
「・・・えっ・・?」
「・・・心ん中で・・・、何度も・・・何度も何度も・・・、好きです、瀬尾さん・・・、好きですって・・・!言いました・・・!」
相川の瞳に、いつもと違う輝きが灯っていることを、百合子は感じた。
気づかぬうちに、百合子の頬を伝う熱いものがあった。
「ああ・・っ!す、すみません・・・!」
百合子の涙に、わけもわからずに相川が駆け寄り、謝罪する。百合子は自分でもなぜ涙が出るのか、なぜこんなにも感情が溢れ出てくるのかに驚いていた。
でも、それよりももっと驚いたのは、自分が相川に・・・、この最悪な相性の相手に少しずつ惹かれていると言うことである。目の前でオロオロする相川を前に、ただ泣くことしか出来ずに、百合子はひたすら涙を流し続けたのであった。

翌朝。眩しいほどに朝日が輝く中を、百合子は会社へ向かっていた。一晩眠ると、至っていつもと変わらない日常が訪れ、まるで昨日の劇的な夜が嘘だったかのように思える。鳥の鳴き声、さやさやと揺れる緑。すべてが心地よく、百合子の心を元に戻してくれるかのように響いていた。
ふと、目の前になにやら黒い影が過ぎり、百合子が顔を上げた。
相川だった。目の前にいる彼が、昨夜のことは夢ではないと言うことを実感させた。
相川が、百合子を見て頭を下げた。
「・・・少しだけ・・・、お時間、よろしいでしょうか・・・?」

ふたりは、近くにあった公園に立ち寄った。相川にはいつもの元気がなく、どこかしょんぼりした影が見える。百合子がベンチに座ると、相川は近くのブランコに腰を下ろした。おもむろにブランコを上下に揺らしながら、相川が口を開く。
「・・・あの、昨日は重ね重ね・・・、本当にすみませんでした・・・、生意気なことも言ったし。・・・昨日家に帰って、頭を冷やしました。瀬尾さんが嫌がっているのに、このままコンビを続けたいなんて、勝手過ぎますね。」
そう言うと、相川は寂しそうな笑顔を百合子に向けた。
「・・・解散しましょう。浜田部長には、僕から言っておきます。・・・瀬尾さん、本当にご迷惑ばかりかけて、申し訳ありませんでした。」
深々と百合子に向かって頭を下げると、相川は立ち上がり、鞄を手に取った。
ゆっくり、自分から離れて行くその背中を、百合子はただ黙って見つめた。そして、相川の姿が小さくなって見えなくなるまで、目を離さなかった。
そして相川は百合子に言った通り、浜田部長に、自分たちのコンビを解散して欲しいと言った。しかし以外なことに、浜田部長の答えは、ノーだったのである。
「・・・え!?なぜです、部長!僕がイエスと言えば、コンビは解散できるって話じゃなかったんですか!?」
前のめりになる相川を、まぁまぁと浜田部長が諌める。
「うん、そうなんだけどね、ほんとは。だけどね、きみ。瀬尾くんが“相川くんからの申し出を断ってください”って言って来たんだから、そりゃあちょっと、無視できないでしょ。」
「・・・え!?・・・せ・・・瀬尾さんが・・・!!??」
顔のパーツが全部ひっくり返るのではないかと言うくらい、相川が驚く。そして、思わず百合子の方に目を向けた。部長は「もうひとつ伝言」と言って、ニコッと微笑んだ。
「15時に第三会議室。」

「し・・失礼します・・・。」
ノックの音を心細く鳴らすと、ドアの向こうから相川が姿を見せた。
すでに忙しなく資料に目を通している百合子が目に入る。
「遅いわよ。早くそこに座って。」
「あっ、は、はい・・・。」
相川は百合子の前に着席すると、そっと百合子を見た。
「はい、この資料とこの資料、地域別に分けて。」
「あ、はい・・。」
資料を分けながらも、相川の目は百合子を追う。
「・・・あの~、瀬尾さん・・・。これはいったい・・・。ぼくたち、解散するんじゃあ・・・。」
相川に聞かれ、百合子の動きがピタッと静止する。そして、ハァ~、と大きく息を吐くと、椅子の背もたれに体を預けた。
「・・・どうしても気になるの。あなたの願いってやつ。」
「・・・え?」
「・・・条件だったものね。最後までコンビを組めば教えてくれるって。」
「でもあの、それは言ってしまったようなもので・・・。」
「・・・嬉しかった。」
「え・・・?」
「・・・ありがとう。」
百合子は目を相川から外すと、窓の外を見た。
「・・・あなたの言った通りかもね。・・・確かに私の思い込みかもしれない・・・、バカみたいな思い込み・・・。」
「・・・瀬尾さん・・・。」
「だからね、私、ちょっと頑張ってみようかと思って。・・・新しい私に変われるように・・・。あなたといると、“本当に価値のあるもの”を見つけられそうな気がするの。・・・ね、手伝ってくれるでしょ?」
相川を見つめる百合子の目は、今までにないほど、優しかった。
「・・・それじゃ・・・、ぼ、僕のそばにいてくれるんですか・・・?瀬尾さん・・・。」
少し震え混じりの相川の言葉に、百合子が更に目を細める。
「いやよ。」
「・・・えぇっ?」
そっぽを向いた百合子が立ち上がり、ゆっくりと相川に近づくと、少しはにかんだような表情で、彼の耳元に囁いた。
「・・・あなたが私のそばにいて。」
最悪の相性、上等である。百合子の心の中で浮かび上がった感情が、言葉になった。
“どうせ成長するのなら、この人だ”、と。





- Fin -
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