僕、勇者サマの養い子になりました

144.

「ずいぶんなご挨拶ね、アヤト。久しぶりに会えたって言うのに相変わらず冷たい男…」

シェーラさんがツンと拗ねたような声でアヤさんを詰ると、僕は急に背中がゾワゾワして震えながら、アヤさんにギュウッとしがみ付いた。

何だろう…
怖い。
悪寒が酷くて震えが止まらない。

「どうしたの？イツキ。気分でも悪くなった？大丈夫？宿に戻って休むかい？」

背中をポンポンされながら優しく声を掛けられ、僕は慌てて首を横に振ると、心配そうに僕を見詰めるアヤさんの様子を見た3人が、目を丸くしたまま硬直していた。

「顔色が悪いね。寒気がするならこれを…」

そう言ってアヤさんは無限収納アイテムボックスから厚手のマントを取り出すと、頭からすっぽり僕を覆い隠すようにして包み込んでくれた。

不思議と悪寒が治まって思わず、安堵の溜息を吐く。
僕はマント越しに背中を優しく撫でられて脱力すると、聞いた事もないほど底冷えする冷たい声音で、アヤさんがシェーラさんに話し掛けた。

「シェーラ、この子に余計な真似をするな。これは私からの本気の警告だ。二度目は無い。今後もしこの子にほんの些細ささいな事だろうと何かしでかしたら……私は相手がお前だろうと誰だろうと、一切容赦はしない」
「ちょッ、待って！待ってよ！ただその子にちょっと興味が湧いて【鑑定】してみただけじゃない！どうせ私よりもレベルが下なのだし、気付かれないと思ったのよ。相手に気付かれなければ【鑑定】くらい、そんな怒る程の事ではないでしょう？」
「なるほど。では私の腕の中に居るこの子を勝手に【鑑定】する事は、私に対して失礼だと思わなかった…と？」
「それは……その、そういうつもりは…なくて。その子にも、まぁ、悪かったと、思っているわよ。でも……」

シェーラさんの語尾が小さく曖昧に消えていき、二人の間に重く長い沈黙が流れる。
何人かの溜息が重なってから、空気の読めないロルフ様が満まん(？)を持じして、場をぶち壊すように口を開いた。

「長く立っておるのにも疲れてきたわい。取り敢えず続きはギルドでたっぷり話さんかの？ここでは内緒話もろくに出来んのが実に面倒だわい」
「ろ、ロルフ様！？
で、でも、そうですね。皆様にお茶くらいならお出し出来ますので如何ですか？ウールド様からアヤト様への伝言もお預かりしております事ですし」
「チッ」

あわわわわ…
アヤさんたら、皆さんの前で思いっ切り舌打ちしちゃって、もう。
でもウールドさんからの伝言って……

「もしかしてあの男からの伝言は『借りを返せ』…か？」

アヤさんが物凄く嫌そうな声で聞き返すと、ザームエルさんは苦笑交じりに頷いた。

「はい。要約すればそのような意味合いでございました」
「……そうか。ウールドには『本意ではないが了承した』と返答しておいてくれ。では詳細が決まり次第ゼアラに連絡を。私達はこれから予定があるので失礼させて貰う」

強引に会話を終了させてアヤさんが踵を返すと、後ろからシェーラさんとロルフ様が焦ったようにアヤさんを呼んでいた。けど……
でもアヤさんはもちろんガン無視だった。
チラリとも振り向かないなんて…さすがはアヤさん。
よっぽど腹に据えかねてたんですね…