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第1章 ニート・イズ・マイライフ
ニートの友達は早口言葉最強おじさんでした
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「あぁぁぁぁ、ダメだ。もう無理。帰ろう」
家から出た途端、サクはその場にへたり込み、両膝と顎で体を支える様に倒れ込んだ。
「何言ってんのよ!まだ一歩しか歩いてないじゃない」
「いやもう無理だって。暑いし。何?この日差し。溶けるんですけど。あ、ほら、もうなんか指とか溶けてきた気がする」
「溶けてない!あれ?いや、ちょっと本当に溶けてきてる?……っていいからシャキッとしてよサク!」
サクの体を揺すると、なんだか本当に溶けてるんじゃないかってくらい抵抗感がなかった。
「ちなみに聞くけど、一体いつぶりに外に出たの?」
恐る恐る聞いてみたが、想像していたよりも衝撃の答えが返ってきた。
「陽の光浴びるのなんて、3年ぶりとかじゃね」
(さんっ……。本当に言ってるのだろうか。この様子じゃ本当だと言われても疑わないな。)
「ねえサクお願いだから立って。一生の……」「わかった!行くぞ!よし行くぞ!」
食い気味に突然元気になり立ち上がったせいで、サクの頭が顎に直撃する。
「いっっったぁぁぁ」
危うく舌を噛み切るところだった。しかしサクは悪いと一言だけ発し、ケロっとしている。
(この石頭。)
ハルはあまりの痛さに座って悶絶している。
「おい、何してんだよ。早く行くぞ。お前のために動いてやってんだからな」
(くっそ。こいつ、いつか仕返ししてやる。)
しばらく歩き、住宅街や商店街を抜けると、街の外壁に着いた。外壁は7、8メートルあるかという高さで街全体を囲んでいる。
その一箇所に大きな門があり、その前に2人の門番の様な人が立っていた。
門番は、2人に通行証を見せる様に促してきた。
強気な態度、警察官の職質を受けているみたいだった。
「通行証?あ、あったなそんなの」
サクがポンっと思い出したと手を打ち、これでもかというほどの無表情で、ハルの方に目をやる。
(いや、まさかとは思うけど……。)
「2年前に切れてるな期限」
(嘘でしょ……。)
と、思ったが、そもそも持っていないという事態を想像していたので驚きは小さかった。
「すまないが通行証の無い者を通すわけにはいかない」
門番は毅然とした態度で答える。
「すまん詰みだ。帰ろう」
即座に踵を返すサクは、なんならどこか嬉しそうだ。
「いや待ってよ。なんとかならないの更新するとか」
「嘘だろ!本当に言ってんのか?それはめんどくさすぎるだろ!」
少し考えた後、また門番の方に向き直り、少し腰を低くした。
「 なあ頼むよ取得はしてるんだからいいだろ?固いこと言うなって」
馴れ馴れしく手を擦り合わせて頼むサクに門番の2人はダメだの一点張りだ。まあ、それが仕事なのだから仕方がない。
「ちっ、わかりましたよ。更新してくりゃ文句ないんでしょ。全くめんどくせぇな」
サクは、また街の方に向き直り、門番が見えなくなるまで睨みながらブツブツと悪態をついていた。
(まったく……。)
「なぁ、もうやめにしねぇ?」
またこれだ。全く聞き飽きたものだ。
一体、何回この言葉を聞いただろう。役所へ向かう道中ずっと言っているのだ。
すると突然、あっ!と何かを思い出した様に嬉しそうにニヤニヤしながらハルを見る。
「な……なに?」
「俺が更新しても、お前この世界で戸籍ないから作れねぇじゃん!残念だったな。あー残念」
1人持っていればいいんじゃないの?と聞いてみたが、そんな訳ないだろと一蹴された。
終わったようだと、諦めて帰ろうとした時だった。
「サクちゃーーん!サクちゃんだが!久々だがやー!」
後ろから大声で誰かが近寄ってきた。
「また、よりにもよってめんどくさいのが」
サクは振り返り、近づいてくる人物を確認すると、何も見なかった様にまた歩き始める。
(え、いや無視ですか?)
そもそも、この人に知り合いなんていたんだと、少し感心する。
「ちょっとサクちゃん無視は酷いが!」
男はサクの元へ走り寄り、その勢いのままガシッとサクの肩を組んだ。
それを「 痛いな」と剥がすサクを、気にもとめず男は矢継ぎ早に話し始める。
「いやーまさか外でサクちゃんに会うなんて、それにしても久々だがやね。何しとるが、こんなところで。あれ?この可愛い子は誰だが?まさか!彼女が!そうねそうね、サクちゃんにもついに彼女がね。いやー、サクちゃんも女に興味あったが。心配しとったんよ。大事にせんといかんよ。でも何故にメイドの格好なんかしとるが?あー、サクちゃんそーいう趣味だが。君も大変だがね、こんなやつの彼女なんて。それにしてもサクちゃん相変わらず変わらんなー。むしろ若返ったんじゃ_」
「ががががうるっせぇな!この早漏野郎!次から次へと、わかったからちょっと黙れ」
「いかんが。女の子の前でそんな言葉使ったら」
完全に置いていかれていたが、こんなにも人間くさいサクを初めて見たハルは、なんだか微笑ましく思い、その様子を黙って見ていた。
「で、君名前は?あ、お兄さんこんな見た目やけど全然怖くないから安心するがや」
突然話を振られて少し戸惑う。たしかに少し見た目は怖い。スーツに、いやスーツというより喪服っぽいが、それに短い金髪を軽く後ろに流し、グラサンという出で立ち。
(うん、確かによく見ると怖いかも。でも話し方などから人の良さは出ていると思う。)
「あ、私ハルって言います。あなたは……?」
「こいつは只の、【早口言葉最強おじさん】だ」
横からサクが口を挟む。
「ちょっと!なんねその紹介の仕方。間違っとらんけど」
早口言葉最強?
「ほら、ポカーンとしとるが」
「隣の客はよく柿食う客だ150回」
サクが前触れなく、突然言い放った。
「はあ、もう相変わらず雑やね。まあいいが。よー聞いといてよ」
男はハルに耳をすます様にと促してきた。
聞いてても無駄だろと言うサクに、水を差すなよと睨むと大きく息を吸い、行くよとハルに合図する。
「_」
(え?)
男は一瞬口を開いたかと思うと、どうよと言わんばかりに腰に手を当て、誇らしそうな顔をしている。
(えっと……なんだ今の?何か聞こえた様な気はしないでもない。音?うん、音だ。音としか言いようが無い。一瞬何かの音が聞こえた。)
全く何が起きたのかわかっていないハルに、サクが説明口調で話し始めた。
「今のがこいつの能力だよ。喋るのがとんでもなく早いんだ。聞き取れなかっただろうが、こいつは今、隣の客はよく柿食う客だを150回確かに口にしたんだよ」
「どこで使うんですか?その能力」
説明を聞き、まず浮かんだのは、そんな単純な疑問だった。
「はは、厳しいなあ。まあこの世界の能力は、ハルちゃんが思っとるような物ばっかりやないが。能力は才能みたいなもんで、例えば運動が得意な奴もいれば勉強が得意な奴、もっと言えば、1つの料理だけは最高のクオリティで作れる奴。そんな感じでピンポイントで何かに長けてる様な能力もあるんよ。まあ、勿論とんでもない能力持っとる奴もおるけど」
そう言いながら、サクの方をチラリと見る。
(そういえば、サクの能力ってなんなんだろう。)
聞いてみようとはしたのだが、サクが「 こいつの名前はエストルドだ」と紹介をすぐさま始めてしまった為、聞くことができなかった。
それに、聞いたらなんだかまた冷たい態度を取られる様な気がした。
これまでサクと一緒に過ごして感じたのは、サクは自分の話になると少し不機嫌そうになるということだ。
「そ!俺はザック・エストルドって言うんよ。トルちゃんでも、ザックンでも、なんでもかまわんよ」
「エストルド……さん」
(いきなりちゃん付けで呼ぶ勇気は無いし、自分がされたら少し気に触るからだ。)
「 恥ずかしがり屋がね。かまわんかまんよ。どうもエストルドさんです」
エストルドは胸に手を当て、ホストの様に深々とお辞儀をする。
「で、こんなとこで何しとるが」
「あ、実は_」
ハルはこれまでの経緯を説明した。
自分がこの世界に突然やってきたこと。サクの家で世話になっていること。これから元の世界に戻ろうとしていること。
「なんや、ハルちゃん人が。……でも、あんまそれは言わんほうがええがね」
「え、どうしてですか?」
「俺みたいに通じる奴も居れば、通じん奴もおるんよ。まあ色々あるが、この世界にも」
(そうか、そういうものなのか。)
1週間過ごした今でも、たまに忘れるのも無理はなかった。普通に接している分には人と非人に何も差を感じないほどだ。
エストルドの言葉に、サクも腕を組みながら頷いている。
そういえば、サクにも、初めて外に出るとき自分が人であるということは言うな、と念を押されていた。
知らない存在というのは、それだけで異形だからと。
「まあでも、そういう事なら俺に任しとき。サクちゃんも1つ貸しやが」
そういうとエストルドはニヤリと不敵な笑みをこぼし、それに反応してサクはチッと舌打ちをした。
家から出た途端、サクはその場にへたり込み、両膝と顎で体を支える様に倒れ込んだ。
「何言ってんのよ!まだ一歩しか歩いてないじゃない」
「いやもう無理だって。暑いし。何?この日差し。溶けるんですけど。あ、ほら、もうなんか指とか溶けてきた気がする」
「溶けてない!あれ?いや、ちょっと本当に溶けてきてる?……っていいからシャキッとしてよサク!」
サクの体を揺すると、なんだか本当に溶けてるんじゃないかってくらい抵抗感がなかった。
「ちなみに聞くけど、一体いつぶりに外に出たの?」
恐る恐る聞いてみたが、想像していたよりも衝撃の答えが返ってきた。
「陽の光浴びるのなんて、3年ぶりとかじゃね」
(さんっ……。本当に言ってるのだろうか。この様子じゃ本当だと言われても疑わないな。)
「ねえサクお願いだから立って。一生の……」「わかった!行くぞ!よし行くぞ!」
食い気味に突然元気になり立ち上がったせいで、サクの頭が顎に直撃する。
「いっっったぁぁぁ」
危うく舌を噛み切るところだった。しかしサクは悪いと一言だけ発し、ケロっとしている。
(この石頭。)
ハルはあまりの痛さに座って悶絶している。
「おい、何してんだよ。早く行くぞ。お前のために動いてやってんだからな」
(くっそ。こいつ、いつか仕返ししてやる。)
しばらく歩き、住宅街や商店街を抜けると、街の外壁に着いた。外壁は7、8メートルあるかという高さで街全体を囲んでいる。
その一箇所に大きな門があり、その前に2人の門番の様な人が立っていた。
門番は、2人に通行証を見せる様に促してきた。
強気な態度、警察官の職質を受けているみたいだった。
「通行証?あ、あったなそんなの」
サクがポンっと思い出したと手を打ち、これでもかというほどの無表情で、ハルの方に目をやる。
(いや、まさかとは思うけど……。)
「2年前に切れてるな期限」
(嘘でしょ……。)
と、思ったが、そもそも持っていないという事態を想像していたので驚きは小さかった。
「すまないが通行証の無い者を通すわけにはいかない」
門番は毅然とした態度で答える。
「すまん詰みだ。帰ろう」
即座に踵を返すサクは、なんならどこか嬉しそうだ。
「いや待ってよ。なんとかならないの更新するとか」
「嘘だろ!本当に言ってんのか?それはめんどくさすぎるだろ!」
少し考えた後、また門番の方に向き直り、少し腰を低くした。
「 なあ頼むよ取得はしてるんだからいいだろ?固いこと言うなって」
馴れ馴れしく手を擦り合わせて頼むサクに門番の2人はダメだの一点張りだ。まあ、それが仕事なのだから仕方がない。
「ちっ、わかりましたよ。更新してくりゃ文句ないんでしょ。全くめんどくせぇな」
サクは、また街の方に向き直り、門番が見えなくなるまで睨みながらブツブツと悪態をついていた。
(まったく……。)
「なぁ、もうやめにしねぇ?」
またこれだ。全く聞き飽きたものだ。
一体、何回この言葉を聞いただろう。役所へ向かう道中ずっと言っているのだ。
すると突然、あっ!と何かを思い出した様に嬉しそうにニヤニヤしながらハルを見る。
「な……なに?」
「俺が更新しても、お前この世界で戸籍ないから作れねぇじゃん!残念だったな。あー残念」
1人持っていればいいんじゃないの?と聞いてみたが、そんな訳ないだろと一蹴された。
終わったようだと、諦めて帰ろうとした時だった。
「サクちゃーーん!サクちゃんだが!久々だがやー!」
後ろから大声で誰かが近寄ってきた。
「また、よりにもよってめんどくさいのが」
サクは振り返り、近づいてくる人物を確認すると、何も見なかった様にまた歩き始める。
(え、いや無視ですか?)
そもそも、この人に知り合いなんていたんだと、少し感心する。
「ちょっとサクちゃん無視は酷いが!」
男はサクの元へ走り寄り、その勢いのままガシッとサクの肩を組んだ。
それを「 痛いな」と剥がすサクを、気にもとめず男は矢継ぎ早に話し始める。
「いやーまさか外でサクちゃんに会うなんて、それにしても久々だがやね。何しとるが、こんなところで。あれ?この可愛い子は誰だが?まさか!彼女が!そうねそうね、サクちゃんにもついに彼女がね。いやー、サクちゃんも女に興味あったが。心配しとったんよ。大事にせんといかんよ。でも何故にメイドの格好なんかしとるが?あー、サクちゃんそーいう趣味だが。君も大変だがね、こんなやつの彼女なんて。それにしてもサクちゃん相変わらず変わらんなー。むしろ若返ったんじゃ_」
「ががががうるっせぇな!この早漏野郎!次から次へと、わかったからちょっと黙れ」
「いかんが。女の子の前でそんな言葉使ったら」
完全に置いていかれていたが、こんなにも人間くさいサクを初めて見たハルは、なんだか微笑ましく思い、その様子を黙って見ていた。
「で、君名前は?あ、お兄さんこんな見た目やけど全然怖くないから安心するがや」
突然話を振られて少し戸惑う。たしかに少し見た目は怖い。スーツに、いやスーツというより喪服っぽいが、それに短い金髪を軽く後ろに流し、グラサンという出で立ち。
(うん、確かによく見ると怖いかも。でも話し方などから人の良さは出ていると思う。)
「あ、私ハルって言います。あなたは……?」
「こいつは只の、【早口言葉最強おじさん】だ」
横からサクが口を挟む。
「ちょっと!なんねその紹介の仕方。間違っとらんけど」
早口言葉最強?
「ほら、ポカーンとしとるが」
「隣の客はよく柿食う客だ150回」
サクが前触れなく、突然言い放った。
「はあ、もう相変わらず雑やね。まあいいが。よー聞いといてよ」
男はハルに耳をすます様にと促してきた。
聞いてても無駄だろと言うサクに、水を差すなよと睨むと大きく息を吸い、行くよとハルに合図する。
「_」
(え?)
男は一瞬口を開いたかと思うと、どうよと言わんばかりに腰に手を当て、誇らしそうな顔をしている。
(えっと……なんだ今の?何か聞こえた様な気はしないでもない。音?うん、音だ。音としか言いようが無い。一瞬何かの音が聞こえた。)
全く何が起きたのかわかっていないハルに、サクが説明口調で話し始めた。
「今のがこいつの能力だよ。喋るのがとんでもなく早いんだ。聞き取れなかっただろうが、こいつは今、隣の客はよく柿食う客だを150回確かに口にしたんだよ」
「どこで使うんですか?その能力」
説明を聞き、まず浮かんだのは、そんな単純な疑問だった。
「はは、厳しいなあ。まあこの世界の能力は、ハルちゃんが思っとるような物ばっかりやないが。能力は才能みたいなもんで、例えば運動が得意な奴もいれば勉強が得意な奴、もっと言えば、1つの料理だけは最高のクオリティで作れる奴。そんな感じでピンポイントで何かに長けてる様な能力もあるんよ。まあ、勿論とんでもない能力持っとる奴もおるけど」
そう言いながら、サクの方をチラリと見る。
(そういえば、サクの能力ってなんなんだろう。)
聞いてみようとはしたのだが、サクが「 こいつの名前はエストルドだ」と紹介をすぐさま始めてしまった為、聞くことができなかった。
それに、聞いたらなんだかまた冷たい態度を取られる様な気がした。
これまでサクと一緒に過ごして感じたのは、サクは自分の話になると少し不機嫌そうになるということだ。
「そ!俺はザック・エストルドって言うんよ。トルちゃんでも、ザックンでも、なんでもかまわんよ」
「エストルド……さん」
(いきなりちゃん付けで呼ぶ勇気は無いし、自分がされたら少し気に触るからだ。)
「 恥ずかしがり屋がね。かまわんかまんよ。どうもエストルドさんです」
エストルドは胸に手を当て、ホストの様に深々とお辞儀をする。
「で、こんなとこで何しとるが」
「あ、実は_」
ハルはこれまでの経緯を説明した。
自分がこの世界に突然やってきたこと。サクの家で世話になっていること。これから元の世界に戻ろうとしていること。
「なんや、ハルちゃん人が。……でも、あんまそれは言わんほうがええがね」
「え、どうしてですか?」
「俺みたいに通じる奴も居れば、通じん奴もおるんよ。まあ色々あるが、この世界にも」
(そうか、そういうものなのか。)
1週間過ごした今でも、たまに忘れるのも無理はなかった。普通に接している分には人と非人に何も差を感じないほどだ。
エストルドの言葉に、サクも腕を組みながら頷いている。
そういえば、サクにも、初めて外に出るとき自分が人であるということは言うな、と念を押されていた。
知らない存在というのは、それだけで異形だからと。
「まあでも、そういう事なら俺に任しとき。サクちゃんも1つ貸しやが」
そういうとエストルドはニヤリと不敵な笑みをこぼし、それに反応してサクはチッと舌打ちをした。
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