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第3章:歯車は動き出す
80話
しおりを挟む相も変わらず怒号が飛び交う久堂のオフィスビルで仕事をしていると、私用の方の携帯が振動した。
龍司は3コール程で電話に出る。
『龍司様!大変です!!』
「…芹名、いま仕事中だ。一体どうした?」
電話を出たと同時に受話器から聞こえてきた焦りを含んだ芹名の声に、少しだけ電話から耳を話した。
静かな空間には五月蠅すぎる音量だ。
龍司は怪訝そうな表情を浮かべると、芹那に訊ねる。
『…家が…トモの家が全焼しました…ッ!!!』
「…なんだと…?」
驚きのあまり思わず立ち上がる。
「芹名!どういう事だ!!なんでっ…」
『…トモが、トモが自ら燃やしたと…零から連絡が、ありました…』
「っ…!!」
どういう事だ?
朋也が家を燃やした…?
家は爆発の影響でほぼほぼ全壊している。燃やす必要などどこにあるんだ?
『それともう一つ…お知らせしなければいけない事が…』
「まだあるのか?なんだ?」
『――家に火をつけた後…、トモは百合亜様と赤ちゃんを連れて…消息不明になりました…っ』
「なっ…!」
持っていた携帯が滑り落ちた。
床に落ちた携帯からは芹名の慌てた声が聞こえるが、拾おうにも体が動かない。
呼吸をするのもやっとだった龍司は、力なく椅子へ座りこむ。
百合亜、ねえさんが…
湊が…
消息不明、だと…?
そんなっ…なんで―――。
おれの…おれの唯一大事な人が…なんで
『龍司様!龍司様、聞こえますか!?龍司様!お気を確かにっ!!』
頭が一気に真っ白になり、突き付けられた現実に思考が停止した。
瞬間、百合亜と湊の笑った顔が幾重にもなって浮かび上がってくる。
≪――龍司、あなたは私の大事な弟なんだから―…≫
唯一、龍司を家族として愛情をくれた人。
百合亜の優しく微笑んだ顔が脳裏に思い浮かぶ
そして、その愛らしい笑顔で龍司を一瞬にして救ってくれた湊の笑顔が思い浮かぶ。
『龍司様!龍司様!どうされたんですか?聞こえますか?龍司様っ…!!』
おれは…
おれは、これからどうしたらいい?
力なく背もたれによりかかりながらじっと一点を見つめると、片手で両目を覆った。
計画は成功したはず。
何が間違っていた?
龍司はまわらない頭を必死に働かせる。
しかし、その脳裏には百合亜と湊の顔しか浮かばない。
悔しそうに唇を噛みしめ、拳を握ると力強くテーブルを叩いた。
「くそッ…!!!」
漸く発する事が出来たのは、怒りと悔しさが混ざった悲痛な言葉だった。
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