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第4章:ふたりの想い、消えゆく笑顔
153話
しおりを挟む「…これは…一体なんのつもりだ?」
目の前で微笑んだままの七瀬を睨む。
「なんのつもりとは…なにがでしょう?」
「婚約の話は20歳の時に断ったはずだ。七瀬。何度も言うが、俺は20歳になってもお前の事を好きにはならなかった。約束通り婚約は破棄になったはずだ。なのに、この“婚姻届”はなんのつもりだと聞いてるんだ」
茶封筒から出てきたのは婚姻届だった。
見せつけるようにして七瀬の顔面に突き出しながら、龍司は怒りを含んだ口調で訊ねた。
「――最初から、私を好きにならないと分かっていて勝手に貴方が提示した約束ですのに?」
「っ…!!」
七瀬の顔から笑顔が消え、龍司に近づいてくると、氷の様な冷たい瞳で見上げてきた。
バレていないと思っていた龍司の気持ちは、どうやらお見通しだったらしい。
見た事のない七瀬の表情に思わず息をのむ。
「龍司様が、最初から湊にしか興味がなかった事くらい分かっていましたわ。――私と出会った時、すでに貴方の心は湊のモノだったのでしょう?」
「……」
七瀬の問いかけに、龍司は表情を変えずにただじっと七瀬を見つめた。
その反応を肯定と受け取ったのか、七瀬の瞳がすぅっと細められ、再び笑顔を向けて来た。
「――まぁいいですわ。龍司様の心が決して動かない事くらい分かっています。ですが、私は絶対に貴方を諦める事など出来ません。そこで考えたのです。貴方が私のものにならないのなら―――無理やりにでも私のモノにすればいいのだと」
「―――なに?」
「ふふっ、冗談です。―――明日、私の誕生日なんです。誕生日一日だけで構いませんわ。一日だけ私と結婚してください。…それが、今回貴方に依頼する仕事になります」
「…なんだと?ふざけるな!俺はそんなくだらない事のためにお前に構っている暇も時間もない。ここは結婚相談所じゃないんだ!ただでさえ、最近は面倒事が増えたせいで忙しい。私情を挟んだ依頼なのであれば、いくら金を積まれたとしても俺は引き受けない。すぐに帰ってくれ」
「――では、湊を月嶋に返してもらってもよろしいですか?」
七瀬の顔から笑顔が消えた。
刺すような冷たい視線を向けられ、龍司の動きが止まる。
「…なに…?」
「湊の母親は貴方のお姉様ですが、もうその方はいらっしゃいません。しかし、父親である月嶋朋也は生きています。そうなると、月嶋湊を預かる義務は当然ように存命の父親…つまり月嶋にあることになります。甥である貴方よりも」
「……俺を脅しているつもりか?」
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