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引かれる二人
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「こちらがウルガ市場でございますよ」
「おおっ」
目の前にはズラーっと並ぶ店舗の数々。
ざっと見ただけで野菜、果物、肉に魚と多種の店舗がかなりあった。
なんと雑貨屋らしき所まである。
「この辺には食事できる場所は無いんですね。それどころかさっきあった串焼き屋みたいな所すら無いような……」
「昔はこの辺りでもそのような屋台が出ていたのですが、立ち食いによるトラブルが起きているうちに、いつの間にか住み分けされていたようなのでございます」
「トラブル?」
「食べ物の汚れが他の人に付いてしまったり、ゴミが捨てられていたり、酔って絡む人もいたそうでございますから」
なるほどね。
それは確かに。
「そのかわり、お食事に関してはあちらで非常に楽しむことができるので、一部の人以外からは好評なのでございます」
「一部?」
「どうしたって全ての人が満足することはあり得ませんから」
それも確かに。
*****
思いの外、市場は客が多くはなかった。
そうは言っても、多くはないってだけで、決して少ないわけではない。
どこで何を買うかが決まっているらしいミエガさんは、それなりの人混みの中をスイスイと歩いて行った。
もちろん、俺はそれについていく。
「……」
「…………」
「………」
「……………」
やはりと言うべきか、すれ違う人は一瞬こちらを見てはすぐに目を逸らす。
そりゃまあ目の前に手首同士を紐で結んだ二人が歩いていたら、俺だって見なかったことにするだろう。
数分歩くと、目的地についたらしく、ミエガさんが止まる。
そこには眼鏡に鷲鼻の痩せたお婆さんが椅子に座ってこちらを見上げていた。
「……芋はいつもの量かい?」
「はい、ありがとうございます」
特段挨拶もなく、お婆さんは横の箱から片手で芋の入った袋を取り出す。
無言でミエガさんに渡そうとした直後、俺の存在に気がつくと一瞬目を見張った。
さらに手首を見て、何かを納得したようなそぶりを見せると、ミエガさんに改めて芋を渡そうとした。
「ああ、私が持ちま」
「いえ、私が持ちます」
伸ばした左手が空振り、芋の袋はミエガさんの右手に。
「え、でもお代は」
両手塞がったしまえば払えないだろうに。
そう思ったのだが。
「もうもらってるさね」
「月初に組合を通してお支払いしているのでございます」
「そういうことさ」
「はあ」
サブスクみたいなもんか。
「ではまた」
「あいよ」
ミエガさんが歩き出せば俺も行くしかない。
「………………」
ん?
お婆さんはが何か言った気がして振り返るが、お婆さんはただボーッと俺たちのほうを見ているだけだった。
……なんかネミエルとおんなじ目をしているような……ま、気のせいだな。
そう思っていたのだが……。
「はい、マイガスさん。……これおまけね」
「ありがとうございますっ」
これは肉屋
「マイ……ガスさん、どうぞ」
「いつもありがとうございます」
これは魚屋。
さらに別の肉屋や野菜屋と、寄る店寄る店の店員が必ず、ミエガさんを見て、俺を見て、手首を見て、見なかったように普通に対応する。
その後、ネミエルと同じ目で俺を見てくるのだ。
そして今、キノコ屋らしき店の店員も俺たちを見て固まっていた。
「あのー……いつものを」
「え? あ、ああはいはい。いつものねうん」
あからさまに動揺する髭面のおっさん。
今日一番の反応である。
ミエガさんをチラッと見ると他のキノコも買うか迷っているらしく、しゃがんで吟味しだした。
チャンスだな。
「あのー」
「ひっ!? へっぶ……!」
小声で話しかけると、爺さんは大変挙動不審に口を押さえた。
「いや、そんな怖がらなくても……。ちょっと聞きたいことがあると言いますか」
コクコクと頷く爺さん。
「なんか……あなたと言い、どうも俺たちを見る目というか対応と言うか、なんか変なんですよ。なんか知ってます?」
爺さんはミエガさんをチラッと見ると、俺を手招きしてきた。
顔を寄せると、少し独特の臭いに顔をしかめそうになる。
「いいか。よーく聞くんだ。一回しか言わない」
「はあ」
「マイガスさんはいい子だ。だが同時にかなりお前にご執心だ」
「へ?」
「いいか。ヤバくなったらあの塔に駆け込め」
爺さんがこっそり指差した方を見る。
行きにミエガさんが言っていた図書館付きの学校が見えた。
「それと、あー……うん。これだけはもう一度言っておこう。マイガスさんはとてもいい子なんだ。それだけは忘れてくれるなよ。でないと」
「何をお話ししているのでございますか?」
「ひゃへええええ!」
突然ミエガさんの顔が至近距離に現れ、爺さんは奇声を上げてひっくり返る。
「大丈夫ですか!?」
慌てて抱き起こそうとするが、
「触るな!……あ、すまない。自分で立てる」
思いっきり拒絶されるが、まあ立てるなら大丈夫か。
「じ、じゃあまた来週、待っとるぞい」
「はぁい。ではまた」
「え? あ、さようなら」
ミエガさんにまた引きずられるようにキノコ屋から離れる。
やっぱり爺さんの目は、皆と同様の目になっていた。
「おおっ」
目の前にはズラーっと並ぶ店舗の数々。
ざっと見ただけで野菜、果物、肉に魚と多種の店舗がかなりあった。
なんと雑貨屋らしき所まである。
「この辺には食事できる場所は無いんですね。それどころかさっきあった串焼き屋みたいな所すら無いような……」
「昔はこの辺りでもそのような屋台が出ていたのですが、立ち食いによるトラブルが起きているうちに、いつの間にか住み分けされていたようなのでございます」
「トラブル?」
「食べ物の汚れが他の人に付いてしまったり、ゴミが捨てられていたり、酔って絡む人もいたそうでございますから」
なるほどね。
それは確かに。
「そのかわり、お食事に関してはあちらで非常に楽しむことができるので、一部の人以外からは好評なのでございます」
「一部?」
「どうしたって全ての人が満足することはあり得ませんから」
それも確かに。
*****
思いの外、市場は客が多くはなかった。
そうは言っても、多くはないってだけで、決して少ないわけではない。
どこで何を買うかが決まっているらしいミエガさんは、それなりの人混みの中をスイスイと歩いて行った。
もちろん、俺はそれについていく。
「……」
「…………」
「………」
「……………」
やはりと言うべきか、すれ違う人は一瞬こちらを見てはすぐに目を逸らす。
そりゃまあ目の前に手首同士を紐で結んだ二人が歩いていたら、俺だって見なかったことにするだろう。
数分歩くと、目的地についたらしく、ミエガさんが止まる。
そこには眼鏡に鷲鼻の痩せたお婆さんが椅子に座ってこちらを見上げていた。
「……芋はいつもの量かい?」
「はい、ありがとうございます」
特段挨拶もなく、お婆さんは横の箱から片手で芋の入った袋を取り出す。
無言でミエガさんに渡そうとした直後、俺の存在に気がつくと一瞬目を見張った。
さらに手首を見て、何かを納得したようなそぶりを見せると、ミエガさんに改めて芋を渡そうとした。
「ああ、私が持ちま」
「いえ、私が持ちます」
伸ばした左手が空振り、芋の袋はミエガさんの右手に。
「え、でもお代は」
両手塞がったしまえば払えないだろうに。
そう思ったのだが。
「もうもらってるさね」
「月初に組合を通してお支払いしているのでございます」
「そういうことさ」
「はあ」
サブスクみたいなもんか。
「ではまた」
「あいよ」
ミエガさんが歩き出せば俺も行くしかない。
「………………」
ん?
お婆さんはが何か言った気がして振り返るが、お婆さんはただボーッと俺たちのほうを見ているだけだった。
……なんかネミエルとおんなじ目をしているような……ま、気のせいだな。
そう思っていたのだが……。
「はい、マイガスさん。……これおまけね」
「ありがとうございますっ」
これは肉屋
「マイ……ガスさん、どうぞ」
「いつもありがとうございます」
これは魚屋。
さらに別の肉屋や野菜屋と、寄る店寄る店の店員が必ず、ミエガさんを見て、俺を見て、手首を見て、見なかったように普通に対応する。
その後、ネミエルと同じ目で俺を見てくるのだ。
そして今、キノコ屋らしき店の店員も俺たちを見て固まっていた。
「あのー……いつものを」
「え? あ、ああはいはい。いつものねうん」
あからさまに動揺する髭面のおっさん。
今日一番の反応である。
ミエガさんをチラッと見ると他のキノコも買うか迷っているらしく、しゃがんで吟味しだした。
チャンスだな。
「あのー」
「ひっ!? へっぶ……!」
小声で話しかけると、爺さんは大変挙動不審に口を押さえた。
「いや、そんな怖がらなくても……。ちょっと聞きたいことがあると言いますか」
コクコクと頷く爺さん。
「なんか……あなたと言い、どうも俺たちを見る目というか対応と言うか、なんか変なんですよ。なんか知ってます?」
爺さんはミエガさんをチラッと見ると、俺を手招きしてきた。
顔を寄せると、少し独特の臭いに顔をしかめそうになる。
「いいか。よーく聞くんだ。一回しか言わない」
「はあ」
「マイガスさんはいい子だ。だが同時にかなりお前にご執心だ」
「へ?」
「いいか。ヤバくなったらあの塔に駆け込め」
爺さんがこっそり指差した方を見る。
行きにミエガさんが言っていた図書館付きの学校が見えた。
「それと、あー……うん。これだけはもう一度言っておこう。マイガスさんはとてもいい子なんだ。それだけは忘れてくれるなよ。でないと」
「何をお話ししているのでございますか?」
「ひゃへええええ!」
突然ミエガさんの顔が至近距離に現れ、爺さんは奇声を上げてひっくり返る。
「大丈夫ですか!?」
慌てて抱き起こそうとするが、
「触るな!……あ、すまない。自分で立てる」
思いっきり拒絶されるが、まあ立てるなら大丈夫か。
「じ、じゃあまた来週、待っとるぞい」
「はぁい。ではまた」
「え? あ、さようなら」
ミエガさんにまた引きずられるようにキノコ屋から離れる。
やっぱり爺さんの目は、皆と同様の目になっていた。
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