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第3章:歯車は動き出す
22話
しおりを挟む龍司はジャケットの内ポケットから煙草を取り出すと咥え、火をつける。
ほろにがい煙が体中に染みわたってきた。
このまま嫌な事も全て煙に混ざって吐き出せたら、どんなに楽だろうか…そんな事が頭を過った。
「返事は?」
『仰せの…ままに…ッ』
震えながら絞り出した男の声が聞こえると、すぐに電話を切った。
龍司は携帯を握りつぶし、壁へと叩き付ける。
携帯は音を立てて床へ転がり落ちた。
「湊。待っていろ」
龍司はエレベーターで地下駐車場に降りていくと、車に乗り鞄のポケットから再び携帯を取り出した。
慣れた手つきで携帯を弄ると耳元にあてる。
『はい、A01でございます』
透き通る様な綺麗な声が受話器の向こうで聞こえた。
声の主は優秀な秘書であり、龍司が最も信頼をおける配下の1人、A01である。
「俺だ。全員に伝えろ。T01を地下牢行きにしたと」
『!!』
『…かしこまりました。…社長、詳しくお聞きしていいのか分かりませんが…湊様に関わる事でしょうか…?』
「…。」
龍司の言葉に息を呑む電話越しの男は、恐る恐るしかし確信を得た様に訊ねてきた。
だが、龍司はその問いかけには答えず、座席の背もたれに体を預けながら、何もない車の天井を一点に見つめたまま黙り込んだ。
そしてゆっくりと目を閉じる。
瞼を閉じても、当たり前のように浮かんでくるのは、湊以外の誰でもない。
―――あいつはやっぱり、すぐに殺しておくべきだった…
あの悲惨な出来事の後、すぐに朋也を消していればこんな事にはならなかったし、湊の記憶は消えたまま…あの時の辛い記憶を一生思い出さずに済んだはずだ。
『…社長…?』
「…T01が地下牢行きになったという事は…湊が絡んでいない訳がない。」
閉じていた瞼をゆっくりと開くと、龍司は静かに答えた。
座席の背もたれから体を起こすと、車のエンジンをかける。
ひんやりとしていた車内に暖かい風が流れ込んできた。
「A01。今すぐに湊を俺の元に連れてきてくれ」
『っ!私が…ですか?』
「これはお前にしか頼めない事だ。俺の大切な配下の中で信頼をおけるお前だから、この任務を命令する」
『…!!』
「それと、お前と一緒にZ2も連れていけ。恐らく今T01は湊と一緒にいるはずだ。」
電話越しの声がやけに大きく感じるのは、静けさのせいもあるのだろう。
備え付けのカーナビに表示されてある時刻を見れば、早朝の4時を迎えようとしていた。
静寂の中聞こえるエンジン音は、ひと際大きい音にさえ感じる。
龍司は煙草を咥え、火をつけた。
「返事は?」
ふぅ、と静かに煙をはくと白煙が車内に広がる。
『…仰せのままに。必ず、湊様を社長の元へ連れてまいります―…。』
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