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第4章:ふたりの想い、消えゆく笑顔
191話
しおりを挟む“あの時の記憶”を完全に消去し、植物状態から意識がはっきりするのに2か月と10日。
ちゃんとご飯を食べることが出来たのは1か月後。
龍司を認識するのに1か月。
話すことができるのに3か月。
湊が普通の人と同じく感情を表し、ご飯を食べ、人と言葉のキャッチボールをできるようになったのは、それから10か月を過ぎた時だった。
ご飯をちゃんと食べられるようになれるまでは、栄養剤を点滴で体内に取り入れていたため、ご飯を食べた時は急激な固形物の摂取に何度も嘔吐を繰り返し、毎晩のように悪夢にうなされていた湊の姿はとてもじゃないが見ていられなかった。
(龍司様は、湊様が再びあの時の記憶を戻すようなことがあれば、次こそ湊様の心は崩壊すると仰っていた…)
(でも…そんな事は俺がさせない。
必ずお護りしてみせる。
龍司様も、湊様の心も―――)
ルカの涙はいつの間にか止まっていた。
体を包み込んでいた湊の腕をゆっくり放し、立ち上がる。
「…湊様。俺はもう行かなければなりません。セリを呼んでまいりますので、少々お待ちください」
「わかった。…ルカ。龍司をよろしくね」
「はいっ」
ルカがふわりと湊に笑顔を向けると、そのまま部屋を出た。
「ふぅ…」
閉めた扉に寄りかかりながら出てきたのはため息だ。
「…セリ…」
気配を感じて顔をあげれば、向かいの壁に寄りかかるようにしてセリが立っていた。
朝に着ていた戦闘服ではなく、いつもの見慣れた白衣姿だ。
皺のない真っ白の白衣の中は、淡いピンクのワイシャツ、黒のタイトスカートを穿いていた。
スカートから伸びるセリの細くて長い脚が前でクロスされている。
胸元まで開いたシャツから見えるのは、女性特有の大きな胸―――ではなく、真っ平ら筋肉質の胸だ。
いつもなら、本物の胸のようなシリコン胸を入れているはずなのだが、今日は何もしていないようだ。
それでもセクシーで魅力的に見えるのは、その抜群のスタイルと容姿の美しさだろう。
腰まである長い金色の髪は、後ろの高い位置で結わえられていて、腕組みをしたまま伏せられていた視線が静かに上げられる。
青みがかった切れ長の瞳は、ルカの姿を捕らえると笑みを浮かべる。
「…話は済んだ?」
「…一応な。…それよりもセリ、立ち聞きは良くないぞ。俺だけならまだしも、湊様も一緒だったんだ」
「…あら?あなたの代わりに湊様の護衛をすることになったから、部屋に来るように言ったのはあなたでしょう?時間になっても出てこなかったから、ここで待っていたんじゃない。立ち聞きなんて心外だわ」
最もなことを笑顔で告げられれば何も言い返せない。
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