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新たな挑戦

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 二日目の終演後。波音は砂紋の姿を観客の中に探したが、どこにも見当たらなかった。改めて礼を伝えたいというのもあるが、求婚に使う道具を波音に渡してきた、その真意を聞きたかったのだ。

(今日は来てなかったのかな……)

 碧が彼を警戒していたのも、気にかかる。兄弟仲については尋ねたことがなかったが、もしかすると、互いにあまりよく思っていないのかもしれない。

 砂紋の方からすれば、碧は十年前に突然できた義理の兄。しかも、その兄は皇族の仕事ではなく、曲芸団に夢中になっているという現状なのだから。

(でも、私が首を突っ込むのは、違うよね)

 家族には、他人には到底理解できない事情が隠されていることも多くあるものだ。碧が話さない限りは、波音も深入りしないことにしている。

 最後の客を見送り、片付けや着替えを終えて、他の団員たちと一緒に稽古場に集まった。恒例のミーティングの時間だ。今週の公演も、どうにか乗り切った。そして、波音は今日こそ、綱渡りを成功させることができた。昨日から引きずっていた暗い気分が、ようやく緩和される。

「アンケートの結果は集計途中だが、まずまずだ。危険な技を外して、安全対策も導入したことで、安心して見られるようになったという意見もあれば、物足りなくなったという意見もある。だが、先週の事故後の対応については、おおむね好評価だった」

 碧の話に、団員たちが互いに微笑みながら頷き合っている。誰もが、観客がどう反応するのか、気になっていた部分だったからだ。

「紫が抜けた綱渡りを、新人の波音に担当させた件についても、好意的な感想が多かった。一部、『プロの人を出してほしい』という意見もあったが、大技を繰り出していた紫がどれほど高い技術を持っていたのか、それはちゃんと観客にも伝わっている」

 団員たちから歓声が上がった。呆然とする波音のところに、アンケート用紙の束を持った滉がやってくる。「読んでみろ」と手渡され、波音は一枚一枚、丁寧に捲りながら読んだ。

『綱渡りの新人さん、とてもよく頑張っていたのが伝わってきました。これからの成長が楽しみです』
『事故に遭われた団員さんが、また華やかな技を見せてくれることを切に願います。彼女の代わりはなかなかいないのですね。新人さん、頑張れ』
『プロの曲芸団をうたっているのに、新人を出すとはどういうことかと最初は思った。けれど、努力の跡が見えて、文句が言えなくなった』

 数枚読み進めただけでも、波音について、それだけのことが書かれていた。碧の思惑通りだ。波音は涙ぐむ。

(もっと、批判されるかと思ってた……)

 努力は必ず報われる、なんて、そんな甘いことは思っていない。だが、観客に想いが伝わってよかったと、充足感で満たされる。堪えきれなかった涙が一粒、頬を伝ってアンケート用紙に落ちていった。
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