Last Smile

神坂ろん

文字の大きさ
上 下
159 / 196
第4章:ふたりの想い、消えゆく笑顔

157話

しおりを挟む



しかし、考えれば考えるほど七瀬に対して浮かんでくる感情は怪しさだけだ。
七瀬の笑顔には、どこか朋也と似た所がある…以前からなんとなく感じてはいた。
だから七瀬の笑顔は好きじゃない。


もしかして、七瀬さんは何か良からぬことを企んでいるんじゃ…?



「アキ!」


「ッ!!は、はいっ!申し訳ありません!少し…考え事をしていました…」


龍司の声にハッとして顔を上げる。
顔をあげた瞬間に龍司の鋭い瞳と目が合って、慌てて頭を下げた。

「別に構わないが…なにを考えていた?俺との会話中に考え事なんて珍しい」

「…いえ…」

これはあくまでも私の勝手な推測。
七瀬さんが龍司様になにかをするなどと…龍司様との会話中に私はなんて物騒なことを考えているんだ。

そんなこと、絶対に出来る訳がないのに。


「―なんでもございません…」

「……そうか」


なにか言いたそうな表情でアキを見ながら、龍司が答える。


「なんでもないなら構わない。…じゃあ俺は、一度マンションに必要なものを取りに行く。いろいろやることがあるから、今日から明日の仕事が終わるまで湊の所には行けそうにない。湊には、仕事が忙しくて湊の所に行けるのは明日以降になると言っておいてくれ。…くれぐれも湊にこの事は言わないように。――頼むぞ、アキ」


「はい…かしこまりました」


すれ違いざまに肩を叩かれ反射的に頭を下げる。

ふわりと香ってきたムスクの匂いに、大人の男を感じる。

それと同時に言い知れぬ不安が込みあげてきた。
龍司に限って、最悪な事などある訳がない…そう信じたいのに、不安は払拭されない。
扉が閉まる音が聞こえて、下げていた頭をあげる。


龍司の後ろ姿が残像の様に扉に映る。


「龍司様…」


胸元に添えられた手は不安を隠しきれないようにアキは衣服を握りしめた。




「どうか…どうかご無事で―――」




後々、まさかこの時の不安が的中することになるとは思わなかった。






アキも、龍司本人も。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

処理中です...