Last Smile

神坂ろん

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第3章:歯車は動き出す

107話

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早く。


なるべくここから逃げなければ…


気持ちだけが焦ってしまい、肝心の体は思うように動いてはくれなかった。


波の音に紛れて、砂浜を引きずる音が静まり返った海岸響く。
大分日も落ちて、辺りは夕日の美しいオレンジ色に包まれていた。
波打つ海辺の方に視線を向ければ、海に反射した光がキラキラと光った。

こんな状態でなければ、息を呑むほどの絶景なのだが、今はそんな事を気にしている余裕はなかった。


そして、龍司が海辺から視線を逸らし、前を見て体を移動させた時だった。


砂浜を蹴る足音が前方から聞こえてくる。


龍司は、動かしていた腕を止めると近づいてくる人影をじっと見た。



――しまった…ッ!さっき俺を撃った奴か?チッ…やっぱり隠れていたのか…ッ!


それとも他のあたらしいしかく…か?

くそッ…!!
どっちにしろ、この状況で狙われたら終わりだ…!
芹名たちが来るまでまだ時間がある…。タイミングよく救急車が来てくれれば助かるんだが…ッ



次第に距離が縮まって来る人影を目を凝らして見てみれば、大人にしては体型が小さい事に気付く。

芹那達を利用して使っていたように、再び子供を使う事にしたのかと、以前の芹名達の事が頭に過り唇を噛みしめた。



「ねぇ!!どうしたの?おにいちゃんだいじょうぶ?」


近づいてきた小さな人影は、龍司の目の前まで来るとしゃがみ込んだ。


色素の薄いサラサラの茶色の髪は肩まで伸ばされていて、襟足も綺麗に切り揃えてある。
肩出しの白のTシャツと、ジーンズ生地のショートパンツをはいた子供は、恐らく龍司よりも年下だろう。
色白の透き通るような肌と、まだ幼くあどけない可愛らしい顔立ちをした子供からは、どこかで嗅いだことのある優しくて甘い石鹸の香りがした。


「おま、え…だれだ…?あたらしいしかくか…?」


心配そうに龍司を覗き込む幼い子供を、ぎろりと睨みつける。
太腿の付け根程まではいかないが、短い丈のショートパンツから覗く綺麗な足がふと視界に映り、気まずそうに視線を逸らした。


「え?しかくってなぁに?…それよりおにいちゃんどうしたの?けがしてる!ちでてるよ!いたい、いたいだよ!」

「おれにかまうな!!!おまえが“あいつら”からだされたしかくだっておれにはわかんだよ!」

龍司が伸ばされた手を拒絶するように叩いた。
目の前の子供は、驚いたように目を見開くも、次第にその表情は悲しみを含んだ表情へと変わり、瞳から涙が零れた。



「なにいってるのかわかんないよ!こんな…こんなにいっぱいちがでてるんだよ!しんじゃうよぉ…ぅっひっく…」

「なっ…!なんでおまえが泣くんだ!」


大きな瞳いっぱいに溜めた涙を零した子供にぎょっとするも、龍司を殺しにやってきたであろう刺客に違いないと疑わなかった龍司は、変わらず睨みつけたまま叫ぶ。



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