上 下
38 / 165

37.

しおりを挟む
「ごめん、なさい。イアラ、さ、ごめんなさい。僕の、せいで嫌な、思いを」

「大丈夫よ」

ハキハキとした声が響き、思わずアヤさんの腕の中から顔を出して見上げれば、あっけらかんとしたイアラさんがニッと笑ってくれていた。

「謝らなくていいのよ。そんな細かい事、いちいち気にしなくていいの。アタシが図々しく近付き過ぎただけなんだし、イツキは無意識だったんでしょ?」

言われて僕は慌てて頷いた。
でも失礼な事をしたのには違いない。

「でも…僕を、治療してく」
「いいの!アタシがいいって言ったらいいのよ。
あの時イツキ、ああ…アタシがイツキの頭を撫でちゃった時ね、ビクッて怯えてから驚いた顔して、それから泣きそうな…悪い事しちゃったって顔になってたから。
だから、ああ…アタシやらかしちゃったのねって思ってたのよ。ホントにアタシの方こそ驚かせちゃって、ごめんなさいね」
「そんなッ僕が、」
「はいはいそこまでー。イツキはほら、まずこれで鼻かんで。はい、チーンてして。そうそう」

アヤさんに言われるがままに渡された布で鼻をかむ。

「ほらそれ頂戴。じゃ、その酷い事になってる顔拭くから目閉じてて」

僕は何も考えずに布を渡して目を閉じた。
もうアヤさんに言われたら、基本的には言いなりだ。
顔を新しい濡れタオルで拭いて貰って、手櫛で髪を整えられて、さっぱりした僕はアヤさんに頬を撫でられて目を細めた。

ちょっとくすぐったい。気持ちいい。

「うわ、随分アヤトには懐いてんのね」
「まぁね。どうだ可愛いだろう?」

アヤさんは何故かフフンと胸を張った。
何だか恥ずかしい。気を許してる自覚があるだけに物凄く。

「ねぇイツキ、目が赤くなってるから、アタシが治してあげよか?
何か可哀想な事になってるし、今度は不用意に触ったりしないから」
「いや私が治す。それくらいならすぐ出来る」
「あら、めーずらしぃ。アヤトが誰かに苦手な治癒魔法を掛けたげるなんて、どんだけ大事なのよ」
「…治癒魔法の事は一応隠してたつもりなんだけど」
「バカねぇ、パーティのメンバーにはバレバレよ。当たり前でしょ?」
「…そうか」
「そうよ。で、紹介してよ。大事な大事なイツキちゃんの事」

言われてアヤさんはフンと鼻で息を吐いてから、淡い緑色の光を放つ左手で僕の両目を隠すように覆った。
閉じていた瞼がフワッと温かくなって目を見開く。
パチパチと瞬きを繰り返すと、腫れて重たかった瞼が軽くなっており、泣き腫らした目はすっかり元通りに治っていたのだった。

「どう?ちゃんと治ってる?」
「…はい」

僕はコクリと頷いた。
そしてイアラさんを見て、アヤさんの方をジッと見詰めた。
アヤさんは僕だけ・・を見て嬉しそうな顔をしている。

「ねぇアヤト、寂しいから無視しないで?ちゃんとアタシにイツキを紹介してよぉ」

耐え切れず、イアラさんが泣き真似をしながら、口で「ぐすんぐすん」と言い出した。

あれ?
この人も、そうなのか…??

あっちの世界ではお目にかかった事も無いような、とっても可愛い美少女さんなのに。
何故だろう、イアラさんからアヤさんと同じ残念臭が…
してきました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「モノマネだけの無能野郎は追放だ!」と、勇者パーティーをクビになった【模倣】スキル持ちの俺は、最強種のヒロインたちの能力を模倣し無双する!

藤川未来
ファンタジー
 主人公カイン(男性 20歳)は、あらゆる能力を模倣(コピー)する事が出来るスキルを持つ。  だが、カインは「モノマネだけの無能野郎は追放だ!」と言われて、勇者パーティーから追放されてしまう。  失意の中、カインは、元弟子の美少女3人と出会う。彼女達は、【希少種】と呼ばれる最強の種族の美少女たちだった。  ハイエルフのルイズ。猫神族のフローラ。精霊族のエルフリーデ。  彼女たちの能力を模倣(コピー)する事で、主人公カインは勇者を遙かに超える戦闘能力を持つようになる。  やがて、主人公カインは、10人の希少種のヒロイン達を仲間に迎え、彼女達と共に、魔王を倒し、「本物の勇者」として人類から崇拝される英雄となる。  模倣(コピー)スキルで、無双して英雄に成り上がる主人公カインの痛快無双ストーリー ◆◆◆◆【毎日7時10分、12時10分、18時10分、20時10分に、一日4回投稿します】◆◆◆

孤児のTS転生

シキ
ファンタジー
とある地球という星に住む男は仕事帰りに通り魔により殺されてしまった。 次に目を開けた時、男の頭の中には一人の少女の記憶が駆け巡り自分が今置かれている状況を知る。 此処は地球という星ではなく科学の代わりに魔法が発展した俗に言う異世界という所だった。 記憶によれば自分は孤児であり街の片隅にあるスラムにいるらしい。 何をするにもまず動かなくてはならない。 今日も探索、採取、狩猟、研究をする日々。 自分がまったりする日は少ししかない。 年齢5歳の身体から始まる鬼畜な世界で生き抜く為、今日も頑張ります!

まもののおいしゃさん

陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
まもののおいしゃさん〜役立たずと追い出されたオッサン冒険者、豊富な魔物の知識を活かし世界で唯一の魔物専門医として娘とのんびりスローライフを楽しんでいるのでもう放っておいてくれませんか〜 長年Sランクパーティー獣の檻に所属していたテイマーのアスガルドは、より深いダンジョンに潜るのに、足手まといと切り捨てられる。 失意の中故郷に戻ると、娘と村の人たちが優しく出迎えてくれたが、村は魔物の被害に苦しんでいた。 貧乏な村には、ギルドに魔物討伐を依頼する金もない。 ──って、いやいや、それ、討伐しなくとも、何とかなるぞ? 魔物と人の共存方法の提案、6次産業の商品を次々と開発し、貧乏だった村は潤っていく。 噂を聞きつけた他の地域からも、どんどん声がかかり、民衆は「魔物を守れ!討伐よりも共存を!」と言い出した。 魔物を狩れなくなった冒険者たちは次々と廃業を余儀なくされ、ついには王宮から声がかかる。 いやいや、娘とのんびり暮らせれば充分なんで、もう放っておいてくれませんか? ※魔物は有名なものより、オリジナルなことが多いです。  一切バトルしませんが、そういうのが  お好きな方に読んでいただけると  嬉しいです。

【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「話が違う!!」  思わず叫んだオレはがくりと膝をついた。頭を抱えて呻く姿に、周囲はドン引きだ。 「確かに! 確かに『魔法』は使える。でもオレが望んだのと全っ然! 違うじゃないか!!」  全力で世界を否定する異世界人に、誰も口を挟めなかった。  異世界転移―――魔法が使え、皇帝や貴族、魔物、獣人もいる中世ヨーロッパ風の世界。簡易説明とカミサマ曰くのチート能力『魔法』『転生先基準の美形』を授かったオレの新たな人生が始まる!  と思ったが、違う! 説明と違う!!! オレが知ってるファンタジーな世界じゃない!?  放り込まれた戦場を絶叫しながら駆け抜けること数十回。  あれ? この話は詐欺じゃないのか? 絶対にオレ、騙されたよな?  これは、間違った意味で想像を超える『ファンタジーな魔法世界』を生き抜く青年の成長物語―――ではなく、苦労しながら足掻く青年の哀れな戦場記録である。 【注意事項】BLっぽい表現が一部ありますが、BLではありません      (ネタバレになるので詳細は伏せます) 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2019年7月 ※エブリスタ「特集 最強無敵の主人公~どんな逆境もイージーモード!~」掲載 2020年6月 ※ノベルアップ+ 第2回小説大賞「異世界ファンタジー」二次選考通過作品(24作品) 2021年5月 ※ノベルバ 第1回ノベルバノベル登竜門コンテスト、最終選考掲載作品 2021年9月 9/26完結、エブリスタ、ファンタジー4位

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

西からきた少年について

ねころびた
ファンタジー
西から来た少年は、親切な大人たちと旅をする。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

容姿端麗文武両道なカップルは異世界でも悠々自適だが少し特殊だ。

仔犬
ファンタジー
容姿、才能、環境全てに恵まれたお供付きの4人はいつも優雅に過ごしていた。 ある日、月食を見ていた4人。 不思議な光に包まれ、気付けば彼女2人が居なくなっている。 目を開けた彼女達が空を見上げると月と太陽が隣り合うように並んでいるそこは魔法が使える異世界だった。 お供を連れて追いかける彼氏の2人。ばらばらになった彼らはそれでも余裕綽々で……? 愛たっぷり、優雅な、異世界の旅が始まる。

処理中です...