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第4章:ふたりの想い、消えゆく笑顔
187話
しおりを挟む『チッ!!…やっぱりそうなったか…ッ!』
ルカの言葉に、不機嫌丸出しになったゼロが舌打ちをする。
『やっぱり、そうなりましたか…』
怒りを含んだアキの声が続けて聞こえてくる。
『…あンの糞アマが………よくも…』
ぐしゃりとなにかを握りつぶしたような音と同時に聞こえてきたセリの低い声。
予想通りの3人の反応に、苦笑したルカの表情がすぐに仕事モードのの顔つきに戻った。
可愛らしい顔にそぐわない、怒りの感情を微塵も隠そうとしないその表情からは、素人の湊でさえも分かるほどの殺気が放たれていた。
「予定通り、プランAの作戦実行に移る。――各自直ちに準備に移ってくれ」
『分かっている』
『了解です』
『オッケーよ』
ルカはそれぞれの返事が聞こえると通話を切った。
ふぅ…小さくため息をついたルカは、不安げな表情を浮かべる湊に優しく微笑んだ。
「湊様、今――…」
湊を安心させるために、龍司の元に向かう事を伝えようとした所でルカは言葉を詰まらせ、目を見開く。
「湊…様…」
視線が合えば、純粋で穢れのない太陽のような湊の瞳に目を奪われる。
「っ…」
ルカの考えなど全てお見通し…そう言われているようで、思わず息をのんでしまった。
「ルカ…?」
不思議そうに首を傾げながら名前を呼ばれて、ハッとして頭を下げる。
「湊様、これから自分は龍司様を助けに行ってきます。少しの間、湊様の護衛はセリが引き継ぎますので―――」
「俺も行く」
「駄目です!!もし、湊様の仰った通り、龍司様が危ない状況下にいるのだとしたら、龍司様がいる場所は安全とは言えません!!大丈夫ですから、湊様はここでお待ちください!龍司様は簡単にやられる御方ではありません。そんな龍司様が危険に晒されていると言う事は、余程の手練れか…物理的に何かをされたとしか考えられません。ですから、そんな危ない場所に湊様を連れて行く訳にはいきません!!絶対に」
「お願いルカ!俺なら大丈夫!ルカたちの邪魔になるような事は絶対にしないから!俺も連れてって…!お願い…っ」
「駄目です!!これだけは何度も口うるさく言わせていただきます!!…どうかご理解ください。自分は龍司様と約束したんです。必ず湊様を守るようにと」
「っ…!!」
ルカの表情が辛そうに歪んだ。
唇をかみしめながら視線を落とすと、色白で細いルカの腕が視界に入る。細くて綺麗な手なのに、痣と傷がたくさんあった。
一体どんな事をすればこれだけの痛ましい腕になるのか。
これまでのルカの苦労や痛みが垣間見えた気がして、胸が締め付けられるような気持ちになった。
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