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第一話『未知との遭遇』
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よく晴れた休日、心地よい春の日差しを浴びながら秀和は本屋へと向かっていた。お気に入りの少年漫画の新刊が発売されたのだ。続きが気になっていたのでとても楽しみだ。心なしか足取りがいつもより軽い気がする。
本屋に到着すると、一直線に新刊の棚へと向かう。いつもながらカッコイイ表紙でつい口角が上がってしまう。秀和はすぐさま右手で口元を隠して周りをキョロキョロと確認した。これでは変な人だと思われてしまう。
やっと普通の顔に戻った秀和は漫画を手に取るもすぐには会計には行かず、せっかく本屋に来たんだからと本屋内で宝探しを始めた。しばらく漫画の表紙をなんとなく見て回っていると遠巻きに知り合いらしき姿を発見した。紺がベースカラーの膝下ぐらいまでのワンピースに、太いベルトを巻いてトートバッグを持っている彼女は、間違いなく秀和が想いを寄せている人だった。何やら真剣に本選びをしているようだった。
秀和は運命的なものがあるんじゃないかと思いつつ、身だしなみを確認して(……といってもジーンズに白いシャツなので確認するところなんてほとんどなく、せいぜい前髪程度なのだが)彼女のもとへと跳ね気味に歩いていった。
彼女に声をかけるのはどの距離からが正解なのかなどと考えているうちにどんどん彼女との距離は近くなっていって、秀和の頭はそのことでいっぱいになっていた。
すると突然、曲がり角から出てきた自分より少し背の低い男性とぶつかってしまい、彼が持っていた数冊の本が床へ投げ出されてしまった。
「うわあ!?......じゃねーやごめん、ぼーっとしてた!すぐに拾うーー」
そう言いながら、屈んで落ちた漫画を拾おうと伸ばした手が止まる。そこには、二人の男が半裸で見つめ合っていたり一方が一方の服の中に手を入れようとしていたりと、明かにただならぬ関係の男どもが描かれていたのだ。中には何もせず二人の立ち姿が描かれているものも複数あったが、ああゆう表紙の本と一緒に持ってたってことはそういうことなのだろう。こういうのって男でも読んだりするのか?もしかして誰かに頼まれたとか?
秀和がしばらく動けないでいると、ぶつかった相手がしゃがみながら声をかけてきた。
「僕も他のことに気を取られていたのでお互い様です。一方的に拾わせちゃってごめんなさい、本が落ちたのがショックで少し放心状態になってました。.......それ結構面白いですよ?」
思っていたことがバレたかのような言葉に勢いよく顔を上げると、そこには想像とは違い短髪の人当たりの良さそうな顔が。もっといかにも読んでますって顔かと思ってた。少し口角をあげた彼の表情が秀和にはなぜだか少し怖く見えた。
「あっ......いやあ、普段読まないタイプの本だなーって思っただけだよアハハハ......」
すぐに目を逸らした秀和は急いで拾い始める。目の前の彼も拾い始めたようだった。
「はい、どうぞ。」
その声とともに秀和の視界に漫画が現れる。誰かが拾ってくれたようだ。
「あ、ありがとうござ......は、原田さん!」
声の方向に視線をあげるとそこには秀和の思い人、原田綾がいたのだ。下から見ても可愛いなぁ。
「あれ?えっと、確か安達君よね?あなたもBL好きなの?」
ん?今『も』って言った?つまり原田さんは男同士がイチャイチャしてるのを見るのが好きな人種なのか?知らなかった......
いや!原田さんにどんな趣味があろうとも俺の気持ちは変わらない!むしろ今まであんまり話せるきっかけがなかったからこれを仲良くなるチャンスだと捉えるんだ!
「へへ、実はそうなんです。」
「へぇ、腐男子だったんだ。あっ、私この後バイトだからもういくね。バイバイ!」
あれ?なんか思ったよりあっさりした反応だったな。そうか、みんなには隠してるんだな?俺達だけの秘密ってか?結構いいな。
突然、肩に手を乗せられ、ビクッと体が反応する。それと同時に、肩を掴んだ手に段々と力が入っていくのを感じた。
「......安達先輩、さっきこういう本読まないって言ってましたよね?」
ギクっ!
「女に近づくために腐男子だって名乗ったんですか?」
ギクギクっ!
「僕、そういうことにBLを利用されるの嫌なんですよねぇ。」
ゾゾゾと言わんばかりに背筋に寒気が走った秀和は、恐る恐る顔を声の方へと動かしていった。
すると、秀和の肩は解放された。声の主は笑っていた。
「冗談ですよ。きっかけがなんであれ、これを機にBLについて興味を持ってくれたら嬉しいです。じゃあ僕も友達の荷物整理手伝う約束してるのでこれで失礼します。」
秀和は急いで彼の腕を掴んだ。
「あ、ちょっと待ってくれよ!俺BLについて何にも知らないんだ。よかったら教えてくれないか?」
「じゃあ、次会った時に。」
「いや、次っていつだよ。誤魔化す気か?見捨てないでくれ頼む!」
「まあまあ、落ち着いてください。大丈夫、そんなに長くない間にまた会いますって!約束します信じてください!では!」
そう言って彼は去ってしまった。
立ち尽くした秀和はボソっと呟いた。
「ところで、腐男子......ってなんだ?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おいおい嘘だろ、これBL漫画じゃねーか......」
どうやら渡し間違えてしまったようだ。向こうも気づかず買っちゃっただろうし、すぐ会えるっていってたし、一回落としてしまったのを棚に戻すのも気が引けるし、どこにあったかなんて知らないしなぁ。でもよりによって半裸の表紙かよ......
「はあ、ついてねぇ。」
秀和は、重い足取りで会計へと向かった。
本屋に到着すると、一直線に新刊の棚へと向かう。いつもながらカッコイイ表紙でつい口角が上がってしまう。秀和はすぐさま右手で口元を隠して周りをキョロキョロと確認した。これでは変な人だと思われてしまう。
やっと普通の顔に戻った秀和は漫画を手に取るもすぐには会計には行かず、せっかく本屋に来たんだからと本屋内で宝探しを始めた。しばらく漫画の表紙をなんとなく見て回っていると遠巻きに知り合いらしき姿を発見した。紺がベースカラーの膝下ぐらいまでのワンピースに、太いベルトを巻いてトートバッグを持っている彼女は、間違いなく秀和が想いを寄せている人だった。何やら真剣に本選びをしているようだった。
秀和は運命的なものがあるんじゃないかと思いつつ、身だしなみを確認して(……といってもジーンズに白いシャツなので確認するところなんてほとんどなく、せいぜい前髪程度なのだが)彼女のもとへと跳ね気味に歩いていった。
彼女に声をかけるのはどの距離からが正解なのかなどと考えているうちにどんどん彼女との距離は近くなっていって、秀和の頭はそのことでいっぱいになっていた。
すると突然、曲がり角から出てきた自分より少し背の低い男性とぶつかってしまい、彼が持っていた数冊の本が床へ投げ出されてしまった。
「うわあ!?......じゃねーやごめん、ぼーっとしてた!すぐに拾うーー」
そう言いながら、屈んで落ちた漫画を拾おうと伸ばした手が止まる。そこには、二人の男が半裸で見つめ合っていたり一方が一方の服の中に手を入れようとしていたりと、明かにただならぬ関係の男どもが描かれていたのだ。中には何もせず二人の立ち姿が描かれているものも複数あったが、ああゆう表紙の本と一緒に持ってたってことはそういうことなのだろう。こういうのって男でも読んだりするのか?もしかして誰かに頼まれたとか?
秀和がしばらく動けないでいると、ぶつかった相手がしゃがみながら声をかけてきた。
「僕も他のことに気を取られていたのでお互い様です。一方的に拾わせちゃってごめんなさい、本が落ちたのがショックで少し放心状態になってました。.......それ結構面白いですよ?」
思っていたことがバレたかのような言葉に勢いよく顔を上げると、そこには想像とは違い短髪の人当たりの良さそうな顔が。もっといかにも読んでますって顔かと思ってた。少し口角をあげた彼の表情が秀和にはなぜだか少し怖く見えた。
「あっ......いやあ、普段読まないタイプの本だなーって思っただけだよアハハハ......」
すぐに目を逸らした秀和は急いで拾い始める。目の前の彼も拾い始めたようだった。
「はい、どうぞ。」
その声とともに秀和の視界に漫画が現れる。誰かが拾ってくれたようだ。
「あ、ありがとうござ......は、原田さん!」
声の方向に視線をあげるとそこには秀和の思い人、原田綾がいたのだ。下から見ても可愛いなぁ。
「あれ?えっと、確か安達君よね?あなたもBL好きなの?」
ん?今『も』って言った?つまり原田さんは男同士がイチャイチャしてるのを見るのが好きな人種なのか?知らなかった......
いや!原田さんにどんな趣味があろうとも俺の気持ちは変わらない!むしろ今まであんまり話せるきっかけがなかったからこれを仲良くなるチャンスだと捉えるんだ!
「へへ、実はそうなんです。」
「へぇ、腐男子だったんだ。あっ、私この後バイトだからもういくね。バイバイ!」
あれ?なんか思ったよりあっさりした反応だったな。そうか、みんなには隠してるんだな?俺達だけの秘密ってか?結構いいな。
突然、肩に手を乗せられ、ビクッと体が反応する。それと同時に、肩を掴んだ手に段々と力が入っていくのを感じた。
「......安達先輩、さっきこういう本読まないって言ってましたよね?」
ギクっ!
「女に近づくために腐男子だって名乗ったんですか?」
ギクギクっ!
「僕、そういうことにBLを利用されるの嫌なんですよねぇ。」
ゾゾゾと言わんばかりに背筋に寒気が走った秀和は、恐る恐る顔を声の方へと動かしていった。
すると、秀和の肩は解放された。声の主は笑っていた。
「冗談ですよ。きっかけがなんであれ、これを機にBLについて興味を持ってくれたら嬉しいです。じゃあ僕も友達の荷物整理手伝う約束してるのでこれで失礼します。」
秀和は急いで彼の腕を掴んだ。
「あ、ちょっと待ってくれよ!俺BLについて何にも知らないんだ。よかったら教えてくれないか?」
「じゃあ、次会った時に。」
「いや、次っていつだよ。誤魔化す気か?見捨てないでくれ頼む!」
「まあまあ、落ち着いてください。大丈夫、そんなに長くない間にまた会いますって!約束します信じてください!では!」
そう言って彼は去ってしまった。
立ち尽くした秀和はボソっと呟いた。
「ところで、腐男子......ってなんだ?」
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「おいおい嘘だろ、これBL漫画じゃねーか......」
どうやら渡し間違えてしまったようだ。向こうも気づかず買っちゃっただろうし、すぐ会えるっていってたし、一回落としてしまったのを棚に戻すのも気が引けるし、どこにあったかなんて知らないしなぁ。でもよりによって半裸の表紙かよ......
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秀和は、重い足取りで会計へと向かった。
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