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第3章:歯車は動き出す
106話
しおりを挟む――いつの間にGPSなんて付けていたんだ…
自分でも知らない事が行われていた事に驚きつつも『あぁ』と返事をする。
芹名の声が次第に遠のいているような気がして、何とか意識を保とうと必死に手元の砂を握った。
悠長に電話で話していられるほど、今の龍司に余裕などない。
腹部を銃弾が貫通しているのだ。
頭や心臓に比べると腹部は致命傷という訳ではなく即死はしないが、この状態が長く続けば何が起きても不思議ではない。
これなら、なにも感じず一発で死んだ方がまだ楽だとさえ思った。
「龍司様!大丈夫ですか?ボクたちがそちらに到着するまで、おおよそ20分程かかります。龍司様のご容態を推測すると腹部を撃たれ、血が止まらないという事なので恐らく肝臓か腹大動脈どちらかをかすめている可能性が高いと考えられます。どちらも大量の血液が循環している場所になりますので、今この状態も非常に危険な状況ですっ!…龍司様のジャケットの内ポケットの奥に、止血用と鎮痛剤が一緒になったカプセルが入っています。ボクが開発したものですが、効果は即効性のものなのですぐ使用してください!」
「はぁっ…ッ!ハァッ…!ハァ…ッ!くッ…カプ、セル…?」
「はい!もしもの時の為に入れさせてもらいました。救急車にはボクから電話して龍司様の所へ急いで行って貰うように手配致します!龍司様、お怪我で動ける状況ではないと重々承知ですが…なるべくそこの場所から離れるようにしてください!まだ、龍司様を狙っている人間は近くにいるはず…再び撃たれる可能性がかなり高いです!」
「はぁ…ッ!…分かった…ッ」
龍司は言われた通り、ジャケットの内ポケットの奥を探す。
奥からは小さなプラスチックの容器が出てきた。
恐らくこの中に芹那が開発した薬が入っているのだろう。
振れば、カラカラと中から音がする。
容器についてあるボタンらしき突起物を押すと、引き出しのようにカプセルが1つ乗って出てきた。
指先で掴み押し込むように口に入れると歯で噛み砕く。
中からはドロリとした液体状のものが出てきて、口内へと溶けていく。
龍司は喉を鳴らして液体を飲み込んだ。
味は薬特有の苦みは全くなく、無味無臭と言ったところだ。
「今―…薬を飲んだ…そろそろ、切る…ッ」
「…かしこまりました…。龍司様、どうかご無事で――。」
電話を切るとジャケットの横ポケットに仕舞い、手元の砂を握る。
芹名が即効性と言っていただけの事はある。
薬を飲む前と比べ、少しではあるが痛みが幾分和らいだ気がした。
変わらず腹部から下は、流れた血で真っ赤だが、流れたまま一向に止まることがなかった血液の流れが、薬を飲む前に比べて若干遅くなった気がする。
腕に力を入れて匍匐前進で体を前へと移動させる。
龍司が前に進むたびに砂が体中へばりつき、砂浜が赤く染まった
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