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壱ノ章:最強の守護霊
第十二話 『浴室の女の幽霊』
しおりを挟む『あアアア…』
そこにいたのは、真っ赤なワンピースを着た髪の長い女だった。
表情から生気は全く感じられない。多分生きている人間じゃない。
目玉は抜き取られたかのように真っ黒で、全身がずぶ濡れの女はゆっくりと俺達の方へと振り返った。
「!!」
「ひッ…!!」
「!?」
女の幽霊は、俺達を見て薄気味悪く笑うと、床を這いずりながら手を伸ばしてくる。
『あ…ア…アア…ア…』
吸い込まれそうに気味の悪い目と声に、俺達3人はまるで金縛りにあったかのように体が動かなくなった。
その瞬間、女の幽霊は物凄いスピードで俺達の方へと向かってきた。
『アア…アアアああああああああああッッ!!』
「なっ…なんだこいつ!!」
「「うわああああ!!!」」
両手両足を地面につき、蜘蛛のような手足の状態で追いかけてくる幽霊に、俺達は浴室の入口へと走った。
なんだあれ!なんだあれなんだあれ!!
あれがここに出るって言う幽霊なのか!?
元々は人間だったはずなのに、あんな風に変わるものなのかよ!!?
『アアアアアゥアァアア!!』
あんなの、ただのバケモノじゃねぇか!!
浴室を抜け、洗面所スペースを抜け、俺達は廊下をひたすら走った。
後ろを見て見れば、廊下に出て来たばかりの女の幽霊と目が合う。
まずい…まずいまずい!!
早く部屋を出ねぇと追いつかれる!!
「一体何なんだよアレ!!」
「あれが噂の女の幽霊なのか!?」
「んなもん俺が知るかよ!!いいから早く走れ!!追いつかれたらどうなるか分かんねぇぞ!!」
赤いワンピースに黒くて長い髪の女…。
ここの廃ホテルに来る間、昌と裕貴が言っていた目撃の多い幽霊の特徴と一緒だった。
もしかしたらあの幽霊が、この場所で殺された被害者の女の人なのかもしれない!
ようやく部屋の入口に辿り着いた。
しかし、部屋を出ようと、昌が扉のドアノブを開けようと回してみても何故か開かない。
「くそッ!!さっきまで普通に開いていたのに、なんで開かねぇんだよ!」
「昌!早く開けろよ!このままだと追いつかれるってば!!」
「分かってるよ!!そんな事言ったって、いくら回してもドアが開かねぇんだよ!!」
「はぁ!?嘘だろ!?」
「クソ!クソ…!!何がどうなってんだよ!!」
扉を開けようと必死な2人を押しのけ、俺は扉に体当たりをしながら思いきり扉を叩いた。
「チッ!びくともしねぇ…!誰か!!誰か助けてくれッ!!昌!裕貴!近くにドアノブをぶち壊せそうなものがないか探してくれ!」
「お、おう!!」
「分かった!」
「俺は何とか扉が開かないかもう一度――」
「ゆ、裕也ぁ…」
背後で裕貴の泣きそうな声が聞こえて振り返る。
「裕貴、どうし――っ!!」
『フフフフ…』
裕貴と昌の視線の先には、四つん這いになった女の幽霊の姿があった。
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