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第4章:ふたりの想い、消えゆく笑顔
189話
しおりを挟む「―――ルカ、顔上げて?」
「っ…」
湊はルカに優しく声をかけると、ルカの拳に自分の手を重ねる。
「…わかった。俺の気持ちは龍司を助けに行きたい…それは変わらない気持ち。…だけど、俺が行ってもルカ達の足手まといになることは分かってるんだ」
「っ…足手まといなんてそのような事はっ!」
「ルカ!聞いて」
「……っ!」
「必ず…――必ず龍司を助けて」
(お願い)
「勿論です、龍司様は必ず自分達が助け出して見せます!!」
湊の手を握り返したルカが顔をあげると、真っ直ぐに湊を見つめる。
(やっぱり綺麗な瞳…)
(龍司とはまた違った宝石のような綺麗な瞳――…だけど、強い意志が込められた瞳)
しかし湊は、ルカの言葉に素直に頷くことが出来なかった。
龍司だけ無事に戻ってきてほしいなどと微塵も思っていないからだ。
「…ルカ。大事な事だからもう1回言わせて?俺は龍司だけ無事に帰ってきてほしい訳じゃない。ルカや他のみんなにも無事に帰ってきてほしいんだ」
「せっかく出会えて、こうやって友達にもなったのに、仲良くなったのに、そんな自分はどうでもいいみたいに言われると…そんなの俺が嫌だよ。悲しいよ」
「っ…!湊様…はい…。申し訳ございません…」
ルカの瞳が一瞬見開くと、震えた声で答えた。
再び下を向いたルカからは、ポタポタと水滴が床に滴り落ちていた。
止まることない涙は、次第に乾いた床を濡らしていく。
湊は優しく微笑むとルカを抱きしめた。
細身だけど湊の体つきとは違い、少し硬めの無駄な肉が付いていないルカの体を優しく包み込む。
「龍司も、ルカもアキさんもゼロさんも…必ずみんな無事に帰ってきてね。…龍司が今どんな状況か、これから行く所がどんな危ない所かはわからないけど…でも…気をつけて」
「…はい…っ」
ルカは涙を流しながら静かに目を閉じる。
湊の温もりが全身を包み込んだ。
その温かさは、冷え切ったルカの心を包み込むのには十分で、たった一言の言葉で救われたような気がした。
龍司に救われた時と同じ――そう思った。
(湊様は、龍司様だけではなく、こんな俺の事も救ってくださるのか…)
(ただの殺人兵器でしかない…血の匂いが体に染みついている俺の事までも…)
(湊様…)
(俺が必ず…)
「必ず龍司様をお助けします。そして、みんなで必ず湊様の元に戻ってきます」
「うんっ」
湊を抱きしめ返そうと背中に伸ばしたルカの手は、寸前で止められた。
汚れている自分は湊に触れてはいけない。
そう思ったら触れることは出来なかった。
湊本人に言えば、きっと『そんなことない!』って怒られることだろう。
例え湊自身が気にしないとしても、ルカが気にしてしまうのだ。
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