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気がついてしまった
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時が経つのは早いもので、あれからもう……約一ヶ月が経過していた。
早すぎだし経過しすぎだ。
ということに気がついたのは本当にたった今。
ベッドの上で、窓越しにミエガさんを眺めているたった今だ。
遠目で見ても鼻歌を歌っているかのようなご機嫌具合でハーブを積んでいるミエガさんは、俺が見ていることに気がついて急いでこちらに向かってくる。
呼んでると思わせたらしい。
慌てて窓を開いた時にはもう目の前だった。
「どうかなさいましたか!?」
「ごめんなさい。なんとなく見えたので見てました」
「そうでしたか。あっ、すぐそちらに参りますねっ」
ミエガさんは小走りで壁沿いに消える。
すぐに玄関の扉が開く音がして、部屋に入ってきた。
「なんか申し訳ないですね」
「いえいえ。それでどうかなさいましたか?」
「ホントに何も無いんですよ」
「本当でございますか?」
やけに念入りに聞いてくるな。
「本当です」
「なら良いのですが。いつもでしたらこの時間はお休みになられてますから」
「ああ……正直に言いますと、そのことについさっき気がつきました……」
そう言うとミエガさんは少し目を開く。
「不思議なもんですねぇ」
「……おそらくですが、ユズル様の身体が動かなくなったのは、疲れていたからなのではないでしょうか」
「いや、それはそうでしょうけど。だからって、それだけでこんなになりますかね?」
「ユズル様は長い間身体を酷使されていたのでしょう? おそらく肉体的にも精神的にも限界をとうに超えてしまっていたんだと思います」
なるほど。
彼女の意見はもっともだ。
気絶するまで仕事をし、先輩に叩き起こされて気絶するまでまた仕事。
これを延々と繰り返していた結果、ここ一年は気絶でしか眠れなくなっていたし。
それを鑑みれば、この一ヶ月の状態は当たり前だったのかもしれない。
「ユズル様?」
「ああごめんなさい。ちょっと考え事を」
「考えられるようになったというのは良いことですよ。それだけ休めていたということですから」
「みたいですね」
そこで俺の腹が鳴ってしまう。
「うふふふ。では昼食にいたしましょう」
「昼食というよりは朝食ですけどね、俺は」
「では少々お待ち下さいね」
ミエガさんが部屋を出ようとするので、
「ああ。俺も行きます」
と言ってベッドから降りようとするが、なぜかミエガさんの足が止まった。
「ミエガさん?」
「ユズル様はこちらでお待ち下さいませ」
「え? ですが」
「ユズル様はこちらでお待ち下さいませ」
「いやあの」
「ユズル様はこちらでお待ち下さいませ」
ミエガさんは全く振り返らずに同じ言葉を繰り返す。
「えーっとー……はい」
こちらが承諾すると、ようやく部屋から出て行った。
なんとなく怒っていたような気がするんだが、俺何かしたんだろうか。
何もしていないんだった。
毎日毎日食っちゃ寝食っちゃ寝。
そりゃ怒るよなぁ。
「お待たせしました」
そうこうしていると、ミエガさんがお盆を抱えて帰ってきた。
「今日はミートボールですよ」
「おいしそうですね」
「へひゃっ!?」
「へひゃっ?」
また妙な声を……。
「どうしました?」
「い、いぃえ! そのあの……、ユズル様が、美味しそうと……」
…………あれ?
「ミエガさん? もしかして俺って食事の時何も言ってませんでした……よね」
聞きながら思い出してきた。
俺は彼女が作ってくれた食事をただ淡々と食べていた。
それどころか初日からずっと彼女に食べさせてもらっていた。
「本当にごめんなさい!」
俺は思わずベッドの上で土下座する。
「や、やめてさいませ! ユズル様、頭を上げてください!」
直後、悲鳴のような大声が降ってきた。
頭を上げると顔面蒼白で涙目になったミエガさんがこちらを見下ろしている。
お盆を持つ手が震えていて今にも落としそう。
慌ててベッドから飛び降りて彼女の手からお盆を取……れない! 力強いな!
「謝らないでください頭を上げてくださいユズル様頭を謝らないでください」
ちょミエガさんが壊れた!?
同じことをぶつぶつと呟き始めてしまった彼女の顔の目の前に、自分の顔を突きつける。
「ミエガさん! 俺は頭を上げてます! ほら顔見えてください!」
彼女の翠眼に中途半端な髭面が写っている。
「私が悪いのですだってユズル様……ユズル様?」
「ミエガさん?」
「ユズル、様? ハッ!? もももも申し訳ございません! 失礼いたします!」
ミエガさんは持っていたお盆をベッドに置いて部屋を飛び出していった。
「えー……」
早すぎだし経過しすぎだ。
ということに気がついたのは本当にたった今。
ベッドの上で、窓越しにミエガさんを眺めているたった今だ。
遠目で見ても鼻歌を歌っているかのようなご機嫌具合でハーブを積んでいるミエガさんは、俺が見ていることに気がついて急いでこちらに向かってくる。
呼んでると思わせたらしい。
慌てて窓を開いた時にはもう目の前だった。
「どうかなさいましたか!?」
「ごめんなさい。なんとなく見えたので見てました」
「そうでしたか。あっ、すぐそちらに参りますねっ」
ミエガさんは小走りで壁沿いに消える。
すぐに玄関の扉が開く音がして、部屋に入ってきた。
「なんか申し訳ないですね」
「いえいえ。それでどうかなさいましたか?」
「ホントに何も無いんですよ」
「本当でございますか?」
やけに念入りに聞いてくるな。
「本当です」
「なら良いのですが。いつもでしたらこの時間はお休みになられてますから」
「ああ……正直に言いますと、そのことについさっき気がつきました……」
そう言うとミエガさんは少し目を開く。
「不思議なもんですねぇ」
「……おそらくですが、ユズル様の身体が動かなくなったのは、疲れていたからなのではないでしょうか」
「いや、それはそうでしょうけど。だからって、それだけでこんなになりますかね?」
「ユズル様は長い間身体を酷使されていたのでしょう? おそらく肉体的にも精神的にも限界をとうに超えてしまっていたんだと思います」
なるほど。
彼女の意見はもっともだ。
気絶するまで仕事をし、先輩に叩き起こされて気絶するまでまた仕事。
これを延々と繰り返していた結果、ここ一年は気絶でしか眠れなくなっていたし。
それを鑑みれば、この一ヶ月の状態は当たり前だったのかもしれない。
「ユズル様?」
「ああごめんなさい。ちょっと考え事を」
「考えられるようになったというのは良いことですよ。それだけ休めていたということですから」
「みたいですね」
そこで俺の腹が鳴ってしまう。
「うふふふ。では昼食にいたしましょう」
「昼食というよりは朝食ですけどね、俺は」
「では少々お待ち下さいね」
ミエガさんが部屋を出ようとするので、
「ああ。俺も行きます」
と言ってベッドから降りようとするが、なぜかミエガさんの足が止まった。
「ミエガさん?」
「ユズル様はこちらでお待ち下さいませ」
「え? ですが」
「ユズル様はこちらでお待ち下さいませ」
「いやあの」
「ユズル様はこちらでお待ち下さいませ」
ミエガさんは全く振り返らずに同じ言葉を繰り返す。
「えーっとー……はい」
こちらが承諾すると、ようやく部屋から出て行った。
なんとなく怒っていたような気がするんだが、俺何かしたんだろうか。
何もしていないんだった。
毎日毎日食っちゃ寝食っちゃ寝。
そりゃ怒るよなぁ。
「お待たせしました」
そうこうしていると、ミエガさんがお盆を抱えて帰ってきた。
「今日はミートボールですよ」
「おいしそうですね」
「へひゃっ!?」
「へひゃっ?」
また妙な声を……。
「どうしました?」
「い、いぃえ! そのあの……、ユズル様が、美味しそうと……」
…………あれ?
「ミエガさん? もしかして俺って食事の時何も言ってませんでした……よね」
聞きながら思い出してきた。
俺は彼女が作ってくれた食事をただ淡々と食べていた。
それどころか初日からずっと彼女に食べさせてもらっていた。
「本当にごめんなさい!」
俺は思わずベッドの上で土下座する。
「や、やめてさいませ! ユズル様、頭を上げてください!」
直後、悲鳴のような大声が降ってきた。
頭を上げると顔面蒼白で涙目になったミエガさんがこちらを見下ろしている。
お盆を持つ手が震えていて今にも落としそう。
慌ててベッドから飛び降りて彼女の手からお盆を取……れない! 力強いな!
「謝らないでください頭を上げてくださいユズル様頭を謝らないでください」
ちょミエガさんが壊れた!?
同じことをぶつぶつと呟き始めてしまった彼女の顔の目の前に、自分の顔を突きつける。
「ミエガさん! 俺は頭を上げてます! ほら顔見えてください!」
彼女の翠眼に中途半端な髭面が写っている。
「私が悪いのですだってユズル様……ユズル様?」
「ミエガさん?」
「ユズル、様? ハッ!? もももも申し訳ございません! 失礼いたします!」
ミエガさんは持っていたお盆をベッドに置いて部屋を飛び出していった。
「えー……」
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