Last Smile

神坂ろん

文字の大きさ
上 下
24 / 196
第3章:歯車は動き出す

22話

しおりを挟む


龍司はジャケットの内ポケットから煙草を取り出すと咥え、火をつける。
ほろにがい煙が体中に染みわたってきた。
このまま嫌な事も全て煙に混ざって吐き出せたら、どんなに楽だろうか…そんな事が頭を過った。


「返事は?」


『仰せの…ままに…ッ』


震えながら絞り出した男の声が聞こえると、すぐに電話を切った。
龍司は携帯を握りつぶし、壁へと叩き付ける。
携帯は音を立てて床へ転がり落ちた。


「湊。待っていろ」


龍司はエレベーターで地下駐車場に降りていくと、車に乗り鞄のポケットから再び携帯を取り出した。
慣れた手つきで携帯を弄ると耳元にあてる。



『はい、A01でございます』


透き通る様な綺麗な声が受話器の向こうで聞こえた。
声の主は優秀な秘書であり、龍司が最も信頼をおける配下の1人、A01である。



「俺だ。全員に伝えろ。T01を地下牢ちかろう行きにしたと」

『!!』

『…かしこまりました。…社長、詳しくお聞きしていいのか分かりませんが…湊様に関わる事でしょうか…?』

「…。」

龍司の言葉に息を呑む電話越しの男は、恐る恐るしかし確信を得た様に訊ねてきた。


だが、龍司はその問いかけには答えず、座席の背もたれに体を預けながら、何もない車の天井を一点に見つめたまま黙り込んだ。


そしてゆっくりと目を閉じる。


瞼を閉じても、当たり前のように浮かんでくるのは、湊以外の誰でもない。



―――あいつはやっぱり、すぐに殺しておくべきだった…


あの悲惨ひさんな出来事の後、すぐに朋也を消していればこんな事にはならなかったし、湊の記憶は消えたまま…あの時の辛い記憶を一生思い出さずに済んだはずだ。


『…社長…?』


「…T01が地下牢ちかろう行きになったという事は…湊が絡んでいない訳がない。」

閉じていた瞼をゆっくりと開くと、龍司は静かに答えた。
座席の背もたれから体を起こすと、車のエンジンをかける。

ひんやりとしていた車内に暖かい風が流れ込んできた。


「A01。今すぐに湊を俺の元に連れてきてくれ」

『っ!私が…ですか?』

「これはお前にしか頼めない事だ。俺の大切な配下の中で信頼をおけるお前だから、この任務を命令する」

『…!!』

「それと、お前と一緒にZ2も連れていけ。恐らく今T01は湊と一緒にいるはずだ。」


電話越しの声がやけに大きく感じるのは、静けさのせいもあるのだろう。


備え付けのカーナビに表示されてある時刻を見れば、早朝の4時を迎えようとしていた。
静寂せいじゃくの中聞こえるエンジン音は、ひと際大きい音にさえ感じる。
龍司は煙草を咥え、火をつけた。

「返事は?」


ふぅ、と静かに煙をはくと白煙が車内に広がる。




『…仰せのままに。必ず、湊様を社長の元へ連れてまいります―…。』


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

つまりは相思相愛

nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。 限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。 とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。 最初からR表現です、ご注意ください。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

クズ彼氏にサヨナラして一途な攻めに告白される話

雨宮里玖
BL
密かに好きだった一条と成り行きで恋人同士になった真下。恋人になったはいいが、一条の態度は冷ややかで、真下は耐えきれずにこのことを塔矢に相談する。真下の事を一途に想っていた塔矢は一条に腹を立て、復讐を開始する——。 塔矢(21)攻。大学生&俳優業。一途に真下が好き。 真下(21)受。大学生。一条と恋人同士になるが早くも後悔。 一条廉(21)大学生。モテる。イケメン。真下のクズ彼氏。

処理中です...