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8.ヒイラギナンテンは、激しい感情を伝える

終わらない夜

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「恥ずかしい、穂積、恥ずかしいよっ」
「言っただろう? 俺との思い出を強くすればいいって」
「だからって……、いやらしすぎる……」
「はは。今さらだ。階段を登る震動で、ひとりでイッちゃったのは誰?」

 香乃のベッドの前には、壁から移動させられた姿見がある。
 そこに映っているのは、裸の香乃。
 後ろから抱きしめるようにして、穂積の手が香乃の胸を揉みしだいている。
 両足は大きく広げられ、座りながら繋がっているのが丸わかりだ。
 男を誘うような、艶めかしい女の体――三十年近く付き合ってきたはずの自分のものではないみたいだ。

「顔を背けない。ちゃんと見て、俺が香乃を愛するところ」
「……っ」

 白い自分の体に、筋肉がついた穂積の腕が絡んでいる。
 まるで大蛇のように蠢きながら、艶めかしい手の動きで香乃の胸を攻めてくる。
 両手で包み込んだと思うと、形を変えるほど強く揉み、手の痕がつきそうなほど紅潮した胸を、今度は羽毛で触るように優しく撫でる。そして香乃の吐息が零れた瞬間、胸の蕾を爪で引っ掻くようにして勃ち上がらせ、指の腹でこりこりと強く捏ねるのだ。

「ああ、それ駄目!」

 びくんと体を揺らせた香乃が背を反らせると、穂積が香乃の首筋を舐め上げながら言う。

「駄目っていいながら、香乃の体は違うみたいだ。もっともっとって、俺のをきゅうきゅうに締め付けている。胸の先を強く弄ると、香乃が喜ぶのはもうとっくに知っているけど」
「そんなことは……ひゃああ」

 鏡の中の自分は喜んでいた。
 穂積に体を預けきり、彼に愛されて嬉しいと体が告げている。
 穂積から見る自分もこうなのだろうか。
 こんなに穂積が好きだと、伝えているのだろうか。

 鏡の中から見つめている穂積の目が、挑発的に細められた。
 視姦されているようで、思わず香乃はぶるりと身震いする。

 穂積は香乃の体勢を少しずらして斜めにすると、香乃の胸に貪りついてきた。
 胸の頂を舌で揺らしては強く吸い付き、時折、カリッと歯で噛んでくる。
 そのたびに香乃の体が跳ねる。

「あぅ、ああっ、んんっ」

 鏡の中の自分は、愛する男に愛撫されて気持ちいいと言っている。
 エロティックで、同時に幸せそうで。
 鏡の内外、穂積が体を愛してくれている――それが香乃の興奮を煽った。
 香乃は胸を愛撫する穂積の頭を両手に抱えると、すりすりと頬をすりつけた。

(好き……。あなたが大好き……)

 するとそれが伝わったのか、香乃の中の穂積がさらに猛り、元気な脈動に蜜壷がじんじんと甘い疼きを伝えてくる。
 穂積が足を絡ませるようにしながら、ゆっくりと腰を動かした。
 押し止められていた快楽の渦が、ゆっくりとうねり出す。

「あっ、あんっ、ああっ」

 穂積は、香乃の頬にかかる汗ばんだ髪を耳にかけながら、唇を重ねてきた。
 段々と揺さぶられて唇が離れ、突き出した舌だけを絡め合う。

「香乃、この先もずっと、死ぬまで俺だけを見続けて」

 穂積は辛そうな顔で、懇願するような声を出した。
 
「俺は香乃を手放さない。永遠に」

 香乃の左手を取り、誓いの如く薬指に唇を落とす。

「うん、永遠にあなただけ」

 香乃が応えると、穂積は嬉しそうに笑った。
 いつも寂しげな顔をしていた彼の笑顔に、何度絆されときめいてきたのだろう。
 きっと自分は何度も、穂積に恋をするだろう。
 何度も何度も色鮮やかに潤い、この恋は続いていくのだ。

 転がるようにして正常位で繋がった。
 汗を滴らせ、色香と共に愛を撒き散らす穂積は、壮絶に色っぽい。
 半開きな唇を時折くっと噛みしめ、男らしい喉仏を曝しては、誘惑するが如く熱っぽい目で香乃を見下ろしてくる。

 そこにはかつて、みっちゃんと呼んだ彼はいない。
 それなのに名前を呼ぶと、昔と同じような顔で微笑んでくれる。
 それが嬉しくて。

 香乃は両手で穂積の頬を挟んで言う。

「わたしの勿忘草は……枯れやしない」

 ずっと好きだった。
 ずっと忘れられなかった。

 幾多の困難を乗り越え、その先に見た景色は――潤愛に咲き乱れる、勿忘草。
 ひっそりと、しかし毅然と自分はここにいるのだと主張して。

 『私を忘れないで』

 孤高でさみしがり屋の勿忘草――。

「わたし、色々とあなたに迷惑をかけるかもしれないけど、でもあなたの横に相応しくなれるよう、精一杯頑張る。だからお願い。ずっとわたしの傍にいて。わたしの記憶はまだ歪だけど……、でもあなたを心から愛しているっていることを、忘れないで」
「……っ」
「愛しているわ。女としてだけじゃ足りないの。わたしは、あなたの母にも姉にもなる。だからあなたはたくさんの愛を受け取って。今まで、寂しい思いをしてきた分、これからは笑顔になれるように」

 勿忘草の瞳から、ほろりと膨らんだ雫が滴り落ちた。

「ありがとう。俺を見つけ、愛してくれて」

 穂積はそのまま、微笑んだ。

「俺は……あなたと巡り会えたことが、一番の幸せだ」

 そして涙の味がする情熱的なキスをすると、香乃の頭を両手で抱き、激しい抽送に切り替えた。
 彼の激情が香乃を翻弄し、快楽の渦に引きずり込もうとする。
 引き離されないように手を握り、唇を重ね…… 全身全霊で相手を求めながら、その愛の大きさに打ち震える。

「穂積、穂積、好き。一緒に……っ」
「ああ、どこまでも一緒だ。香乃、愛してる」
「わたしも、わたしも穂積が……ああ、わたし、イク、イク――っ」
「俺も……く……っ!」

 叫び合うようにしてふたり同時に弾け飛んだ。
 震える香乃の体を両手に強く抱いた穂積は、薄い膜越し、彼女の最奥に熱い欲を放つ。
 何度も何度も香乃に注ぎ込み、香乃を満たす。

 その愛は尽きることなく。

「……今夜は寝かせないから」

 一緒に果てたはずなのに、新たな避妊具をつけた彼は既に雄々しくなっている。
 これは若さなのか、脅威の回復力だ。

「あ、明日会社……」
「牧瀬さんとしても、出勤したんだろう。だったら出勤出来ないほどする」
「な……!」

 年下の恋人は、絶倫で嫉妬深いらしい。

「俺にはセックスの経験値はないけれど、愛の深さと若さだけは誰にも負けない。だから覚悟してね、香乃。香乃とのことを認められてストッパーがなくなった俺は、無敵だから。牧瀬さんに負けない自信がある。未来に、大いに期待して」

 穂積は妖しく笑う。

「わたし、アラサー……」
「ん?」
「わたし、三じゅ……」

 言い切れなかったのは、穂積に唇を塞がれたからだ。

「俺をここまで貪欲にしたのは、香乃のせいだから。香乃以外には興味すらわかないし」
「わ、わたしのせい!?」
「そう。香乃がよすぎて可愛すぎるのがいけない。それに俺にとって、香乃が三十だろうと四十だろうと関係ない。香乃が香乃でありさえすれば、抱きたくてたまらなくなる。だからおばあちゃんになっても覚悟して。一生、俺の欲情を受け止めて」
「……もう。そういうこと真顔で言うなんて!」
「香乃とのことは真剣だからね。俺はいつだって」

 笑い合いながら、唇が重なり合う。
 ……長い夜はまだまだ終わらなかった。


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