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「ごめん、なさい。イアラ、さ、ごめんなさい。僕の、せいで嫌な、思いを」
「大丈夫よ」
ハキハキとした声が響き、思わずアヤさんの腕の中から顔を出して見上げれば、あっけらかんとしたイアラさんがニッと笑ってくれていた。
「謝らなくていいのよ。そんな細かい事、いちいち気にしなくていいの。アタシが図々しく近付き過ぎただけなんだし、イツキは無意識だったんでしょ?」
言われて僕は慌てて頷いた。
でも失礼な事をしたのには違いない。
「でも…僕を、治療してく」
「いいの!アタシがいいって言ったらいいのよ。
あの時イツキ、ああ…アタシがイツキの頭を撫でちゃった時ね、ビクッて怯えてから驚いた顔して、それから泣きそうな…悪い事しちゃったって顔になってたから。
だから、ああ…アタシやらかしちゃったのねって思ってたのよ。ホントにアタシの方こそ驚かせちゃって、ごめんなさいね」
「そんなッ僕が、」
「はいはいそこまでー。イツキはほら、まずこれで鼻かんで。はい、チーンてして。そうそう」
アヤさんに言われるがままに渡された布で鼻をかむ。
「ほらそれ頂戴。じゃ、その酷い事になってる顔拭くから目閉じてて」
僕は何も考えずに布を渡して目を閉じた。
もうアヤさんに言われたら、基本的には言いなりだ。
顔を新しい濡れタオルで拭いて貰って、手櫛で髪を整えられて、さっぱりした僕はアヤさんに頬を撫でられて目を細めた。
ちょっと擽ったい。気持ちいい。
「うわ、随分アヤトには懐いてんのね」
「まぁね。どうだ可愛いだろう?」
アヤさんは何故かフフンと胸を張った。
何だか恥ずかしい。気を許してる自覚があるだけに物凄く。
「ねぇイツキ、目が赤くなってるから、アタシが治してあげよか?
何か可哀想な事になってるし、今度は不用意に触ったりしないから」
「いや私が治す。それくらいならすぐ出来る」
「あら、めーずらしぃ。アヤトが誰かに苦手な治癒魔法を掛けたげるなんて、どんだけ大事なのよ」
「…治癒魔法の事は一応隠してたつもりなんだけど」
「バカねぇ、パーティのメンバーにはバレバレよ。当たり前でしょ?」
「…そうか」
「そうよ。で、紹介してよ。大事な大事なイツキちゃんの事」
言われてアヤさんはフンと鼻で息を吐いてから、淡い緑色の光を放つ左手で僕の両目を隠すように覆った。
閉じていた瞼がフワッと温かくなって目を見開く。
パチパチと瞬きを繰り返すと、腫れて重たかった瞼が軽くなっており、泣き腫らした目はすっかり元通りに治っていたのだった。
「どう?ちゃんと治ってる?」
「…はい」
僕はコクリと頷いた。
そしてイアラさんを見て、アヤさんの方をジッと見詰めた。
アヤさんは僕だけを見て嬉しそうな顔をしている。
「ねぇアヤト、寂しいから無視しないで?ちゃんとアタシにイツキを紹介してよぉ」
耐え切れず、イアラさんが泣き真似をしながら、口で「ぐすんぐすん」と言い出した。
あれ?
この人も、そうなのか…??
あっちの世界ではお目にかかった事も無いような、とっても可愛い美少女さんなのに。
何故だろう、イアラさんからアヤさんと同じ残念臭が…
してきました。
「大丈夫よ」
ハキハキとした声が響き、思わずアヤさんの腕の中から顔を出して見上げれば、あっけらかんとしたイアラさんがニッと笑ってくれていた。
「謝らなくていいのよ。そんな細かい事、いちいち気にしなくていいの。アタシが図々しく近付き過ぎただけなんだし、イツキは無意識だったんでしょ?」
言われて僕は慌てて頷いた。
でも失礼な事をしたのには違いない。
「でも…僕を、治療してく」
「いいの!アタシがいいって言ったらいいのよ。
あの時イツキ、ああ…アタシがイツキの頭を撫でちゃった時ね、ビクッて怯えてから驚いた顔して、それから泣きそうな…悪い事しちゃったって顔になってたから。
だから、ああ…アタシやらかしちゃったのねって思ってたのよ。ホントにアタシの方こそ驚かせちゃって、ごめんなさいね」
「そんなッ僕が、」
「はいはいそこまでー。イツキはほら、まずこれで鼻かんで。はい、チーンてして。そうそう」
アヤさんに言われるがままに渡された布で鼻をかむ。
「ほらそれ頂戴。じゃ、その酷い事になってる顔拭くから目閉じてて」
僕は何も考えずに布を渡して目を閉じた。
もうアヤさんに言われたら、基本的には言いなりだ。
顔を新しい濡れタオルで拭いて貰って、手櫛で髪を整えられて、さっぱりした僕はアヤさんに頬を撫でられて目を細めた。
ちょっと擽ったい。気持ちいい。
「うわ、随分アヤトには懐いてんのね」
「まぁね。どうだ可愛いだろう?」
アヤさんは何故かフフンと胸を張った。
何だか恥ずかしい。気を許してる自覚があるだけに物凄く。
「ねぇイツキ、目が赤くなってるから、アタシが治してあげよか?
何か可哀想な事になってるし、今度は不用意に触ったりしないから」
「いや私が治す。それくらいならすぐ出来る」
「あら、めーずらしぃ。アヤトが誰かに苦手な治癒魔法を掛けたげるなんて、どんだけ大事なのよ」
「…治癒魔法の事は一応隠してたつもりなんだけど」
「バカねぇ、パーティのメンバーにはバレバレよ。当たり前でしょ?」
「…そうか」
「そうよ。で、紹介してよ。大事な大事なイツキちゃんの事」
言われてアヤさんはフンと鼻で息を吐いてから、淡い緑色の光を放つ左手で僕の両目を隠すように覆った。
閉じていた瞼がフワッと温かくなって目を見開く。
パチパチと瞬きを繰り返すと、腫れて重たかった瞼が軽くなっており、泣き腫らした目はすっかり元通りに治っていたのだった。
「どう?ちゃんと治ってる?」
「…はい」
僕はコクリと頷いた。
そしてイアラさんを見て、アヤさんの方をジッと見詰めた。
アヤさんは僕だけを見て嬉しそうな顔をしている。
「ねぇアヤト、寂しいから無視しないで?ちゃんとアタシにイツキを紹介してよぉ」
耐え切れず、イアラさんが泣き真似をしながら、口で「ぐすんぐすん」と言い出した。
あれ?
この人も、そうなのか…??
あっちの世界ではお目にかかった事も無いような、とっても可愛い美少女さんなのに。
何故だろう、イアラさんからアヤさんと同じ残念臭が…
してきました。
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