BLを教えてくれ腐男子先生!

響藍

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第十二話『騒動を終えて』

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 カフェの一角、真剣な面持ちをした春人は目の前に座る、全体的に水色で透け感のある服に、白のストレッチパンツ、緑のサコッシュを身につけた女性に尋ねた。
「...どうでした?」
「...うん、何もせずに帰ったよ。」
「はぁ!?何もせず帰ったぁ?」
 春人が興奮気味に言う。
 身体を少しびくつかせた綾は、すかさず口元に指を置き周りを確認しながら小声で言った。
「ちょっ!しぃっ!周りのお客さんもいるんだから!」
 春人は不機嫌な顔のまま手元にある苺ミルクを一口飲み、大きく息を吐いて少し落ち着気を取り戻した。
「...何やってんの、受けた仕事はこなしてくださいよ。青也は大丈夫なんですよね?」
 春人は少々苛立ち気味に言う。綾は優しい笑顔で答える。
「急に呼び出しておいてそれはないんじゃないかしら。心配なのはわかったから八つ当たりしないでいただける?」
 電話でも良かったよね?と綾は笑顔のまま怒る。
「すっ、すいません。」
「...冗談よ。」

 冗談言ってるようには見えなかったけど...

 アイスコーヒーを一口飲んだ綾はやっと本題に入るようだった。
「それで、勘違いしているようだけど、何もせず帰ったのは天川君の方。まあ、私も通行人が仲裁してくれたからほぼ何もして無いけど。とりあえず今のところは大丈夫よ。」
「...よかった。」
「まあ、まさか路上で口論になるとは思ってなかったけど。人目が多くて助かったわ、お手柄ね。ついて行った先に仲間がいっぱい待ち伏せしてたとかだと、危なかったかも。そうなったら私、警察呼ぶくらいしかできないもの。でも...そこまでやってのけるほどの危険性はあると今回の件で思ったわ。...依頼人を怖がらせるのはよく無いか。」
 春人はやはりイラつきを隠せないでいた。不安と焦り、そして怒りが入り混じって、でもそれをうまく発散することができないことにイラついていた。
「やっぱり会うべきじゃなかったんだっ、あんなやつ!あんなことしておきながら、会いたいなんてよく言うよ!」


 綾は春人をじっと見つめる。春人は綾が何を伝えたいのかわかったのか、息を整え、反省したように俯く。やっと落ち着いた春人に綾は静かながらも、はっきりとした声で言う。
「今回の報告は以上よ。もっと詳細に知りたいなら文書作ってくるけど、なしでいいわよね。報酬はいつも通り郵送で頼むわ。それと、アイスコーヒーもごちそうさま。」
 そう言ってピンクっぽい色のサングラスをかけ、店を出て行った。


「...いつもありがとうございます。」
 空になったアイスコーヒーのグラスを見て、そっと春人は呟いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 本当に偶然だった。青也から急に電話があって、ちょうど暇だったし行くことにした。待ち合わせ場所に向かう途中、横目に通ったカフェに原田さんがいるでは無いか!そして向かいに座る人に見覚えがあった。
「えっ、原田さんと...春人君?なんで一緒に?」
 つい声に出してしまう。しかし何やら真剣に見つめあっている。邪魔しちゃ悪いし、そもそも俺、どっちとも、どういう関係か聞けるほどの仲じゃないし...
 まあでも、気にしても仕方ないか。
 秀和は待ち合わせ場所へ歩みを再開した。

 それにしても...『嫌なことがあったのでストレス発散に付き合ってください』ってどうしたんだろ。こういう時って何があったか聞かない方がいいんだよな多分。

 そんなこんな考えてるうちに、待ち合わせ場所にたどり着いた。既に着いていた青也は、チューリップの刺繍の入った白いポロシャツに黒のストレッチパンツというスタイルだった。それに対して秀和はゆったりとした無地の茶色い半袖シャツに紺のワイドパンツだったので、もっとちゃんとした服でくれば良かったなと思っていた。

「すまん、待ったか?」
「いえ、来てくれて嬉しいです!」
「それで、何するんだ?カラオケとか?」
「チッチッチッ、違います。それは!そう!漫画喫茶!!」
「えっ漫画喫茶?」
「そうです!むしゃくしゃした時や辛い時、悲しい時こそBLです!困難を乗り越え結ばれる健気な男の子たちに、元気を貰いましょう!愛の尊さを前に自分の負の感情なんか消し飛んじゃいます!僕なんて読みに行くってだけでもうテンション上がりまくってます!」
「なんだ、結構元気じゃん。俺結構心配してたのに。」
 はっとしたようで青也は恥ずかしそうに『すいません』とだけ言った。
「はは、謝らないでよ、青也が元気ならそれでいいんだよ。だって俺は青也を励ます為に来たんだからさ。...ちょっと待って、俺めっちゃ恥ずかしいこと言ったよね?」
「ふふっ。ふはっはははは!」
 秀和が恥ずかしそうにしていると、青也が盛大に笑った。
「な、なんだよ!そんなに面白いかよ!」
「はははっ...ふぅ、すいません、だって俺と全く同じことして恥ずかしがってたら流石に笑うでしょ!」
「ははは、まあ、確かに。」
「もうそんなことはいいんです!漫画喫茶です漫画喫茶!行きましょう!ほら!」
 
 青也が秀和の手を握り駆け始める。引っ張られる形で後ろをついて行く秀和は、とても良い笑顔をうかべていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「優大様~戻りました~。」
 だらしない声と共に車の運転席に座った寛は後部座席をミラー越しに覗いた。優大はつまらなそうに窓の外を眺めていた。
「それで?」
「はい、口論になっていた相手が報告書にあった天川翔でした。なかなかに危険な人物だと思います、気をつけた方がいいでしょう。しかし、松田青也自身は護身術の心得があるようでしたのであまり心配はないでしょう。私が仲裁に入らなかったら天川が返り討ちにあっていたでしょうね。気をつけるべきは...」
「秀和に矛先が向かった時か...」
「ええ、そうですね。秀和様は運動が得意って方ではないですし、そもそも運動が多少できたところで護身できるかどうかは別問題ですからねぇ。」
「...」
「心配ですよね。」
「...ああ。」
「私を秀和様に付けるって言わないでくださいよ?」
「...しねぇよそんなこと。ばーか。」

 優大は少し笑みを浮かべてそう言った。
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