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久しぶりの入浴

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 帰宅すると、ミエガさんは階段下で二人を結ぶ紐を手早く解いた。

「ほっ」

 俺が何か言う前に、ミエガさんは台車を両手で持ち上げる。

わたくしはこのまま食材などを保管しなくてはなりませんので、申し訳ないのですが、先に部屋に戻ってくださいますか?」
「いや私も手伝いますよ」

 と手を伸ばすがスススーッと彼女は後退してしまう。

「いえいえ。お構いなく」

 そのまま階段を登り始めてしまうので、俺も追いかけざるをえない。
 せめて扉を開けようと思ったが、普通に自分で開けていた上、俺が入るのを待ってくれる。
 なんとも言えない気分になりながら俺はミエガさんの前を通るのだった。

 ミエガさんはそのまま台所へ、俺は部屋に戻って椅子に座る。

「スンスン……。流石に汗臭いな」

 引きこもり状態だった俺は、体質や気候もあってかほとんど汗をかくことがなく、夜にたまに身体を拭いてもらうか外で頭を洗ってもらったついでに水をかぶるくらいだった。
 久しぶりの外出、しかも慣れない道中の移動。
 そりゃ汗くらいかくわな。

「はぁ……風呂入りたいなぁ」
「お風呂でございますか?」
「おぅわっ!?」

 ビックリしたぁ。
 突然真後ろに現れたミエガさんにビックリしてしまう。

「あ、しまったんですか?」
「入浴がしたいのでございますか?」
「え、あーいや。まあちょっと臭うかなぁなんて」
「そうでごさいますか?」

 ミエガさんは俺の身体の臭いを嗅ぎ出す。

わたくしは臭いは気になりませんよ」
「そうですか?」
「ええ。それはそれとして入浴でしたら、少しお待ちいただけましたら可能でございますよ」
「そうなんですか?」
「ええ。ではご用意して参りますねっ」

 そう言ってミエガさんは、あっという間に走り出て行った。

「…………お構いなくー」

 素早く静かに閉じられた扉に向かって俺は呟いた。


 *****


 部屋で待つこと小一時間。

「ご用意できましたっ」と嬉しそうに部屋にやってきたミエガさんと共に庭に行くと、そこには大きな木の浴槽が鎮座していた。
 少し離れたところには半分に切ったドラム缶くらいの大きさの鍋にぐつぐつとお湯がゆだっており、その隣には同じくらいの鍋に水が入っている。

「予想外にマジな風呂だ」
「まジ? でございますか?」
「ああ、その非常にお風呂だなと」
「ええ。お風呂でございます」

 浴槽の中にはすでにお湯が入っているらしく、湯気が立ち上っている。
 浴槽の横に敷かれた板の上に立って服を脱ぐと、隣にあった籠に全部入れた。

「あ、小さい桶ありますか?」
「どうぞ。よかったらお背中お流しいたしますよ」
「え? あ、ありがとうございます」

 あっさり背後をとられた俺は一応しゃがんでおく。

「かけますねっ」
「はい」

 掛け声の後に優しくお湯がかけられ、すぐにこれも優しくタオルらしきもので擦ってもらえ、またお湯をかけてもらう。

「では前を」
「ああ。前は自分でやりま」

 うん?
 なぜに空が見える?
 あ、そうか。
 俺今仰向けに倒れてるんだ。

「目を瞑っていてくださいね」
「…………はい」

 背中同様に優しくお湯をかけてもらい上半身をタオルで拭いてもらう。
 首、胸、腕に腹と綺麗にしてもらう。
 さらにそのまま下半身にもお湯がかけられそうになったところで慌てて俺は立ち上がった。

「あ、さすがにそこは自分でやりますから」
「…………」

 なぜ彼女は俺の股間を凝視しているのか。
 手で隠してはいるもののあまり見られるのは恥ずかしい。

「ミエガさん? 自分でやりますから」
「…………そうでございますか」

 ミエガさんはそう言ってまだ俺を見ていた。
 俺は諦めて後ろを向いて下半身も拭き、お湯をかける。
 チラッと肩口から見ると、彼女は目を細めて笑いながらこちらをジッと見つめていた。
 何がそんなに気になるのかが謎だ。
 俺は見なかったことにしてもう一度かけ湯をすると、浴槽に脚を入れた。
 そのままゆっくりと身体を沈め、肩まで浸かると足を伸ばして首を淵にかけた。

「あ゛ぁ゛~~~」

 思わず変な声を出してしまった。
 久しぶりの風呂。
 もう少しで日が落ちそうな雰囲気の空を眺めながらの屋外入浴は、贅沢すぎないかとも思った。
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