157 / 196
第4章:ふたりの想い、消えゆく笑顔
155話
しおりを挟む「ふふっ。交渉成立ですわね龍司様。では、その婚姻届の夫の欄に、龍司様のお名前を記入ください。見てお分かりだと思いますが、私の欄はすでに記入済ですので」
「……」
龍司が眉を寄せながら握られた婚姻届に視線を落とす。
「龍司様、この婚姻届は市役所に提出は致しませんのでご安心ください。ですが、法的に夫婦にならないだけで、状況として私と貴方は夫婦です。この先、決して実現しないであろう私と龍司様の結婚なんです。依頼とはいえ…偽りとはいえ、正式に婚姻届を書いてこそ意味があります。それが例え1日だけの偽りの結婚だとしても―――。」
嬉々とした表情を浮かべた七瀬が、真剣な表情で龍司に告げる。
黙ったまま不機嫌な表情をした龍司が、テーブルの引き出しからペンを取り出し滑らせるように文字で空白の欄を埋めていく。
全て書き終わると、パソコンのキーボードで何やら入力を始めた。
すぐにテーブル脇にあるコピー機が鈍い機械音を上げる。
コピー機から1枚の紙が出てくると再び立ち上がり、出てきた紙を手に取ると婚姻届と共に七瀬に差し出した。
「婚姻届は全て記入した。間違っても市役所に提出はするなよ。仮に提出したことが発覚したらその時は即依頼は中止だ。お前を契約違反とし、違約金の請求をする。もちろん湊も月嶋財閥へは渡さない。いいな?」
「――約束しましょう」
「それと、これは今回お前からの“結婚ごっこ”の契約書だ。必要事項を全て今ここで記入してくれ。…それと契約金額に同意したらサインをしろ。―――なお、今回の契約金額は通常の10倍の金額だ。変更や値下げは一切認めない。理由は分かっているな?依頼主の虚偽と会社のルールを無視した依頼…これらが金額増加の理由だ」
「もちろん、分かっています。」
にっこりと笑みを浮かべた七瀬が、差し出された婚姻届と契約書を2枚受け取った。
すぐに契約書に記入をはじめ、サインをすると契約書を龍司へと返した。
「これでよろしいかしら?」
黙ったまま受け取った龍司が、会社の判子で割り印を押した。
「契約成立だ。現金は依頼開始前にキャッシュで一括払い。分割払い及び依頼後の後払いは認めない」
「ご安心ください。準備はしております」
金額が跳ね上がることを予想していたのか、七瀬は鞄から見るからに高そうな布にくるまれた何かを取り出し、テーブルの上へと置く。
「その中にご提示いただいた金額よりも多めのお金を包んでいますわ」
「アキ、確認を知ろ」
「かしこまりました」
アキが中身を確認する。
確かに布の中にはいくつもの札束がくるまれており、龍司の提示した金額よりも多めの金額が包まれていた。
「問題ないかと思います」
「わかった」
「さて…これでよろしいかしら?龍司様」
「七瀬、最後に約束しろ」
「…なんでしょう?」
「このくだらない“結婚ごっこ”が終わったら、二度と俺の前に現れるな。そして何度も言うが、俺の事は諦めろ。どれだけお前が俺に好意を抱いても、俺は一生その気持ちに答えることはできない。」
「…わかりましたわ」
「依頼終了時間は、明後日深夜24時だ。念のため、依頼終了後すぐにお前には記憶抹消の薬を打たせてもらう。完全に俺の事を忘れてもらうように…。いいな?」
「―――ええ。お好きなようにしてください」
龍司の言葉に、七瀬の口元に笑みが零れる。
「出来るものなら…ね」
最後に小さな声で呟いた言葉は龍司に届くことはなかった。
恐ろしい程に綺麗な笑顔と、闇の様に暗い漆黒の瞳が不穏に光る。
そんな七瀬の表情に、誰も気づくことは出来なかった。
0
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
兄が届けてくれたのは
くすのき伶
BL
海の見える宿にやってきたハル(29)。そこでタカ(31)という男と出会います。タカは、ある目的があってこの地にやってきました。
話が進むにつれ分かってくるハルとタカの意外な共通点、そしてハルの兄が届けてくれたもの。それは、決して良いものだけではありませんでした。
ハルの過去や兄の過去、複雑な人間関係や感情が良くも悪くも絡み合います。
ハルのいまの苦しみに影響を与えていること、そしてハルの兄が遺したものとタカに見せたもの。
ハルは知らなかった真実を次々と知り、そしてハルとタカは互いに苦しみもがきます。己の複雑な感情に押しつぶされそうにもなります。
でも、そこには確かな愛がちゃんと存在しています。
-----------
シリアスで重めの人間ドラマですが、霊能など不思議な要素も含まれます。メインの2人はともに社会人です。
BLとしていますが、前半はラブ要素ゼロです。この先も現時点ではキスや抱擁はあっても過激な描写を描く予定はありません。家族や女性(元カノ)も登場します。
人間の複雑な関係や心情を書きたいと思ってます。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
気になるあの人は無愛想
山猫
BL
___初恋なんだ、絶対振り向かせるぞ!
家柄がちょっと特殊な少年が気になるあの人にアタックするだけのお話。しかし気になるあの人はやはり普通ではない模様。
CP 無愛想な彫師兼……×ちょっとおバカな高校生
_______✂︎
*地雷避けは各自でお願い致します。私の好みがあなたの地雷になっている可能性大。雑食な方に推奨。中傷誹謗があり次第作品を下げます、ご了承ください。更新はあまり期待しない方がいいです。クオリティも以下略。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる