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第4章:ふたりの想い、消えゆく笑顔
176話
しおりを挟む龍司は並べられた食事に視線を戻すと、ほのかに湯気が立ったミネストローネスープを掬い、喉に流し込む。
(味は悪くない)
(悪くはないんだが…味付けがしっかりしすぎている。家庭で、ましてや素人が出せる味ではない気がする)
(これは市販のものだろうな)
「いかがですか?」
不安げに見てくる七瀬の表情に、龍司はにこりと微笑んだ。
「あぁ、美味しい。…他のも食べていいか?」
「本当ですか!?えぇっ、もちろんです!私もいただきますから一緒に食べましょう」
嬉しそうな表情を浮かべた七瀬が、龍司と向かい合わせになるように座る。
スープ以外のオムレツやサンドウィッチも口に運んでいくと、並べられた食器はあっという間に殻になった。
「ご馳走様。どれも美味しかった、ありがとう」
上辺だけの笑顔を張り付けて、手を合わせる。
不安げに揺れていた七瀬の瞳が大きく開いて、嬉しそうに微笑んだ。
「よかった!龍司様のお口に合うか心配だったので、全部食べていただけて嬉しいです!」
空の食器を重ねながら七瀬が言った。
重ねた自分の食器に龍司の食器も重ねていきお盆に乗せる。
「今、食後のコーヒーを持ってきますね!」
スリッパを鳴らしながら七瀬はキッチンの方へと歩いて行った。
湊とさほど変わらない七瀬の後姿を、龍司はじっと見つめる。
「やはりお前にはなんの感情も湧かないよ、七瀬」
ぐらり…突如龍司の視界が歪んだ。
「っ…」
車に乗っていた時と同じような眩暈が襲ってくる。
「またか…っ」
(なんなんだ一体…)
車の中で襲ってきた眩暈はすぐに引いたため、もう治まったと思っていた。
だけど今回の眩暈はさっきのものと少し違う。
症状が悪化しているように感じるのだ。
七瀬の後ろ姿が、壊れたビデオテープが再生されたように二重になって歪む。
まるで、世界が回っているような感覚に陥ってしまってすぐに手で両目を覆った。
しかし、眩暈は一向に治まる気配はない。
同時に頭痛までが龍司を襲う。
耐えるように歯を食いしばるも、頭痛は次第に激しくなっていき、座っているだけでも辛くなってきてしまった。
「……う…っ…はぁ…はぁ…ッ」
今まで休暇を取らずに仕事を連日していた日なんて数えきれないほどあった。
寝不足による軽い眩暈は何度も体験しているが、ここまで症状が悪化したのは初めてだ。
激しい頭痛と眩暈に追い打ちをかけるように、吐き気がこみ上げてくる。
(気持ち悪い…吐きそうだ…ッ)
過労でこれほどまで症状が悪化するのかと深呼吸を繰り返しながら、症状が良くなるまで耐える。
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