Last Smile

第4章：ふたりの想い、消えゆく笑顔

136話

「あっ、ううん！なんでもない」

「…湊、“自分がここにいいのか”なんてくだらない事は考えなくていい」

「っ…！！」


なんで俺の考えていること…わかったの？
俺、そんなに顔に出てたかな


心の中まで見透かすような龍司の鋭い視線が突き刺さる。
そんな視線に耐え切れなくて思わず視線を逸らしてしまい、それを肯定と捉えた龍司が大きなため息をついた。


「優しいお前の事だ。湊の考えそうな事位俺には分かる。…それでなくても湊の事は小さい時から今までずっと見てきたつもりだ。」

「…。」


やっぱり、龍司には敵わないな…。



小さく「ごめん…。」と呟くと、龍司の温もりが全身を包んできた。
それが抱きしめられているのだと気づくまで、少しだけ時間がかかってしまった。

温かくて大好きな龍司の香りに、湊も自らの腕をまわしてぎゅっと背中のシャツを握ると静かに瞳を閉じる。


「…だって俺は父さんの…みんなが憎んでる月嶋朋也の子供だよ？そんな俺がここに、龍司やみんなの側にいていいのかなって…そう思っちゃうよ」


湊の言葉に、龍司の抱きしめている手の力が強くなった。

「いていいに決まっているだろう！！…確かに朋也は俺のたった1人の家族である百合亜姉さんを奪った人間だ。セリやルカ達にとってもやりたくない事を強制的にやらせ、人を拉致監禁し、人を殺めたりもさせた。全く関係のない人間を、自分の嗜好の為に自分が作った薬で人形にさせるという…その人間の人生を滅茶苦茶にした極悪非道ともいえる人間だ。―――…だけどお前が生まれたおかげで、俺はこうしてここにいることが出来ている。」

「龍司…でも、俺…！」

「湊…俺はお前がいなかったら、闇に堕ちず今ここにいる事はできなかった。…そしてセリやルカ達も、朋也が連れてこなかったら俺とこうして会う事も出来ずにいた。――今頃は生きていたのかもわからない。…――確かに朋也のしたことは決して許されることではないし、俺もセリ達も一生朋也を許すことはない。だけど、朋也のしてきた事は湊とは全く関係ないんだ。」

少しだけ体を離した龍司が、湊の頬に手を添えると漆黒の瞳と視線が交わった。

「…龍司…。」

「朋也の息子だからなんだというんだ。あいつのしてきた事の罪を、お前が感じる事は微塵もない。だから…自分がいなかった方がいいとか、生きていていいのかなんて考えるな。お前は居ていいんだ。お前の存在自体が、俺やセリ達にとって光なんだよ。」



辛そうな表情を浮かべる龍司に、胸が締め付けられるような気持ちになった。



―――光なんて、そんな大それたものじゃないのに…


でも


でも俺、ここに居ていいんだ。


龍司の側に、居ていいんだ。


龍司の言葉に、心から安堵感が込上げて来た気がした。




「―――うんっ」




変な事聞いてごめん。


―そう口にしたかったのに、代わりに出てきたのは一筋の涙だった。