5 / 165
4.
しおりを挟む
で、道無き深い森の中をひたすらアヤトさんに手を引かれて歩き続ける事、2時間程。
辺りの様子に変化などは殆ど無く、僕は相変わらず昏い森の中にいるのだった。
浮かんだ光球のおかげで足下はちゃんと見えていて、転ぶ事も躓く事も無く歩けてはいるけれど、何せ補装もされていない蒸し暑い森の中を2時間も歩き続けているのだ。
僕の疲労はピークをとっくに超えまくっていた。
フン!軟弱者と罵るがいい。
もう学ランの中は汗だくで、じっとりと濡れたシャツが背中に貼り付く感触が気持ち悪くて堪らない。
僕の手を引いて少し前を歩くアヤトさんが、左手に剣を持って、ずっと下生えの草や木々の枝など、歩くのに邪魔なものを切り払ってくれているから、何となく泣き言が言えずに頑張っているが、本当は今すぐにでも座り込んでしまいたい程なのだった。
まだ着かないのかな?後どれだけ歩けばいいのかな?
何て事を延々と考えていたその時、
「もうちょっと進んでおきたいとこなんだけど、この辺で少し休憩をしようか?」
アヤトさんがようやく僕を振り返って、前方にあった高さ5m程の岩を剣で示した。
そのまま軽く剣を真横に振るう。
キン!と甲高い音がして岩が横真っ二つに割れると、高速で20m以上ブッ飛んだ岩の上半分が辺りの木々を薙ぎ倒し、ドォンという地響きをたてて木の陰にいた何かを数匹圧死させていた。
え?何?どういう事?
今さらっと何したのこの人…
木々が圧し折れる音と共にゲギャ!とか、グギャ!とかいう悲壮な声がいくつか聞こえてしまっていた僕は呆然と立ち竦んでいると、アヤトさんはゆっくりと僕の手を引いて、高さが腰下くらいの綺麗なテーブルと化した岩に座るようエスコートしてくれた。
ギギギと錆びたブリキのような動きで僕は腰を下ろす。
深く溜め息を吐いて何とか身体の力を抜くと、暫くして僕はアヤトさんから差し出されていたコップを受け取り、両手で包み込むようにして持った。
手が、みっともなく震えていた。
水筒から柑橘類の香りがする飲み物を注いでもらってコップに口をつける。
凄く冷たい。凄く美味しい。
それはレモンとミカンの間みたいな味のジュースで、僕はそのままゴクゴクと一気に飲み干してしまった。
身体に水分が浸透していくのを実感して、もう一度深く、深く溜め息を吐く。
ちょっとは落ち着いた、かも。
幸いな事に頭上の光は木々の陰までは届かず、僕達が風上にいる為か、異臭は漂ってこない。
グロ耐性は全く無いので、見ちゃいけないものが見えなくて本当に良かったんだけど、それよりもジュースのおかわりを貰えたりしないだろうか。
なんて、現実逃避かな?
辺りの様子に変化などは殆ど無く、僕は相変わらず昏い森の中にいるのだった。
浮かんだ光球のおかげで足下はちゃんと見えていて、転ぶ事も躓く事も無く歩けてはいるけれど、何せ補装もされていない蒸し暑い森の中を2時間も歩き続けているのだ。
僕の疲労はピークをとっくに超えまくっていた。
フン!軟弱者と罵るがいい。
もう学ランの中は汗だくで、じっとりと濡れたシャツが背中に貼り付く感触が気持ち悪くて堪らない。
僕の手を引いて少し前を歩くアヤトさんが、左手に剣を持って、ずっと下生えの草や木々の枝など、歩くのに邪魔なものを切り払ってくれているから、何となく泣き言が言えずに頑張っているが、本当は今すぐにでも座り込んでしまいたい程なのだった。
まだ着かないのかな?後どれだけ歩けばいいのかな?
何て事を延々と考えていたその時、
「もうちょっと進んでおきたいとこなんだけど、この辺で少し休憩をしようか?」
アヤトさんがようやく僕を振り返って、前方にあった高さ5m程の岩を剣で示した。
そのまま軽く剣を真横に振るう。
キン!と甲高い音がして岩が横真っ二つに割れると、高速で20m以上ブッ飛んだ岩の上半分が辺りの木々を薙ぎ倒し、ドォンという地響きをたてて木の陰にいた何かを数匹圧死させていた。
え?何?どういう事?
今さらっと何したのこの人…
木々が圧し折れる音と共にゲギャ!とか、グギャ!とかいう悲壮な声がいくつか聞こえてしまっていた僕は呆然と立ち竦んでいると、アヤトさんはゆっくりと僕の手を引いて、高さが腰下くらいの綺麗なテーブルと化した岩に座るようエスコートしてくれた。
ギギギと錆びたブリキのような動きで僕は腰を下ろす。
深く溜め息を吐いて何とか身体の力を抜くと、暫くして僕はアヤトさんから差し出されていたコップを受け取り、両手で包み込むようにして持った。
手が、みっともなく震えていた。
水筒から柑橘類の香りがする飲み物を注いでもらってコップに口をつける。
凄く冷たい。凄く美味しい。
それはレモンとミカンの間みたいな味のジュースで、僕はそのままゴクゴクと一気に飲み干してしまった。
身体に水分が浸透していくのを実感して、もう一度深く、深く溜め息を吐く。
ちょっとは落ち着いた、かも。
幸いな事に頭上の光は木々の陰までは届かず、僕達が風上にいる為か、異臭は漂ってこない。
グロ耐性は全く無いので、見ちゃいけないものが見えなくて本当に良かったんだけど、それよりもジュースのおかわりを貰えたりしないだろうか。
なんて、現実逃避かな?
0
お気に入りに追加
200
あなたにおすすめの小説
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
もしも最強の無法者が銀髪碧眼幼女になったら
東山統星
ファンタジー
18歳から10歳へ、金髪から銀髪へ、おれから私へ、少年から幼女へ──。
世界征服を企み、ヨーロッパからアジアの裏社会に君臨するルーシ・スターリングという少年がいた。
やがて薬物の過剰摂取でルーシは死に至り、天使を名乗る露出狂女の手引きで異世界へ転移した。
そして、新たな世界に訪れたルーシは、なんと銀髪碧眼の幼女に生まれ変わっていたのだった。
これは、愛らしい幼女になってしまった最強の無法者が表・裏社会問わず気に食わない連中をぶちのめす物語である。
※表紙は生成AIでつくりました
※他サイト様でも掲載しております
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる