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第3章:歯車は動き出す
32話
しおりを挟む廊下を再び進み、突き当りにある部屋の前まで来ると顔認証センサーが発動する。
≪認証clear≫の表示が出てくると、龍司は部屋に入り、部屋の中心に設置されているキングサイズのベッドに湊を寝かせた。
白で統一された部屋には、中央にあるキングサイズのベッドと、ベッド脇にある50インチ程の液晶モニターが2つとキーボードのみ。
他に余計なものはないスッキリとした部屋には、微量の薬品の匂いがした。
横たわる湊に掛布団をかけた所で、まるでタイミングを合わせたかの様に部屋のチャイムが鳴った。
「入れ」
短く返事をすると、「失礼いたします」の声と共に見目麗しい人物が部屋へと入ってきた。
白衣を身に纏い、胸元まで開けた白のワイシャツ、黒のミニスカートを履いた金髪の長い髪を緩く巻いた人物は、龍司直属の配下の1人、コードネームS01ことセリだ。
一見美女にも見えるが、れっきとした男である。
「この度のお話はA01より全て伺っております。私S01が、必ず湊様をお救いいたしますわ。全ては社長のお望みのままに――」
アキと同様片膝をつき跪くと、セリはゆっくりと龍司に言葉を放つ。
ふわりと舞った金色の長い髪がはらりと床に舞い落ちる。
「あぁ、顔を上げろ。…まずT01が百合亜姉さんに使った例の薬は、打たれる前にアキとゼロが防いでくれた。そしてその薬というのが…コレだ。」
アキから預かった注射器をポケットから取り出すと、セリに渡す。
顔を上げ、立ち上がったセリは注射器を受け取ると、中に入った液体をじっと見る。
しかし、医者であるセリでも、さすがに目視だけではなにも分からず、困ったように龍司に視線を向けた。
「申し訳ありません社長…。今の段階では、私であれど詳細を申し上げる事は出来かねますわ。後程、研究室の方で調べさせていただきます」
セリは白衣のポケットから白い布を取り出すと注射器を包み、ポケットへと仕舞う。
「あぁ。…それよりすぐに湊の容態を見てくれ」
「かしこまりました。…こちらの可愛らしいお方が湊様…ですね?」
セリは中央のベッドへゆっくりと歩みを進めると、口元へ耳を近づけた。
小さく「失礼いたします」と呟き、慣れた手つきで服を少しだけはだけさせると、首にかけていた聴診器を湊の胸にあてた。
暫くして、聴診器を首にかけ直したセリが龍司の方を振り返る。
「申し上げますと、ご容態は命に問題はないと思われます。…ただ、少しだけ呼吸にムラがございますわ。もしかしたら睡眠薬に、別の“何か”が混ぜられているのかもしれません。」
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