水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~

楪 彩郁

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新たな挑戦

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 『月に叢雲むらくも、花に風』とはよく言ったもので。人生、何事もそう上手くいくわけがない。

 練習の甲斐も空しく、翌日の初舞台で、波音は綱渡りに失敗してしまった。観客を前にして怖じ気づいたのもあるが、あと少しで渡りきるというときに、重心が足にずれてしまった。油断が生んでしまった結果だ。

 命綱で吊されていたところから回収され、波音は観客席に深々と頭を下げてから、袖へとはけた。今日の公演の事前払い戻しはほとんどなく、どの観客も、先日の事故から曲芸団がどう挽回してくるのかを期待していたはずなのだ。

(私が、やっぱり無理だって思って、自信をなくしたから……)

 覚悟が足りなかった。波音を信じて、託してくれた碧に顔向けができない。酷く落ち込んだまま、波音が舞台裏に戻ると、阿修羅あしゅらのごとく怒りを表した滉と、仏のように優しい顔をした渚が並んで待っていた。

「お前には失望した。結局、口先だけの女だったな。観客を楽しませられなければ、演者とは認めない」
「はい。申し訳ありませんでした……」
「波音、お疲れさま。腰、痛めてない? 命綱で吊られるのもけっこう痛いでしょ?」
「……ありがとうございます。でも、大丈夫です」

 一度乾いたはずの涙は、再びその流れを取り戻した。鼻の奥が、つんと痛くなって、視界が滲む。今は、優しくされるほうが辛い。滉のように罵ってくれた方が、気が楽だった。

「……お疲れさん」
「っ……碧さん」
「何泣いてるんだ、ばーか」

 ピエロの衣装に着替えた碧が、波音の背後から肩を優しく叩いた。リラックスさせようとしているらしい。

 てっきり、碧も波音を叱責するものだと思っていた。意外な励ましに、波音は更に涙を零す。

「だって……私、失敗しました。あんなに、たくさん……教えてもらったのに……」
「後ろから急かした俺も悪かった。でも、ああでも言わなければ、お前覚悟を決められなかっただろ?」
「……はい」
「後は俺の方でうまくリカバリーしておく。心配するな」

 昨夜と同じく、最後にぽんと波音の頭を撫でて、碧は出演待機の為、舞台袖へと去って行った。

(こういう時に限ってすごく優しいなんて……ずるい……)

 波音と碧のやり取りを見ていた渚と滉は、呆然と顔を見合わせた。碧の対応に驚いたのは、波音だけではなかったらしい。

「波音、あんた……いつの間に碧を懐柔かいじゅうしたの?」
「……え?」
「あんな団長、初めて見た……」
「そ、そうなんですか?」

 波音よりも遥かに長い時間、碧と共に過ごしてきた二人ですら、先程の碧の態度は見たことがないと言う。
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