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第4章:ふたりの想い、消えゆく笑顔
159話
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翌日。
龍司は、社長室の奥にあるベッドルームで1日分の荷物をボストンバッグにまとめながらため息をついていた。
アキと話をした後、そのまま自宅マンションに帰り、必要な衣服をまとめてすぐに会社へと戻っていた。
そして、残っていた仕事を全て片付けた。
本当は七瀬の依頼が終わってからでも十分に間に合う仕事もあるのだが、七瀬の依頼が終わった後はすぐに湊に会いに行きたかった。
数日会えない分、湊と二人きりの時間を楽しみたい…。仕事が残っていると、心の底から湊との時間を過ごせないからだ。
それに、“結婚ごっこ”の日は、丸一日会社を空けることになる。
アキに全ての業務を任せると言っても、残っていた仕事の他にもアキでは対応しきれない仕事はたくさんある。
アキが対応できない仕事も含め、全てを片付けなければ、後に会社に影響が出てくることになる場合もあるかもしれない。
龍司はボストンバッグのチャックを閉めると、クローゼットから白のインナーと黒のパンツを取りだした。
仕事上いつも身に纏う服装と言えばスーツしかない龍司にとって、スーツ以外の服を着るのはどのくらいぶりだろう。
考えてもすぐには思い出せない程には昔だ。
久しぶりに着た服は埃臭くもないことから、アキが定期的にクリーニングや洗濯をして清潔にしてくれていたのだろう。
着替え終えると、龍司はベッド脇のテーブルの上に置いてある写真立てに視線を移す。
「…湊…」
木製のフレームに挟まれた写真立ての中には、幼い頃の龍司と湊が寄り添っている仲睦まじい2ショットの写真が挟まっていた。
写真の中の花の咲いたような可愛らしい湊の笑顔に、龍司は切なげに眉を寄せた。
今すぐに湊に会いたい。
会って強く抱きしめたい。
会って、キスをして、愛し合いたい。
湊の笑顔を見る度に強く思う感情。
それは、成長をするたびに強くなってきている気がする。今もその気持ちは強いまま、常に龍司の心を埋め尽くしていた。
きっと今湊に会えば、七瀬の所には行けなくなってしまう。
いや、行きたくなくなってしまうと言った方が正しいのかもしれない。
写真立てを手に取り、片手で写真の中の湊にそっと触れる。
同時に、柔らかい湊の頬に触れた時の感触を思い出してしまい、写真に触れていた手を握った。
「湊、すぐに帰ってくる。帰ったらすぐにお前を抱きしめに行く。だから少しの間待っていてくれ…」
本当は今すぐにでも抱きしめたかった。
離れている訳でもない。
会えない訳でもない。
社長室の壁を1枚挟んだ向こう側に、湊はいる。
会いに行こうと思えばすぐには行ける距離なのに、すぐに行けない。
これほどもどかしい事はなかった。
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