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第3章:歯車は動き出す
40話
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「はじめまして。君が百合亜の弟くんかな?」
会社で父親の怒号ばかりを浴びせられながらも、漸く仕事を覚え始めた頃、龍司は見知らぬ男と出会った。
いつものように洸太郎の会社から帰ってきた龍司はエントランスに入り、メイドにコートと鞄を渡していると、声をかけられ、声の主を見上げた。
目の前には、色素が薄めの茶髪に色白の細身体型の男が立っていた。
優し気な目元で、屈託のない笑顔を龍司に向けた青年はいくらか小さい龍司の顔を覗き込んできた。
年は百合亜と同じくらいだろうか。青年は、龍司に笑顔を向けたまま手を差し伸ばしてきた。
「…だれ?」
見た事も会った事もない青年に、龍司はぎろりと睨んだ。
「あれ…?百合亜からまだ聞いてないのかな?俺、今度百合亜さんと結婚する月嶋朋也といいます。久堂財閥とは、昔から父が仕事で取引させてもらって仲良くさせてもらっているんだ。君が百合亜の弟の龍司くんだよね?よろしくね」
月嶋…?
よく父上が話している会社が、確か月嶋って名前だった…。
こいつは月嶋の跡取り、なのか…?
誰にも好かれそうな笑顔で、手を差し出してきたままの朋也に、龍司は手と顔を交互に見つめた。
こんなやつがねえさんの結婚、相手…だと?
ふざけるな。
こんな胡散臭そうな顔して笑っているやつが…?
なぜか龍司は、朋也のその笑顔を好きになる事が出来なかった。
一見愛想が良く見えなくもないが、龍司には能面に笑顔を張り付けているとしか思えなかった。
その瞳の奥に“何か”を隠している、直感でそう思ったからだ。
しかし、ここで失礼な態度をとれば、会社になにかマイナスな事が起こるかもしれない。ただでさえ酷い待遇の龍司は、余計に洸太郎から反感を買うかもしれないと感じた。
そしてなにより、百合亜の結婚相手だ。
百合亜は、龍司が一番幸せになってほしいと思う人だ…自分が祝ってあげなければ、百合亜はきっと悲しむだろう…そう思った。
龍司は、差し出された朋也の手を漸く握り返す。
「はじめまして、月嶋さん。先程の不愛想な態度、もうしわけありません。百合亜姉さんの弟で久堂の後継者・久堂龍司ともうします。」
龍司は湧き出てくる朋也への嫌悪感を悟られない様に、無表情を張り付け業務的に言葉を発すると頭を下げた。
それが龍司と朋也の初めての出会いだった―…
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