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第4章:ふたりの想い、消えゆく笑顔
154話
しおりを挟む片手に持っていた茶封筒が、くしゃりと握られるとぐしゃぐしゃになって丸められた封筒は床に落とされた。
睨むように七瀬を見れば、七瀬は不思議そうに首を傾げる。
「仰っている言葉の意味が分かりませんわ。私は当たり前のことを言っただけの事。生きている父親が子供の面倒を見るのは当然のことでは?」
「湊はもう18歳だ。義務教育は終わっているし、もう親のサポートが必要な年齢ではない」
「龍司様、今回私は仕事の依頼をしに来ただけです。その仕事を拒否なさるというのなら月嶋湊は返してもらいます。それがこの依頼の条件ですわ…龍司様、私のお父様から再三言われているはずです“湊は月嶋が預かる”と――…」
「っ……」
――こいつ…そんな事まで知っているのか…
七瀬の言葉に何も言い返すことが出来なかった。
確かに七瀬の言う通り、月嶋遼からは何度も連絡は来ていた。
その内容は、『朋也をどうか許してやってくれ。今まで申し訳なかった』という上辺だけの謝罪と『朋也の子供である湊を預からせてくれないか』というものだった。遼は、昔から龍司に対して優しく接してくれる人間だったため、嫌いではない。
むしろ好きな方だった。
しかし、それとこれとは話は別である。
朋也を許すことはできないし、ましてや湊を月嶋財閥に渡す事などできる訳がない。朋也がした事を黙認していたくせに、どうやったら湊を預からせてくれという考えに至るのか理解できなかった。
「2つの選択肢、どちらかしか俺は選べないという事か…」
「えぇ、そうなりますわ」
七瀬が首を縦に振るとふわりと笑みを浮かべた。
まるで龍司の出す答えが分かっているかのような笑顔に、苛立ちすら込み上げてくる。
「――わかった。誕生日1日だけ…お前と結婚ごっこをしてやろう」
「社長!何を仰って――!」
龍司から出た答えに、黙っていたアキが驚いた表情を龍司に向けた。
「!」
顔色を変えずにアキへ視線を移した龍司を見て、アキはハッとした。
何を考えてらっしゃるんですか…そう言いかけた言葉は一瞬で消え失せた。
湊を月嶋に渡すくらいなら、湊を傍に置いていられる方の選択を選ぶ。
龍司の湊への気持ちを知っていればすぐに分かることだった。
自分の気持ちを殺した龍司の心情を悟ったアキは、七瀬を睨むように見つめた。
しかし、七瀬の瞳にはアキの姿は映ってなどいなかった。
アキから向けられた視線には気づかず、七瀬の大きな黒目が見つめる先には龍司しか映っていなかった。
恋は盲目というが、七瀬の場合は異常だ。
好きな相手に異様に執着する性格は、朋也とそっくりである。
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