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第3章:歯車は動き出す
87話
しおりを挟むだから朝食の時に誰もいなかったのか。
少しおかしいとは思っていた。
あの二人は、自分よりも先におれがご飯を食べる事を嫌う。
いつもおれがリビングに行く頃は、必ず食べている最中か終わった後どちらかだからな…。
平日の朝早い時間帯に殺し屋を突入させるとは、昨日部屋を出る前に洸太郎が言った言葉の意味はこの事を意味していたのかと、龍司は自分を囲んでいる男達を見ながら思った。
装備している格好はもちろん、向けられている銃もおもちゃやコスプレではない事は男達の雰囲気で違うという事が分かる。
恐らくこの男達は、本物の訓練を受けた者達だ――…。
「…子供にしては大人びたガキだな…。それに、この状況で騒ぎも泣きもしないとは…!がはは!!面白い!」
リーダーらしき男が大声で笑うと、持っていた銃を下ろし龍司に近づく。
龍司を見下ろした男は、龍司の髪を鷲掴みにして顔が見えるように上に向かせた。
「――勝手に触るな。お前らの様な薄汚い人殺し兵器に命乞いでもしろと言うのか?…ふざけるな!すぐにここから出ていけっ!!」
痛みで顔を歪ませながら、龍司は目の前の男に叫ぶ。
「なんだと!?このクソガキ!!今の自分の状況が分かっているのか!!」
掴まれた髪が思い切り引っ張られ、途端に顔色を変えた男が龍司を殴り飛ばした。
大柄な男の力では、まだ子供の龍司で敵うはずがない。
いとも簡単に前方に吹き飛んだ龍司の体は、壁に叩きつけられた。
「くッ…!!」
「…お前ら…あのクソ生意気なガキを殺せ!!」
男がそう言った瞬間、一斉に引き金が引かれ、ショットガンの銃口を向けられる。
たった1人の子供の為だけに、本物の殺し屋を10人も用意する必要があるのか。
洸太郎の考える事が理解出来なかった。
―――…こんな形で死ぬ事になるのか…
壁に叩きつけられた体がじりじりと痛んで来る。
頭も激しく打ち付けてしまったようで、激痛が龍司を襲う。
本当は、すぐにでも起き上がって殴りたい所だが、立てそうになかった。
龍司は死を覚悟しながら痛みに耐え、静かに瞳を閉じた。
最期に百合亜ねえさんに会いたかった。
湊に会いたかった。
叶わない願いだとしても、唯一おれを必要としてくれた大切な人に会いたい。
人間の最後というのは実に脆い。
脆くて、いつ壊れてもおかしくない程に弱い。
だから人間は1人で生きていく事はできない。
本当に強く。生き続ける事が出来るのは大切な存在…護りたいと強く思う人がいる人だけだ。
大切な人いるからこそ、人間と言うのは本当の強さ発揮する事が出来る。
――でも、おれにはもう――…。
諦めた様に瞳を閉じた龍司の脳内に浮かんできた人達の姿や表情全てを、脳裏に焼き付ける。
おかしな話だ。
とうの昔から、死ぬ覚悟など出来ていると言うのに…
自分から望んでいた事だったはずなのに
浮かんできた大切な人たちの顔を脳裏に焼き付ける。
直前になって、“死にたくない”と思ってしまうなんてな…
本当に笑えるよ。
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