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第3章:歯車は動き出す
31話
しおりを挟む「み、なとっ…湊!湊ッ!!」
龍司は何度も湊の名前を呼びながら抱きしめた。
まだ暖かいその温もりを確かめるように。
何度も、何度も湊の名前を呼んだ。
寒さで色白の湊の肌が薄いピンク色に染まり、龍司は大きな手を頬に添える。
そして抱きしめていた力を緩めるとゆっくりと体を離し、体に掛けられている毛布で湊の体を包み込んだ。
跪いたまま動けないでいるアキに視線を向ける龍司の表情は、先程湊に向けられたものとは違う、いつも仕事で見せる社長としての龍司の顔つきだった。
「…アキ。湊を無事に連れて帰って来てくれた事、礼を言う。さすが俺が信頼している人間だ…。ゼロにも後で礼を言っておかないとな。」
「いえ、滅相もございません!私どもは当たり前の事をしたまでです。湊様は社長と同じ…私たちにとっても、とても大切な方なのですから!」
地面に視線を向けたまま、アキは答えた。
龍司は表情を緩めながら、「そうか」と小さく返事をすると、湊を抱きしめたままアキの横を通り過ぎ、正面玄関へと歩き出した。
「顔を上げろ。湊はセリにすぐに見て貰う…。17時から仕事が入っているからお前はそれまでに体を休めておけ。急ぎの仕事はないから、それまで休んでいて構わない」
「はっ…!あ…社長!これを…っ!」
伏せていた顔を上げれば、思い出したようにポケットに入れておいた注射器を龍司に渡す。
「これが…。確かに預かった。」
龍司は受け取った注射器に眉を寄せ、ポケットに仕舞う。
特注の防弾強化ガラスで作られた正面玄関の自動扉が開けば、龍司は湊を抱いたまま会社の中に入っていった。
「湊…」
全面大理石で出来た床を歩きながら、龍司は腕の中の湊に視線を落とした。
柔らかくて温かい湊の温もりが伝わってきて、安心するのと同時に未然に防ぐ事が出来なかった自分に、悔しさが込み上げてくる。
「こんな目に合わせて悪かった。湊…」
抱いている手に力が入る。
湊は微動だにせず、瞳は未だ閉じられたまま。
龍司は悔しそうに眉を寄せ、足早に廊下を進んでいった。
長い廊下を進んでいくとエレベーターに乗り、最上階ボタンをタップする。
何度乗っても不思議な感覚が残ってしまうエレベーターの浮遊感に耐えながら、再び湊に視線を落とした。
その時、昔見た血だらけの湊の残像が重なってしまい、目を見開く。
「っ…!!」
手の力が緩まり、落としそうになったのを寸前で耐えた。
ゆっくりと深呼吸を繰り返し、なんとか落ち着きを取り戻す。
タイミング良く最上階に着いたエレベーターが止まり、扉が開いた。
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