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第4章:ふたりの想い、消えゆく笑顔
175話
しおりを挟む「龍司様こちらですわ!まず朝ご飯にしましょう?家を出る前に作っておりましたので、温めればすぐに食べられますわ」
座って待っていてください。
笑顔で言ってきた七瀬が、パタパタとスリッパを鳴らしながらリビングの方へ小走りで向かっていった。
龍司は、言われた通りダイニングテーブルへ座る。
1人や2人では大きすぎるテーブルの中央には、ピンクの胡蝶蘭の花が束になって花瓶に生けられていた。
(胡蝶蘭か…)
(確か花言葉は“あなたを愛します”だったな。…随分と用意周到な女だ。こんな意味深な花まで用意して…)
「どんな事をしようと、何もかも無意味だというのに」
思わず言葉に出してしまった。
「龍司様。どうかなさいましたか?」
お盆に乗った食器を持ちながら戻ってきた七瀬が聞いてくる。
「いや…なんでもない」
サンドウィッチとスープ、オムレツとサラダが盛り付けられた食器が次々とテーブルに並べられる。
洋風な朝食は、まるで店で出てくるように見た目も盛り付けも、とても綺麗で美味しそうだった。
温めなおしたとは思えない程良い香りと、出来立てを感じさせる見た目。
湊と暮らしていて、朝もしっかりと取るようになっていたため、いつもならお腹が空くはずなのに、不思議なくらいに食欲はない。
(湊と朝食を食べる時は、そんな事ないんだがな)
並べられた食事を見ながら、ふいにそんなことが脳裏に浮かんでしまう。
思わずテーブルに並べられた食事から目を逸らしてしまった。
「龍司様、温かいうちにどうぞ召し上がってください。お料理は龍司様と結婚しても恥ずかしくない様に、昔からずっとしていましたから得意なの」
「あぁ、悪い。そうだな、温かいうちに頂くとしよう」
料理が得意?
その割にはさっきキッチンの傍を通った時、料理をしている感じはしなかった。
シンクに洗剤もなければ布巾や調味料、調理器具も置いていない。
仮に片付けているとしても、洗剤や布巾くらいは置くと思うが…。
自らも料理が好きで料理をすることが多い龍司の自宅でさえ、シンクまわりには色々と置いてある。
全て作ったと言えばそうかもしれないが、買ってきてそのまま出しても分からないようなものばかりだ。
買ってきて、さも作ったかのように盛り付けている可能性もあるし、誰かに作らせている可能性だってある。
今まで一度も、“料理が得意”と言う話を聞いたことがないのが、彼女の言葉を信じきれない理由だ。
(信用した奴以外の料理は何が入っているか分からないから、湊とうちの会社のシェフであるナナが作った料理以外はあまり口にしたくないんだが…我慢して食べるしかないな)
七瀬が見ている手前、出された料理を食べないわけにはいかない。
それに今は、“結婚をしている設定”だ。
食べる以外の選択肢はない。
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