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尿するの尿瓶

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 陽の光から多分夕方の五時くらいだろうか。
 そこそこ時間は経った気がする。
 久しぶりにベッドに身体を預けてはみたが、やはり休むならこの体勢が一番だなと改めて実感していた。
 ベッドから降りずに伸びをすると、背中がビキビキと音が鳴る。
 起き上がろうと思ったが、小さい机の上のベルが目に入り、先ほどの事を思い出した。
 また起きてたらミエガさん、キれるかな。
 さっきもベッドから起き上がらせてくれなかったし。
 呼ぶか?
 つかトイレ行きたくなってきたんだよな。
 場所わからんし呼ぶか。
 上半身だけ起こしてベルを手に取った。

 ——リーーーーン

 澄みきった音が部屋で響く。
 鳴らしてから思ったが扉を開けて無いと意味な……。

「ユズル様。ゆっくりお休みになれましたか?」

 速かったぁ。
 なんならもう扉の裏でスタンバッてたんじゃなかろうか。

「は、はい。まあ休めました」
「それは良かったです。ところで何かご用でしょうか?」
「お手あ…….」

 俺は気がついた。
 この人は水を飲ませるために哺乳瓶を持ってくる人だ。
 ここでトイレと言ったら、ミエガさんはもしかしたら……いや。
 ちゃんと断ればいいんだ。
 口移しも断り切れたわけだし。

「ミエガさん。お手洗いはどこでしょうか?」
「お手洗いでございますか? でしたらこちらにお持ちしますね!」
「いやいやいやいや場所を教えてください! 自分で出来ますから! ほらもう休んだから立てますし! ね!」

 ベッドから立ち上がって軽くジャンプする。

「ですが……いえ、わかりました。ではご案内いたしますね」
「ありがとうございます」

 予想通りここでさせるつもりだったらしい。
 危なかった。

 トイレは部屋を出て少し歩いたところにあった。
 思いの外遠くて、やはり少し広い建物なのだろう。

「こちらでございます」

 そう言ってトイレの扉を開いてくれる。

「ありがとうございます」

 お礼を言って中に入る。
 トイレはボットンだった。
 まあこのくらいは予想していたし問題は無い。
 チャックを下ろしてモノを出し、

「ではこちらを」
「……え?」

 そっと後ろから差し出された尿瓶。

「ユズル様?」

 俺はゆっくり振り返る。

「な、なぜ中におられるのですか?」
「お手伝いを」
「いらないんですけど?」
「遠慮する事はないのですよ? わたくしはそういった事も練習しておりますゆえ」
「おります言われましても、流石にそこまで弱ってませんからね!」
「確かに大人の男性にした事はありませんが、子供でしたら研修で何度か経験がありますから」

 なにその食い下がり。

「いやいやホントに。ホントに!」
「恥ずかしがらずに」
「恥ずかしいというよりも常識的に考えてください!」
「常識的に考えて病人のユズル様のお世話をするのは当たり前です」
「俺は病人じゃないです!」
「いえ病人です! そうでなくてはおかしいんです!」
「はい?」
「あっ! え、あの、失礼いたします!」

 えーーーー。
 ミエガさんはトイレから飛び出していった。
 俺はとりあえず用だけ足してしまう。
 横にあった桶に水が溜まってたのでそれで手を洗う。

「ミエガさんっ」

 トイレから出たらすでにミエガさんはいなかった。
 追いかけるか?
 いやでも構造がわからん。
 とりあえず部屋に戻ってベッドに腰掛ける。
 ふと顔を上げると、さっき鳴らしたベルが目に入った。

「…………まさかね」

 俺はベルを手に取った。

「よし」

 ——リーーーーン

 ——カチャッ

 扉が少しだけ開いて、隙間からミエガさんが翠眼がこちらを見ていた。
 マジで来たこの人。

「ミエガさん?」
「ゆ、ズル様……? 何かご用でしょう、か?」

 か細い!
 さっきまでの勢いが無い!

「あぁーミエガさん。部屋に入ってください」
「…………よろしいのですか?」
「いやそもそも私の部屋では無いですから」
「…………はい」

 ミエガさんがそーっと入ってくる。

「あの、先程は大変失礼を……。申し訳ございません……」
「いやそこまでしないでください!」

 フッカブカな全力頭下げに、慌てて駆け寄る。

「ね? 頭あげてください」
「ですがその……」
「理由はよくわからないですけど、私は全然気にしてませんから」
「本当に申し訳ございません……」
「じじじゃあ頭を上げてください!」

 ようやく顔を上げてくれたミエガさんの目をしっかり見る。

「ミエガさん。もう一度言いますね。理由はわからないですけど、私は本当に気にしていません」
「………はい」

 ようやく落ち着いてくれたミエガさんは俺の手を握って言った。

「では尿瓶はご自分でお使いになられますか?」
「尿瓶そのものがいらないです」
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