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地味に遠い街
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教会の扉まで連れてこられた俺は、ミエガさんから何回目か分からない忠告を受けていた。
「では絶対に私から離れないでくださいね」
何回目かわからない「離れられないんだが」を思いながらしっかりと繋がれた右手を見下ろす。
「街までどのくらいなんですか?」
「そうですね。大体……三十分ほどですね」
「……地味に遠いですね」
「そうですか?」
その辺の時間感覚は違うのかな。
俺なら少なくとも自転車は確定だな。
まあ無いけど。
「では行きましょう」
扉が軋みながら開いていく。
日の光の筋が少しずつ太くなっていく。
そしていよいよ開ききった外は……。
「……………………まあ普通ですね」
庭からの眺めと大した変わりはなく、強いていうなら少し段差があって、緩やかな下り坂が続いているように見えるくらいか。
「どうかなさいましたか?」
「いえ別に」
「そうでございますか? では参りましょう。足下気をつけてくださいませ」
ミエガさんと俺は共に歩き出した。
「階段には気をつけてくださいませ」
手を繋ぎながら一段一段少しずつ降りていく。
「あ、材質変わりますよ」
「材し……ああ」
階段が終わって土道になった時、ミエガさんは先に降りて手をしっかりと組みながら、俺をエスコートしてくれた。
ちょっと細かかった。
*****
革靴で土道を歩くのはキツいんだとい事を味わう頃。
そういえば、彼女とまともに並んで歩くのは初めてだ、ということに気がついた。
ミエガさんは思っていたよりも歩幅が大きく、たまに俺が少し遅れるほどには歩くのが速い。
俺と目線があまり変わらないし、ゆったりとした服装の彼女しか見ていないから分からないが、もしかしたらかなり足が長いのかもしれないな。
「良い天気でございますね」
「そう、ですね」
確かに良い天気だ。
まだギリギリ昼前だが太陽はすでにそこそこ高く思える。
空も澄み切り所々の雲は良いアクセントになってる気がした。
ただ……。
「見渡す限り、なんも無いですね」
「ええ。そうでございますね」
のほほんと答える彼女の周りには、どこか花っぽいものが浮かんでいるみたいだ。
「ユズル様の世界の教会は街の中にあるのですか?」
「あーそうだったようなそうじゃなかったような」
俺、別にそう言った事に興味なかったから分からんのだよな。
あ、そういえばそこそこ大きい車道横に唐突にデッカイ教会があったな。
「そうだったんですか」
「ま、まあ。こ、この世界の教会はどうなんですか? どの教会もああいうところに?」
「ええ。どの教会もどうやら人里からは少しだけ離れだところに建てられているそうですよ。私が研修で行った場所も同じくらい離れておりました」
「そうなんですか。もしかして、人があまりいない方が神聖な気が高まる、とか?」
「いえ。人がすぐに頼れないように、でもすぐに頼れるように、そのちょうど良い塩梅の場所。と私は聞かされております」
「なるほど」
確かに三十分というのは目安になりそうだ。
近くて遠い。遠くて近い。
どうしても困っている時は距離関係なく頼るが、三十分もかかる場所ならまあ自分でなんとかしようと思うかもしれない。
さりげなく選択肢を与えているわけか。
「え、じゃあ教会に人が来ないのって……」
「よく皆様はもう少し近ければとおっしゃられていますね」
「なるほど……」
ウルガの人々は少々面倒くさがりなのかもしれないな。
「あ、見てくださいっ」
「どれです?」
「あれです」
そう言って長い人差し指で刺された方向を見ると、赤っぽい屋根や青っぽい屋根にクリーム色やらとカラフル、なのにどこかシックな色合いの建物が見えてきた。
「あそこがウルガ地区四でございます」
「へえ。あの高い建物は?」
一際目立つ細長く見える建物を指さす。
「あちらは学校でございます」
「大っきいですね」
「図書館が併設されておりまして、その書庫などが大部分でございますね。私も時折借りに行くのでございますよ」
「へえー」
「さ。あと少しでございますよ」
「はいっ」
こうしてのんびりと話しながら歩いている間に、俺は初めての異世界街に足を踏み入れたのだった。
「では絶対に私から離れないでくださいね」
何回目かわからない「離れられないんだが」を思いながらしっかりと繋がれた右手を見下ろす。
「街までどのくらいなんですか?」
「そうですね。大体……三十分ほどですね」
「……地味に遠いですね」
「そうですか?」
その辺の時間感覚は違うのかな。
俺なら少なくとも自転車は確定だな。
まあ無いけど。
「では行きましょう」
扉が軋みながら開いていく。
日の光の筋が少しずつ太くなっていく。
そしていよいよ開ききった外は……。
「……………………まあ普通ですね」
庭からの眺めと大した変わりはなく、強いていうなら少し段差があって、緩やかな下り坂が続いているように見えるくらいか。
「どうかなさいましたか?」
「いえ別に」
「そうでございますか? では参りましょう。足下気をつけてくださいませ」
ミエガさんと俺は共に歩き出した。
「階段には気をつけてくださいませ」
手を繋ぎながら一段一段少しずつ降りていく。
「あ、材質変わりますよ」
「材し……ああ」
階段が終わって土道になった時、ミエガさんは先に降りて手をしっかりと組みながら、俺をエスコートしてくれた。
ちょっと細かかった。
*****
革靴で土道を歩くのはキツいんだとい事を味わう頃。
そういえば、彼女とまともに並んで歩くのは初めてだ、ということに気がついた。
ミエガさんは思っていたよりも歩幅が大きく、たまに俺が少し遅れるほどには歩くのが速い。
俺と目線があまり変わらないし、ゆったりとした服装の彼女しか見ていないから分からないが、もしかしたらかなり足が長いのかもしれないな。
「良い天気でございますね」
「そう、ですね」
確かに良い天気だ。
まだギリギリ昼前だが太陽はすでにそこそこ高く思える。
空も澄み切り所々の雲は良いアクセントになってる気がした。
ただ……。
「見渡す限り、なんも無いですね」
「ええ。そうでございますね」
のほほんと答える彼女の周りには、どこか花っぽいものが浮かんでいるみたいだ。
「ユズル様の世界の教会は街の中にあるのですか?」
「あーそうだったようなそうじゃなかったような」
俺、別にそう言った事に興味なかったから分からんのだよな。
あ、そういえばそこそこ大きい車道横に唐突にデッカイ教会があったな。
「そうだったんですか」
「ま、まあ。こ、この世界の教会はどうなんですか? どの教会もああいうところに?」
「ええ。どの教会もどうやら人里からは少しだけ離れだところに建てられているそうですよ。私が研修で行った場所も同じくらい離れておりました」
「そうなんですか。もしかして、人があまりいない方が神聖な気が高まる、とか?」
「いえ。人がすぐに頼れないように、でもすぐに頼れるように、そのちょうど良い塩梅の場所。と私は聞かされております」
「なるほど」
確かに三十分というのは目安になりそうだ。
近くて遠い。遠くて近い。
どうしても困っている時は距離関係なく頼るが、三十分もかかる場所ならまあ自分でなんとかしようと思うかもしれない。
さりげなく選択肢を与えているわけか。
「え、じゃあ教会に人が来ないのって……」
「よく皆様はもう少し近ければとおっしゃられていますね」
「なるほど……」
ウルガの人々は少々面倒くさがりなのかもしれないな。
「あ、見てくださいっ」
「どれです?」
「あれです」
そう言って長い人差し指で刺された方向を見ると、赤っぽい屋根や青っぽい屋根にクリーム色やらとカラフル、なのにどこかシックな色合いの建物が見えてきた。
「あそこがウルガ地区四でございます」
「へえ。あの高い建物は?」
一際目立つ細長く見える建物を指さす。
「あちらは学校でございます」
「大っきいですね」
「図書館が併設されておりまして、その書庫などが大部分でございますね。私も時折借りに行くのでございますよ」
「へえー」
「さ。あと少しでございますよ」
「はいっ」
こうしてのんびりと話しながら歩いている間に、俺は初めての異世界街に足を踏み入れたのだった。
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