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第3章:歯車は動き出す
104話
しおりを挟む少しでも気持ちが落ち着けばと思った龍司は、階段に視線を移動させゆっくりとした足取りで近づく。
見れば、階段の勾配はそこまで急なものではなく緩やかな階段で降りやすそうだ。
階段には細かい砂の粒子が散らばっていて、踏みつければじゃり…と小さく音をたてた。
緩やかな階段でも、段数は多く足を滑らせないように一歩一歩階段を下りる。
そして2・3段を下りた時だった。
後ろから微かに金属の音が聞こえた。
なんだ?
振り返った時にはもう遅かった。
バァァン!!
「――ッ!!!」
腹部を何かが通り抜けた感覚がした。
熱くて硬い何かは、龍司の腹部を貫通し、階段下の砂浜へ落ちていく。
砂浜に転がっていったのは、血で濡れた金属の塊だ
「ゴホッ…!!な…んだ…ッ…?」
口から逆流してくるように赤い鮮血が飛び出てくる。
同時に腹部から、生暖かいドロリとしたものが服を伝い流れ落ちた。
龍司は口から吐き出した血を手で受け止めると、その手をじっと見た。
手にこびり付く真っ赤な鮮血と腹部から流れ落ちる血に何が起きたのか悟り、舌打ちをする。
「――チッ…や、っぱり…っこういう、事…だったのか…っ」
おれに1人で来いと指定してきた理由は、やっぱりおれを殺すため。
なにもかもを朋也から奪ったおれは、朋也からしてみれば邪魔以外の何者でもないようだ。
そうなれば排除しようと考えるのが、らしいといえばらしい考えだ。
はじめからあいつの考えなんてわかっていた――…。
でも、ただ1人で来いと言ってもおれが来ないのは朋也は分かっていた。
だから百合亜姉さんと湊の名前を使った。
2人の名前を使い、おれがその通りにせざるを得ないという心理状況を作った…。
「ほん、とう…に、ど、こまで…も腐った…ハァっ…にん、げんだ…」
尋常じゃないくらいの血が流れ、痛みと血液不足で次第に頭がふらふらしてくる。
霞んでいく視界で、撃たれた方向を見るがどこにも人の姿はなかった。
恐らく近くの物陰に隠れているか、遠くから狙ってきたんだろう。
もはや殺し屋と言うより暗殺の域だ。
とにかくここにいれば、またいつ狙われるか分からない。
頭や心臓を狙ってこなかったのを考えると、あえて致命傷になりにくい腹部を狙ったんだと考えはついた。
恐らく次に狙ってくるのは致命傷となる箇所。
また狙われる前に逃げなければ本当に死んでしまう。
龍司は覚束ない足取りで、階段の手すりに掴まりながら階段を下りる。
しかし、まだ10段以上ある段数に霞む視界…無事に砂浜まで下りれるかかなり怪しい所だ。
ただでさえ暗くなり始めている時間帯にプラスし、霞む視界と力が次第に入らなくなっていく自分の足に舌打ちをする。
「ハァッ…はぁっ…ぅ、くそっ…」
龍司の歩いた痕跡を残すかのように、腹部から伝った血が階段へと染みを作る。
腕に付けてある時計にこびり付いた血を指先で拭い、時間帯を見れば18時30分を回っていた。
時間も時間なだけに、海岸に人気は全く感じられない。
――この状況では誰にも助けを求めることが出来ない。
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