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「それは、あの、ごめんなさい…」

アヤさんを泣かせるなんて事は僕としては有り得ないので、慌てて頭を下げて謝罪すると、アヤさんは慈愛に溢れた優しい眼差しで僕を抱き締めたまま、ゆっくりと頭を撫でてくれた。

「イツキはヒモなんかじゃないよ。いて言えば私がイツキを囲ってるって感じじゃないかな?世間的には…」
「え?」
「だってそうだろう?私はイツキの事を心から愛してるんだからね。もう大好きとかじゃ足りないくらい、愛しく思ってるんだから。だからお願い、私とは家族だって言って?…ね?」

あ……あい………あいし、て……?

え?
今、僕、言われた事が良く分からなかったヨ。
愛して?

え?
僕を?

僕をッ!?


「アレ?また真っ赤になって固まっちゃった?
オカシイな…家族や身内には愛してるって、普通に言うよね?言わないものなの?ウチでは普段から言いまくってたんだけど…」

アヤさんが困惑気味に呟いていたけど、言うか言わないかなんて僕にそんな事、分かる筈もなくて……

顔が赤くなる程、嬉しくて恥ずかしくて浮ついてた気持ちが、あっという間に萎んでしまった僕は…俯いて小さく首を横に振った。

この気持ちは…一体なんて言うんだろう?
良く分からないけど、僕は胸の奥がギュッと掴まれたみたいに息が苦しくなって、大きく大きく息を吐いた。

アヤさんに言われた言葉は物凄く嬉しかったのに…
「愛してる」「大好きとかじゃ足りない」「愛しく思ってる」「家族だって言って」
例え一つでも、嬉しくて舞い上がってしまいそうな程の魅惑的な言葉達。
それなのに、あんなにたくさん言って貰えたのに、今、こんな理解出来ない変な気持ちになってる僕は、何なのだろう?

図々しいにも程がある。何様なんだ、僕は…

俯いたままの僕に、アヤさんが驚いて腕を解き顔を覗き込んで来ると、ギョッとした顔をしてから呆然と呟いた。

「どうしてそんな顔して泣いてるの?イツキ…」
「僕、泣いてる…?」

自分の目から涙が出ている事にも気付いていなかった僕は、驚きに目を見開いた。
アヤさんに頬を撫でられて、涙で濡れている事を実感した僕は涙を散らす為に慌てて瞬きを繰り返す。

意味が分からない。
何で僕は泣いてるんだ?

アヤさんに「どうして?」って聞かれたけど、自分でも全く分からず、僕は遠い目をして小首を傾げた。

「イツキ様は哀しくて泣いてるんでしょう?」

不意にルーニンに言われ、僕はぼんやりと彼を見詰めてしまった。

……哀しい?
僕は今、哀しいの?

「だって今のイツキ様は感情が抜け落ちたみたいに無表情で、目も何にも映ってないみたいになってて、でも、そんなイツキ様を見てると、僕は胸が痛くて悲しいから。だから、イツキ様は今、きっと哀しいんだよ」
「そうよ、どうして泣いてるのか何て、ぶちゃけどうでもいいよ。そんな事よりも大事なのは、今すぐアヤト様がイツキ様をギュッとする事だもの」
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