109 / 196
第3章:歯車は動き出す
107話
しおりを挟む早く。
なるべくここから逃げなければ…
気持ちだけが焦ってしまい、肝心の体は思うように動いてはくれなかった。
波の音に紛れて、砂浜を引きずる音が静まり返った海岸響く。
大分日も落ちて、辺りは夕日の美しいオレンジ色に包まれていた。
波打つ海辺の方に視線を向ければ、海に反射した光がキラキラと光った。
こんな状態でなければ、息を呑むほどの絶景なのだが、今はそんな事を気にしている余裕はなかった。
そして、龍司が海辺から視線を逸らし、前を見て体を移動させた時だった。
砂浜を蹴る足音が前方から聞こえてくる。
龍司は、動かしていた腕を止めると近づいてくる人影をじっと見た。
――しまった…ッ!さっき俺を撃った奴か?チッ…やっぱり隠れていたのか…ッ!
それとも他のあたらしいしかく…か?
くそッ…!!
どっちにしろ、この状況で狙われたら終わりだ…!
芹名たちが来るまでまだ時間がある…。タイミングよく救急車が来てくれれば助かるんだが…ッ
次第に距離が縮まって来る人影を目を凝らして見てみれば、大人にしては体型が小さい事に気付く。
芹那達を利用して使っていたように、再び子供を使う事にしたのかと、以前の芹名達の事が頭に過り唇を噛みしめた。
「ねぇ!!どうしたの?おにいちゃんだいじょうぶ?」
近づいてきた小さな人影は、龍司の目の前まで来るとしゃがみ込んだ。
色素の薄いサラサラの茶色の髪は肩まで伸ばされていて、襟足も綺麗に切り揃えてある。
肩出しの白のTシャツと、ジーンズ生地のショートパンツをはいた子供は、恐らく龍司よりも年下だろう。
色白の透き通るような肌と、まだ幼くあどけない可愛らしい顔立ちをした子供からは、どこかで嗅いだことのある優しくて甘い石鹸の香りがした。
「おま、え…だれだ…?あたらしいしかくか…?」
心配そうに龍司を覗き込む幼い子供を、ぎろりと睨みつける。
太腿の付け根程まではいかないが、短い丈のショートパンツから覗く綺麗な足がふと視界に映り、気まずそうに視線を逸らした。
「え?しかくってなぁに?…それよりおにいちゃんどうしたの?けがしてる!ちでてるよ!いたい、いたいだよ!」
「おれにかまうな!!!おまえが“あいつら”からだされたしかくだっておれにはわかんだよ!」
龍司が伸ばされた手を拒絶するように叩いた。
目の前の子供は、驚いたように目を見開くも、次第にその表情は悲しみを含んだ表情へと変わり、瞳から涙が零れた。
「なにいってるのかわかんないよ!こんな…こんなにいっぱいちがでてるんだよ!しんじゃうよぉ…ぅっひっく…」
「なっ…!なんでおまえが泣くんだ!」
大きな瞳いっぱいに溜めた涙を零した子供にぎょっとするも、龍司を殺しにやってきたであろう刺客に違いないと疑わなかった龍司は、変わらず睨みつけたまま叫ぶ。
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
つまりは相思相愛
nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。
限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。
とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。
最初からR表現です、ご注意ください。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
クズ彼氏にサヨナラして一途な攻めに告白される話
雨宮里玖
BL
密かに好きだった一条と成り行きで恋人同士になった真下。恋人になったはいいが、一条の態度は冷ややかで、真下は耐えきれずにこのことを塔矢に相談する。真下の事を一途に想っていた塔矢は一条に腹を立て、復讐を開始する——。
塔矢(21)攻。大学生&俳優業。一途に真下が好き。
真下(21)受。大学生。一条と恋人同士になるが早くも後悔。
一条廉(21)大学生。モテる。イケメン。真下のクズ彼氏。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる