転生しました。

さきくさゆり

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第五章

背の高い女医さんってなんかいいよね

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☆☆まえがき☆☆

注意︰今回作中にて人よっては不愉快になる表現が入ります。ご了承ください。

☆☆☆☆☆☆☆☆


「こちらになります。面会時間は十五分。何かあったらその場で終了になります」
「わかりました」

 やはり花梨は警察病院に入院していた。
 基本的にはボーッとしているか寝ているからしいが、発狂することもあり、稀に自傷行為まで行うそうだ。
 点滴も下手に打っていると勝手に取ったりして周りは血だらけなんてことも多々あったらしい。
 相当だな。

「では」

 白衣を着たおっさんが扉を開けてくれた。

「…………」

 体感で一ヶ月、実際は一年ぶりの花梨は正直かつての面影は残っているものの、ほぼ別人となっていた。

 頬はこけて、長かった髪はグシャグシャで、目も落ち窪み、ハッキリ言ってしまえば、ほぼゾンビと言えなくもない。

 ベッドの上半分を起こして、背もたれのようにして寝ている花梨は、俺が入ってきたのに気がついていないのか天井をじっと見つめている。

「……小鳥遊さんはほとんどの時間はこのように過ごしています」

 左から声がしたのでそちらを向くと、白衣を着た女性が座ったままこちらを向いていた。

「どちらさま?」
「あんたが和樹君?目つき悪いわねぇ」

 張っ倒すぞこのアマ。っていかんいかん。

「そうですよ。それであなたは?」
「なによー。張っ倒すぞこのアマって言いそうな顔してるくせにつまんないわねぇ。まいいけど。この子の担当なのよ。名前はさかきかおる。よろしく」

 気だるそうに座ったまま右手をこっちに差し出してきたので俺も軽く握り返す。

「知ってる?握手する時の強さって結構重要なのよ。軽く握るより強く握ったほうが好意的なんだなって取ってもらえるのよ」
「へー。じゃあ砕けるほど握ったほうがいいですかね」
「やれるもんならね」

 ホントに砕くぞ。
 一応ギュッと握り直したらニコッと笑って向こうも握り返……。

「痛いです」
「それだけ好意的ってこと。ま、挨拶はこれくらいで」

 パッと向こうが手を離して立ち上がった。
 榊さんは背が非常にお高い女性だった。
 だって俺を見下ろしているんだもの。

「さ。お話どうぞ」

 と言って榊さんは右手を広げて花梨に向けた。

「なんか注意事項とかは?」
「無いわよ。なに?あんた花梨ちゃんが噛み付くとでも?」
「いや別に噛みつかれても問題無いけどさ」
「ふーん。面白いわねー」

 すっげぇ棒読み。
 俺は榊さんが椅子に座り直しているのを尻目に、花梨に近づいた。

 近くで見ると花梨の肌がボロボロなのもわかった。

 真横に来たのに全く反応を示さない花梨に俺はどう声をかけたものかと少し考えた。

「……花梨。久しぶり」

 考えた結果、普通に挨拶することにした。

「…………」
「俺だよ。和樹だよ」

 すると花梨の目玉が一瞬だけ動いた。
 どうも名前に反応したらしい。

「ホントは一ヶ月前に目が覚めてたんだけどさ。色々あって遅くなった。ごめんな」
「…………」
「…………花梨。あんま食べてないんだって?そりゃ肌もボロボロになるよ。寝てばっかみたいだから睡眠は足りてるらしいけど、栄養取らなきゃダメだよ」
「…………」
「また来るよ。おやすみ花梨」

 俺は手を伸ばして頭を撫でようとして、やめた。

 部屋から出ると、一緒に榊さんも出てきた。

「なんですか?」
「私も交代なんだ」

 そう言って榊さんが視線を向けた先には、白衣をきた榊さんと同い年くらいの女性が立っていた。
 その女性は俺達に会釈して、部屋に入っていった。

「というわけで和樹くん、コーヒーでも飲まないか?」
「どういうわけですか」
「まあまあ積もる話は無いだろうけどこれもちょっとしたコミュニケーションだよ」

 なんて言って歩き出す榊さんは高身長なのもあってか中々カッコよかった。
 俺はその背中を眺めてから、クルッと回れ右をして廊下を歩きだ

「このシチュエーションで普通帰るかね」

 せなかった。

「いや積もる話が無いのになんで一緒に。ていうか襟が伸びるから掴まないでくださいよ」
「まあまあコーヒーは奢るから来なさい来なさい」

 そのまま引き摺られるのも嫌なので渋々、ホント渋々ついていくことにした。


「いいですか。屋上なんて」
「いいんだよ。むしろ屋上だからこそいいんじゃないか。のーんびり空でも見てみなさいな」
「はあ……」

 一階の自販機で缶コーヒーを二本買った榊さんに付いていくと、屋上に連れて行かれた。
 扉の鍵を榊さんが開けて俺たち二人は、屋上に出た。

「クーッ!うっまいねぇーっ」

 腰に手を当て、風呂上がりの牛乳を飲むように缶コーヒーを煽ってる榊さん。
 なんだか変な先生だな。

「それで、和樹君はどうするんだい?」
「何がですか?」
「そりゃ君、花梨ちゃんのことに決まってるだろ」
「どうもこうも、やれることは無いでしょ。せいぜい話しかけるくらいですよ」
「ふーん。じゃあ毎日来ると?」
「当たり前じゃないですか」

 そうじゃないと意味がない。

「そっ。なら笑って会わないとね」
「え?」
「君さ。さっき全く笑ってなかったよ」
「いやいや。笑えないでしょ」

 あんな花梨の姿見て笑うとか無理だわ。

「いやいや。笑わないと。月並みなこと言うようで悪いけど、ああいう状態だからこそ笑って接してあげないと駄目なんだよ。それがキッカケでもとに戻ることもあるんだから」
「……小説かなんかじゃそうかもですね。でも現実問題自分が同じ状況なら笑われたら、何わろとんねんってブチ切れますよ」
「切れるってんなら意識が戻ってるよね?」
「…………」
「君を刺し殺してああなってるんだから、君が笑って怒ってないよーってアピールしてあげないと、ずーっとああ何じゃないかなって私は思うよ」

 ふーん……。

「たった一年程度の付き合いで花梨のこと分かった風に言いますね。悪いですけど花梨がああなのは俺を刺したからってだけじゃないですよ」
「いやいや一年も付き合いないよ。丁度君が目覚めたくらいだから一ヶ月程の付き合いになるかな」
「はあ?!」
「まあこれはこの手の専門家としての意見だ。参考程度には聞いておけ」

 榊さんは空になった缶をゴミ箱に向かって投げ入れた。

「ないっしゅー」
「自分で言います?」
「君は言ってくれなさそうだったからね」

 まあ言わねぇな。

「というわけで明日も来るならまた明日。今度は笑顔でねー」

 榊さんは手を振りながら屋上から出て行った。
 俺はコーヒーを一気に飲んでからゴミ箱に向かって投げた。
 丁度吹いてきた風で狙いが少しずれて缶は下に落ちた。

「チッ」

 缶を拾いに行って気がついた。

「屋上の鍵どうすんの?」
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