148 / 196
第4章:ふたりの想い、消えゆく笑顔
146話
しおりを挟む信じたいという気持ちと、信じきれない気持ちがぐちゃぐちゃに混ざり合って自分の気持ちが分からなくなってしまう。
龍司の話を聞いた時に出てきた七瀬の気持ちは、龍司の過去の話の中で聞いてるからすでに知っている。
しかし、聞いている話だと龍司が20歳になるまで七瀬を好きになることがなかったら諦めるという約束だったはず。
――結局龍司は、七瀬さんを好きになることはなかったから、断ったって言っていた…。だからもう約束はなくなっているはずなのに、どうして婚約なんて話になっているの?
「…あの!龍司から、20歳になるまで龍司が七瀬さんを好きにならなかったら、諦める約束だったって聞いたんですけど…」
「――そんな事まで知っているの?…まぁいいわ。でも、その約束がなにかしら?私にはそんな約束関係ない。所詮約束は約束。書面での証拠がある訳でもない。ただの口頭での約束だなんて約束とは言わないわ」
「っ…!」
そんな理不尽な!
口頭でも、約束をしたことには変わりないのに…。
もしかしたら…
はじめからこの人には、龍司が言った約束は届いてなかったのかもしれない。
湊は、七瀬に何も言い返すことが出来ずにじっと見つめた。
口頭でも書面でも約束は約束だ。
それも、好きな人との約束なのに。
この人はどうしてそんな自分勝手なことが言えるのだろうか…怖いほどに甘い笑顔を浮かべる七瀬が怖くなってきた。
「龍司様は昔からずっと私のものなの。…絶対に誰にも渡さないわ。それがお兄様の子供である貴方だとしても。龍司様はずっと…今も昔もこれからも、私のものなの――――永遠にね」
「っ…!!」
恍惚した表情でうっとりと微笑んだ七瀬に、全身の鳥肌がたった。
なんて怖い笑顔なんだろう
なんて凶器のような笑顔なんだろう
なんて綺麗で気味が悪い笑顔なんだろう
いろんな感情が混じりあった七瀬の笑顔は、恐怖でしかない。
この人は狂っている
龍司の昔の話を聞いた時に、何度も繰り返すように龍司が朋也に対して言っていた言葉の意味が少しだけ分かった気がした。
七瀬の表情を見て、冷や汗が出て来た体は凍り付いたように動かなくなった。
「ふふ。では最後の挨拶になるけれど、貴方は龍司様の事を早く忘れてもっと素敵な人と一緒になりなさい。いいわね?―――まぁもう二度と会う事はないだろうけど」
「え…」
七瀬の細くて華奢な手が湊の顔に添えられた。
耳元で艶やかに囁かれた言葉は、全てしっかりと湊の耳に届いていた。
長くネイルを施された赤い爪が、湊の頬から顎にかけて滑るようになぞられる。
恐怖で背筋がゾクッとした。
あっという間に手は離れ、七瀬は長い黒髪を靡かせながら扉の方に歩いて行く。
静寂の部屋に鳴り響くヒールの音がやけに大きく感じる。
扉の閉まる音が聞こえ、漸く緊張の糸が解かれて体が動いた。
湊はすぐに扉へ振り返る。
「二度と、会う事はないって…どういうこと…?」
去り際に言われた七瀬の言葉が、頭から離れなくて復唱するように声に出した。
七瀬が言った言葉の意味が分からない。
呆然と立ち尽くしたまま、湊はただ扉を見つめるしかなかった。
0
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】俺の声を聴け!
はいじ@書籍発売中
BL
「サトシ!オレ、こないだ受けた乙女ゲームのイーサ役に受かったみたいなんだ!」
その言葉に、俺は絶句した。
落選続きの声優志望の俺、仲本聡志。
今回落とされたのは乙女ゲーム「セブンスナイト4」の国王「イーサ」役だった。
どうやら、受かったのはともに声優を目指していた幼馴染、山吹金弥“らしい”
また選ばれなかった。
俺はやけ酒による泥酔の末、足を滑らせて橋から川に落ちてしまう。
そして、目覚めると、そこはオーディションで落とされた乙女ゲームの世界だった。
しかし、この世界は俺の知っている「セブンスナイト4」とは少し違う。
イーサは「国王」ではなく、王位継承権を剥奪されかけた「引きこもり王子」で、長い間引きこもり生活をしているらしい。
部屋から一切出てこないイーサ王子は、その姿も声も謎のまま。
イーサ、お前はどんな声をしているんだ?
金弥、お前は本当にイーサ役に受かったのか?
そんな中、一般兵士として雇われた俺に課せられた仕事は、出世街道から外れたイーサ王子の部屋守だった。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる