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第4章:ふたりの想い、消えゆく笑顔
145話
しおりを挟む真に受けているも何も、龍司自身の本当の気持ちだと信じて微塵も疑ってはいなかった。
「龍司様は、幼少の頃から仕事も完璧にされていて、生まれながらの後継者だったわ…まさに天才と呼べるに相応しい方なの。―――…それに加え、誰もが釘付けになるほどのあの容姿と頭の回転の良さ…。世の中の女性が放っておくわけがないわ。もちろん私も、昔から龍司様への気持ちは一切変わっていない。…それどころか、以前よりも好きという気持ちが強まったわ」
「……。」
この人は、一体何が言いたいの?
「今のこの時代、男同士の恋愛もあるようだけれど、龍司様が貴方の様な子供を本気で相手にしていると思っていたのかしら?」
―――そんな事、ない…っ
龍司は…!
龍司は俺に嘘なんてつかない…!
七瀬の棘のある言葉に、耐えるように拳を握った。
龍司は絶対にそんな事をしない!そう言いたいのに、声に出すことが出来ない。
その原因は七瀬の突き刺さる様な視線のせいだ。
俯いていた顔を上げると、甘い笑顔を浮かべる七瀬の表情がそこにはあった。
「――すべては演技だったのよ。貴方は遊ばれていただけ。私の事は龍司様から聞いているはずだから知っているでしょう?」
「聞いています…。あの…っ!」
「龍司様は昔からご両親に対しても“いい息子”を演じられていたわ。感情をコントロールするのがとても上手な方なの」
「!!」
嘘…だよ…
そんな…
じゃあ、あの時の気持ちも言葉も…嘘…?
演技だったって事なの…?
エッチをした時のあの表情も、俺に対する想いも全部…?
――だめ…
龍司のことを信じたいのに、どこか信じきれていない自分がいる…
疑っている訳じゃないけど、不安からか100%信じられていないのも事実だった
龍司は湊を信じてくれているのに、自分は信じ切れていない…そんな自分が嫌で自分で自分を殴りたくなった。
それに――…
昔の龍司は、そんな簡単な気持ちで自分を作って演技をしていたんじゃない。
辛くて、悲しくて、苦しくて…どうにかなりそうだった。
見方だって、母さん以外に龍司の見方はいなかった。
でも、母さんが家を出て行ってからは、龍司の味方になってくれる人は誰一人としていなかった。
きっと龍司は、演技をすることで自分の心が崩壊してしまうのを無意識にガードしていただけだ。
誰も味方のいない龍司は、今以上に生きづらくなってしまうのを防ぐために、仕方なく親の言いなりになるしかなかった。
それが“人形のように”と言われれば、それは本当の龍司の気持ちを分かっていないだけ。
この人は、その時の龍司の死んでしまいたいと思うほどの苦しい気持ち…全然分かっていない。
七瀬の勝ち誇ったような表情と、不敵な笑顔に感情が乱される。
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