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壱ノ章:最強の守護霊
第十八話 『優しくて強い母親の存在』
しおりを挟む仏壇に飾られた、優しく微笑む母さんの写真が脳裏に浮かんでくる。
「母さん……ッ…」
『裕也…』
携帯越しに聞こえてくる慎吾の声が、優しく俺の名前を呼んだ。
『――お前の事をとても愛してくれている、優しくて強いお母さんだったんだな』
「うっ…くっ…俺が…っ…!俺が産まれなかったら…っ!母さんは死ぬことはなかった…ッ!俺が…俺が産まれなければ――ッ」
『自分を責めるな、裕也。その言葉は、命を懸けて産んでくれた李南さんに一番言ってはいけない事だ』
「っ…!」
『李南さんの願いを聞いた龍は、これで本当の恩返しが出来る…そう感じて、更に長い年月をかけて龍神になった。そして、自分を助けてくれた李南さんの言付けを守り、李南さんの代わりにお前をずっと護って来たんだ。裕也、お前は龍神様にとって、命の恩人であり龍神様にとって大切な人の忘れ形見だ。お前の成長を傍で見守る事が出来ずに逝ってしまった…李南さんの大切な子供…。そんなお前が、自分を責めたら李南さんはきっと悲しむ』
「慎吾…っ」
『だから、産まれなきゃ良かったなんて…そんな悲しい事を言うな。――お前が李南さんの分もいっぱい生きて、幸せに暮らしていけばいい。李南さんはきっと、お前が幸せに生きる事を願っていると俺は思う…』
「っ…」
慎吾の言葉が、すんなりと胸の中に落ちてきた感じがした。
そうだよな。
俺が今こうして元気に暮らしているのは母さんのおかげだ。
俺が慎吾や昌、裕貴と一緒に楽しく学校生活を送れているのは、母さんが俺を産んでくれたからだ。
じゃなきゃ、みんなと出会える事もなかったし、俺が今ここにいる事だって出来なかった。
「慎吾、教えてくれて…ありがとう」
『あぁ。――俺の方こそ、今まで教える事が出来なくて悪かったな』
俺は慎吾との通話を切り、スマホをテーブルに置くと部屋を出た。
向かう先は1階の、仏壇のある仏間。
何故か、無性に母さんの顔を見たくなった。それと、母さんに言わなきゃいけない事も出来た。
階段を降り、1階の廊下の突き当りにある仏間へと入る。
「母さん」
部屋に入れば、線香の匂いがした。
仏壇前の座布団に座り、母さんが微笑んで写っている写真を見る。
「母さん、話は全部慎吾から聞いたよ。」
誰もいないのに、何故か近くに母さんがいるような気がして、少し緊張しながら写真に向かって口を開いた。
「父さんは、母さんが亡くなった原因は病気だったって言っていた。でもどんな病気だったのか、俺と母さんがどうやって過ごしていたのかは教えてくれなかったんだ。俺と一緒に母さんが写っている写真はたったの1枚。俺が産まれた時の…俺が赤ちゃんの頃の写真しかなかった。――不思議だとは思っていたんだ。なんで俺と母さんが写っている写真はこれしかないんだろうって…」
「でも、慎吾の話を聞いて納得した。父さんが母さんの事を詳しく教えてくれなかったのは、母さんが自分の命と引き換えに俺を産んで亡くなってしまったから…きっと、幼かった俺にそんな事は言えなかったんだろうな」
俺は、仏壇の引き出しに仕舞ってある線香を2本取り出した。
蝋燭に灯されていた火で線香に火を付けると、手で仰ぎ前香炉に線香を挿す。
そして手を合わせながら、もう一度母さんの写真を見た。
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