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第一章
第三話
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無数に存在する世界の二つ、仮にAとBと呼ぼう。
今から約二千年前、AとBの世界がぶつかってしまった。
通常ならぶつかった時点でどちらか、あるいは両方の世界が消滅するはずだが、その二つの世界はぶつかり、重なってしまった。
世界同士が元々干渉し合っており、Aの世界の人間がBの世界に落ちてしまったり、Bの世界にあった物質がAの世界に流れていってしまったりということが多々あった。
そんな風に少しずつ少しずつ存在が混ざっていた為に、消滅せずにすんだのである。
最終的には、Aの世界をベースにして、Bの世界がそこに吸収される形で統合された。
その吸収されたBの世界には、ある変わった能力を持った人々が住んでいた。
その者たちは、天候を操ったり、作物等を急成長させたりと、Aの世界では考えられないことをしていた。
そんなBの住人達は、その能力を使いAの住人達を助けようとした。
そうやって恩を売れば、共存できるのではないかと考えたからだ。
それを受けて、Aの世界の住人達がしたことは、その恩恵にあずかることではなく、排除であった。
得体の知れない力を持つBの住人達を恐れたのだ。
いくら超常の力を持つと言っても、所詮は人の子。
あっという間に排除されていった。
Bの世界の住人達は、なんとか子孫を残すため超常の力を人前で使わず、隠れて生きていくようになった。
たまに、心優しき者が人を助けるためにその力を使えば、すぐに排除されることもあった。
そして約千年前、Bの世界の住人達が反旗を翻した。
その時、その住人達は自らを『魔』を操る者として『魔操者』と名乗り始めた。
超常の力を使って戦争を仕掛けたが、Aの世界の住人達によって多くの魔操者が排除されていたため、数で押され、双方大量の死者を出した。
そして、戦争が起きて約百年後に終わりを告げた。
後にこの戦争は人魔大戦と呼ばれている。
その後、魔操者達はそれぞれの考え方によって世界各地に散り散りになった。
大戦当時の気持ちのままに、世界各地でテロを繰り返す者達。
AとBは手を組んで一緒に生きていけるはずだと考える者達。
我感せずと独自の思想を持ち始めた者達。
そんな考え、思想に基づいて、魔操者、魔法使い、魔術師、魔導師、そして魔導使い。
そのようなグループや軍団、宗派、集団等に別れながら、今も受け継がれている。
エトゥウヌムはその中で、魔導使いと呼ばれる集団に属している。
魔導使いは別れた中でもかなり数の少ない人数だった。
『魔』についての研究のみを目的として集まった集団だったからだ。
『魔』の扱い方においてはトップクラスの集団で、頭のおかしい集団とも言われている。
魔導使い達は、『魔』関してのマッドサイエンティストであるとはよく言ったもので、後継者の中には行き過ぎた研究をしたことによって、他の『魔』を操る者達に粛清される者もいたほどだ。
そんな理由で数が非常に少ない魔導使い達は、なんとか血を絶やさずにいる方法は無いものかと考えた。
手っ取り早いのは子供を作ることだが、数が少ない今となっては、Aの住人と交わらなくてはならない。
だが、魔を操る才能を持つ子供がなかなか生まれなかった。
どうにか出来ないものかと研究に研究を重ねた。
分かったことは、魔導使いの後継者になるには、魂の形と質が一定以上してなくてはならないということだ。
形はBの世界の住人達の子孫である証。
質は『魔』を操る才能を示す。
その二つが一定以上一致して初めて後継者になれる。
そこまで分かったことで、魔導使い達は思いついた。
魂が一致する奴を探して、強制的に契約してしまおう、と。
そこで、魔導使い達が取った方法。
それが魔導書。
魔導書とは、魔導使いが自らの情報全てを書物として残したものだ。
記憶、感情、経験、知識、その他、己の全てを書物にする。
そして、一致する魂を持つ者の前に出現して、契約してもらうというわけだ。
だが、この方法には一つだけ穴がある。
魔導書を手に取ってもらうことは問題無い。
そういう人物だからこそ魂が一致するからだ。
だが、契約に関しては困ったことに手形でしか出来ないのだ。
手形に手を置いてもらう。
そこだけは運に任せるしかなかった。
だが魔導使い達は思った。
それはそれでロマンがあるな、と。
こうして魔導使い達は、数は少ないながらも血を絶やすことなく、生き延びている。
*****
「つまり、魔導使いってのは研究狂いの頭のおかしい集団ってことだよな?」
「そゆこと。どっちの世界の住人からも爪弾きにされ、それでも健気に頑張っている集団でもあるのですがね」
「そんなことやっていれば爪弾きにも合うに決まっているだろうが!」
ところ変わって、誠の家のリビングに向かい合わせに座っている二人。
誠は朝食であるトーストを食べながら、エトゥウヌムは誠が淹れたティーバッグの紅茶を飲みながら、魔導使いについて話し合いをしている。
「それで、気になるんだがその、迫害されていた人々というのは歴史を紐解けば相当出てくるのはわかるから、恐らくその中にいたのだろうとわかる。だが、人魔大戦なんて言葉聞いたことがないぞ」
「そりゃ、抹消されてるからな。主に魔法使いと魔術師共のおかげで」
「は?」
魔法使い達と魔術師達がAの世界の住人と契約したことによって、これらの事は世界各国の上層部のみが知り得る出来事となり、歴史からは抹消されたのだ。
「あ、排除云々は『魔女狩り』という言葉で残ってるぜ」
「……あ」
誠も魔女狩りと聞いて納得した。
「さあ他に何かあります?」
エトゥウヌムはそう言って紅茶を一気に飲んだ後、空になったカップを振っておかわりを要求した。
「魔導使いには契約すればなれるのか?」
「名乗ることはできるよ。何もできないけど」
「どういうことだ?」
「魔を操れなきゃ何もできませんからね。ちなみにその術は俺は知ってるし教えられる」
そこまで聞いた誠は、立ち上がってエトゥウヌムからカップを受け取りティーバッグで紅茶を淹れる。
淹れている間に、コップに水を入れて一気に飲み干して目を瞑って深呼吸。
それから目を開けて紅茶を淹れたカップをエトゥウヌムの前に置き、また目の前に座る。
「教えてくれ。俺は魔導使いになりたい」
「なんかさっきと随分雰囲気が変わったね。どしたの?」
「色々と胡散臭い気もするが、魔の操り方が知りたい。要は純然たる興味だ」
「ふーん」
エトゥウヌムは誠をじっと見つめる。
誠もエトゥウヌムをじっと見つめる。
そのまま十秒後。
「オーケー」
エトゥウヌムは誠を後継者として認め、己の全てを伝えることを決めた。
エトゥウヌムは立ち上がって優雅に一礼。
「改めまして、私の名前はエトゥウヌム・ソルム。よろしくお願いしますぜ、後継者殿」
それを受けた誠は、
「僕の名前は柊誠。エトゥウヌム、お前の知識全てを僕に寄越せ」
座ったままふんぞり返ってそう告げた。
こうして、柊誠は魔導使いとしての道を歩み始めた。
今から約二千年前、AとBの世界がぶつかってしまった。
通常ならぶつかった時点でどちらか、あるいは両方の世界が消滅するはずだが、その二つの世界はぶつかり、重なってしまった。
世界同士が元々干渉し合っており、Aの世界の人間がBの世界に落ちてしまったり、Bの世界にあった物質がAの世界に流れていってしまったりということが多々あった。
そんな風に少しずつ少しずつ存在が混ざっていた為に、消滅せずにすんだのである。
最終的には、Aの世界をベースにして、Bの世界がそこに吸収される形で統合された。
その吸収されたBの世界には、ある変わった能力を持った人々が住んでいた。
その者たちは、天候を操ったり、作物等を急成長させたりと、Aの世界では考えられないことをしていた。
そんなBの住人達は、その能力を使いAの住人達を助けようとした。
そうやって恩を売れば、共存できるのではないかと考えたからだ。
それを受けて、Aの世界の住人達がしたことは、その恩恵にあずかることではなく、排除であった。
得体の知れない力を持つBの住人達を恐れたのだ。
いくら超常の力を持つと言っても、所詮は人の子。
あっという間に排除されていった。
Bの世界の住人達は、なんとか子孫を残すため超常の力を人前で使わず、隠れて生きていくようになった。
たまに、心優しき者が人を助けるためにその力を使えば、すぐに排除されることもあった。
そして約千年前、Bの世界の住人達が反旗を翻した。
その時、その住人達は自らを『魔』を操る者として『魔操者』と名乗り始めた。
超常の力を使って戦争を仕掛けたが、Aの世界の住人達によって多くの魔操者が排除されていたため、数で押され、双方大量の死者を出した。
そして、戦争が起きて約百年後に終わりを告げた。
後にこの戦争は人魔大戦と呼ばれている。
その後、魔操者達はそれぞれの考え方によって世界各地に散り散りになった。
大戦当時の気持ちのままに、世界各地でテロを繰り返す者達。
AとBは手を組んで一緒に生きていけるはずだと考える者達。
我感せずと独自の思想を持ち始めた者達。
そんな考え、思想に基づいて、魔操者、魔法使い、魔術師、魔導師、そして魔導使い。
そのようなグループや軍団、宗派、集団等に別れながら、今も受け継がれている。
エトゥウヌムはその中で、魔導使いと呼ばれる集団に属している。
魔導使いは別れた中でもかなり数の少ない人数だった。
『魔』についての研究のみを目的として集まった集団だったからだ。
『魔』の扱い方においてはトップクラスの集団で、頭のおかしい集団とも言われている。
魔導使い達は、『魔』関してのマッドサイエンティストであるとはよく言ったもので、後継者の中には行き過ぎた研究をしたことによって、他の『魔』を操る者達に粛清される者もいたほどだ。
そんな理由で数が非常に少ない魔導使い達は、なんとか血を絶やさずにいる方法は無いものかと考えた。
手っ取り早いのは子供を作ることだが、数が少ない今となっては、Aの住人と交わらなくてはならない。
だが、魔を操る才能を持つ子供がなかなか生まれなかった。
どうにか出来ないものかと研究に研究を重ねた。
分かったことは、魔導使いの後継者になるには、魂の形と質が一定以上してなくてはならないということだ。
形はBの世界の住人達の子孫である証。
質は『魔』を操る才能を示す。
その二つが一定以上一致して初めて後継者になれる。
そこまで分かったことで、魔導使い達は思いついた。
魂が一致する奴を探して、強制的に契約してしまおう、と。
そこで、魔導使い達が取った方法。
それが魔導書。
魔導書とは、魔導使いが自らの情報全てを書物として残したものだ。
記憶、感情、経験、知識、その他、己の全てを書物にする。
そして、一致する魂を持つ者の前に出現して、契約してもらうというわけだ。
だが、この方法には一つだけ穴がある。
魔導書を手に取ってもらうことは問題無い。
そういう人物だからこそ魂が一致するからだ。
だが、契約に関しては困ったことに手形でしか出来ないのだ。
手形に手を置いてもらう。
そこだけは運に任せるしかなかった。
だが魔導使い達は思った。
それはそれでロマンがあるな、と。
こうして魔導使い達は、数は少ないながらも血を絶やすことなく、生き延びている。
*****
「つまり、魔導使いってのは研究狂いの頭のおかしい集団ってことだよな?」
「そゆこと。どっちの世界の住人からも爪弾きにされ、それでも健気に頑張っている集団でもあるのですがね」
「そんなことやっていれば爪弾きにも合うに決まっているだろうが!」
ところ変わって、誠の家のリビングに向かい合わせに座っている二人。
誠は朝食であるトーストを食べながら、エトゥウヌムは誠が淹れたティーバッグの紅茶を飲みながら、魔導使いについて話し合いをしている。
「それで、気になるんだがその、迫害されていた人々というのは歴史を紐解けば相当出てくるのはわかるから、恐らくその中にいたのだろうとわかる。だが、人魔大戦なんて言葉聞いたことがないぞ」
「そりゃ、抹消されてるからな。主に魔法使いと魔術師共のおかげで」
「は?」
魔法使い達と魔術師達がAの世界の住人と契約したことによって、これらの事は世界各国の上層部のみが知り得る出来事となり、歴史からは抹消されたのだ。
「あ、排除云々は『魔女狩り』という言葉で残ってるぜ」
「……あ」
誠も魔女狩りと聞いて納得した。
「さあ他に何かあります?」
エトゥウヌムはそう言って紅茶を一気に飲んだ後、空になったカップを振っておかわりを要求した。
「魔導使いには契約すればなれるのか?」
「名乗ることはできるよ。何もできないけど」
「どういうことだ?」
「魔を操れなきゃ何もできませんからね。ちなみにその術は俺は知ってるし教えられる」
そこまで聞いた誠は、立ち上がってエトゥウヌムからカップを受け取りティーバッグで紅茶を淹れる。
淹れている間に、コップに水を入れて一気に飲み干して目を瞑って深呼吸。
それから目を開けて紅茶を淹れたカップをエトゥウヌムの前に置き、また目の前に座る。
「教えてくれ。俺は魔導使いになりたい」
「なんかさっきと随分雰囲気が変わったね。どしたの?」
「色々と胡散臭い気もするが、魔の操り方が知りたい。要は純然たる興味だ」
「ふーん」
エトゥウヌムは誠をじっと見つめる。
誠もエトゥウヌムをじっと見つめる。
そのまま十秒後。
「オーケー」
エトゥウヌムは誠を後継者として認め、己の全てを伝えることを決めた。
エトゥウヌムは立ち上がって優雅に一礼。
「改めまして、私の名前はエトゥウヌム・ソルム。よろしくお願いしますぜ、後継者殿」
それを受けた誠は、
「僕の名前は柊誠。エトゥウヌム、お前の知識全てを僕に寄越せ」
座ったままふんぞり返ってそう告げた。
こうして、柊誠は魔導使いとしての道を歩み始めた。
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