備蓄勇者は旅をする

カラスギル

文字の大きさ
上 下
8 / 14

第7話 備蓄勇者と女神のいびき亭

しおりを挟む
 町の入り口で騒ぐのも迷惑になるので、宿の情報を青年から仕入れるとその場を後にした。

 宿に向かい歩きながらシーナと話したことをまとめると面白いことが分かった。

 シーナと話しているときは、なまりのないナヤト語で会話をしているらしい。そして先ほどの青年とは共通語(公用語)のナルゴ語で会話をしていたということだ。発音のテイストは相手を真似したような感じなのだそうな。

 よくわからんが便利なことになっていた。

 話に夢中で今日の宿になるところを通り過ぎてしまっていた。少し引き返して看板を見ると確かにそこは宿と酒場を兼業にした店だった。ベッドと酒のジョッキの絵柄が書かれている。看板に何と書いてあるのかは全く分からなかった。

 酒場と宿は入り口が違うようでそれぞれの絵柄をあしらった木の戸が横並びにあった。

 「女神のいびき亭か」

 教えてもらった宿の名前を口にしていた。なんとも豪快に眠れそうな名前だった。

 オレたちは、腹が減っていたため酒場の方へ先に入ることにした。扉をくぐるとそこは酔っ払いの巣窟だった。

 「らっしゃい。好きなところに座りな」

 筋肉隆々の男がこちらを見つけて声を掛けてくる。うながされるまま適当な席へ腰を下ろした。

 この店は繁盛していてほぼ満席だった。テーブルの間隔は、それなりに離れており適度にプライベートな話が出来るようになっている。

 「何を食べようかなぁ」

 目を輝かせながらシーナが当たりの客の食べ物を物色している。店で食事をすることはあまりないと聞いていたので、このはしゃぎようは納得するとのがある。それに村の近くに外食ができるような店はなかったし、できたとして村の中の知り合いの家で他の家の味を楽しむくらいだろう。オレも何を食べようかな。

キョロキョロしているとさっきの筋肉隆々男がやってきてメニューを渡してくれた。

 「何にする? おすすめはウルフ肉のあら焼きだ。あと樽酒だな」

 にゃっと歯を剥き出しにして笑った顔が屈強な外見とは別で意外と可愛かった。ナイスベビーフェイス。

 「私はそのおすすめをもらうよ! 君はどうするの?」

 シーナに急かされてオレも同じのを選ぶ。金額を確認してお金を渡し、食事が来るのを待つ。

 待つ間他のお客の様子をそれとなくのぞいてみる。

 ガヤガヤと活気がある酒場。この町の常連や旅途中の人間が混じっているのが分かる。その中でも少し場違いな客が目を引いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...