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8.ヒイラギナンテンは、激しい感情を伝える

止めどない激情

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 母の手紙に印刷された黄色い花が、床に舞い落ちる。
 ヒイラギナンテン――花言葉は『激しい感情を伝えて』。
 母に後押しされた激情が爆ぜ、貪り合う唇から奔流する。

 唇を重ねても、まだ足りない。
 舌を絡み合わせても、まだひとつに溶けない。
 九年前の図書館での秘めごとのように、とめどなく膨れあがる渇望がふたりを呑み込んでいく。

「は……ん、ん、むぅ……あっ」

 香乃の背中に回っている穂積の手が、香乃のスカートを捲り上げ、背後からショーツの中に忍んでくる。尻の谷間から滑り落ちた彼の指は花弁を割り、ぬちゃぬちゃと音をたて、潤みきった花園をかき乱していった。

「ん、ふ……ぅん、んんっ」

 キスは一層激しさを増し、背を反り返しながらびくびくと感じる香乃の目尻から、一筋の涙が流れた。
 穂積はキスをやめて自分の肩に香乃を押しつけると、頭を撫でながら、香乃の耳を甘噛みする。
 その間にも秘処を掻き回す指は、蜜口から湿潤な隘路に忍んだ。
 くぷりと音がした後、彼の抜き差しに合わせてくちゅくちゅといやらしい音を奏でる。
 彼に触れられるたびに、とろとろに蕩けていくそこから、じんじんとした熱を体中に広げた。

「あっ、はっ、穂積、わたし……、んんっ」
「香乃の中、凄く悦んでる。俺の指が食いちぎられそうだ」
「そんなこと、言わない、で……っ」
「可愛い。俺に感じてくれて」

 顔中キスが降り注ぐ。香乃の体の隅々まで知る穂積の器用な指先は、久方ぶりのハンデをものともせずに巧みに動き、香乃を高みに押し上げていく。
 喘ぎながら穂積を見れば、彼は情欲が滾った目で香乃を見ている。
 服を着ているのに丸裸にされて、その目で全身を愛撫されているようだ。
 見られているだけで切羽詰まっていく香乃が、ぎゅっと眉間に皺を寄せて上り詰めようとした瞬間、手が引き抜かれ、壁に押しつけられた。

(ああ、もう少しだったのに……!)

「ごめん。やっぱりイクのはこっちにして。香乃を独占している手に嫉妬してしまうから」

 蜜で濡れた指を口に含み、妖艶な笑いを見せる穂積。
 その色香にぞくぞくしながら、香乃は息を整え、もどかしい疼きに耐えていた。
 穂積はそんな香乃に、ねっとりとしたキスをしながら、香乃のショーツを抜き取ると、スカートが捲り上がった香乃の足の間に体を割り込ませるようにして、屈み込んだ。
 そして香乃に濡れた目を向け、端麗な顔を黒い茂みに近づけていく。

「駄目っ、わたし……まだお風呂に……っ」
「そのままがいいんだ。香乃を味わいたい」

 ぴちゃっと音がして、敏感になっている秘処に熱い穂積の口が宛がわれると、香乃は短い悲鳴を上げる。すると穂積は嬉しそうに目を細め、陶酔したような面持ちでちゅるちゅると滴る蜜を吸い始めた。

「ああ、やあああっ」

 目の前がチカチカと光が飛びそうなくらい気持ちがいい。
 燻っていた情熱の炎がゆらゆらと揺らめき、体内から自分を焦げ付かせようとしている。
 香乃は壁に仰け反るようにして、喘いだ。
 やがて穂積は突き出した舌を忙しく動かし、割った花弁の中にあるぬかるみを掻き回しては、かき集めた蜜をじゅるじゅると口全体で吸い上げる。

「ああ、……香乃、美味しい。ん……香乃の味に……酔いしれそうだ」
「やっ、あっ、あっ、ほず、ああっ」

口淫をしている彼はどこまでも妖艶だった。そんな彼を傅かせて奉仕させていると思うと、加虐的な悦びも芽生えて興奮が煽られてくる。

「凄い、蜜が溢れてくる……。もっと欲しい、全部、俺のもの……だ」

 強く弱く、穂積の舌が生き物のように動き、香乃を追い詰める。
 彼の熱い息がかかるだけで全身が総毛立ち、さらに体が熱く濡れてしまう。
 悶々としていた禁欲生活を送っていただけに、愛する男からの愛撫に耐久性が薄れていた。

「穂積、わたし、わたし……もうっ」

 了解したとばかりに一際強く吸い立てられると、快感は鋭い波となり、香乃の中で弾け飛んだ。
 壁に凭れていた背がずり落ちそうになると、慌てて立ち上がった穂積が香乃を支え、香乃の片足を自分の腰に巻き付ける。
 爆ぜたばかりでひくつく秘処に、ズボン越しに興奮した穂積の硬さが感じられる。
 それが愛おしく、そして欲しい――。
 思わず腰を揺らしてせがむと、穂積もまたぐりっと抉るように己の腰を回してきた。
 
「……香乃、部屋に入ってと思ったけれど、無理だ。ここで繋がりたい」

 穂積の掠れた声は、欲情しているからだ。
 求められていることが嬉しい香乃は、穂積の首根に両手を回しながら、こくりと頷いた。
 穂積は香乃を抱きしめたまま、放置したカバンを片手で引き寄せると、中から可愛らしいレースの袋に入った何かを取りだした。

「それは?」
「……理人のプレゼント。香乃に触れない欲求不満でイライラが募っていた矢先に、茶化すように渡してきたからボコボコにしてやった」

 出て来たのは――避妊具の箱。

「捨てないでよかった。さすがは理人……とは言いたくはないけれど」

 ベルトをカチャカチャと外す穂積は、余裕がない顔で笑った。
 ちらりと横目で見ると、控え目で上品な物腰である彼とは相反し、天を仰ぐ猛々しいものが見える。どこまでも男らしい……それが生身の彼だ。もう彼は、昔の少女のような名残はない。
 それが嬉しいようで、寂しい。
 やがて装着を終えた穂積は香乃の唇を奪い、ねっとりと舌を絡ませた後、こつんと額を合わせた。
 至近から見る彼の顔は、艶めいた男の顔になっている。
 彼の欲情している顔は、たまらないくらいに色っぽい。

「香乃、愛してる」

 愛を囁いた後、穂積は香乃を壁に押しつけながら、彼女の片足を持ち上げ、狭い隘路を押し拓いてくる。剥き出しの彼が、自分の深層に直接触れていると思っただけでぞくぞくしてしまう香乃は、甘いため息を漏らして彼を迎え入れた。
 腹の中の圧倒的な穂積の存在感。
 愛おしくてたまらない。
 
「は……すごい、香乃の中、うねって……俺、やばいかも……」

 苦悶めいた顔で感じている穂積は、情欲に白い肌を紅潮させて一段と色っぽい。
 とろりとした顔を向けられただけで、頭がどうにかなってしまいそうな衝動が駆け巡る。
 蕩けた視線を熱く絡め合い、香乃が笑った。

「こうしたまた穂積に……抱かれたかったの。嬉しい……っ」
「俺は……香乃を抱きたくてたまらなかった……。昔も今も、香乃を抱きたくて、愛し合いたくて仕方がない……っ」

 穂積が呻きながら動き出す。

「あ……、ああっ」

 内壁を何度も擦りあげられ、快感の波が次々に押し寄せてくる。
 体中が歓喜に悦び、肌が粟立つ。

「あんまり……可愛いこと、いわないで。余裕ないんだ、本気で」

 愛おしい男の灼熱が、香乃の中を何度も穿つ。
 彼の熱に擦られ、さらなる熱に溶けてしまいそうだ。

「穂積、好き。穂積、ああっ、好き。好きなの」
「俺も……香乃、俺の、俺だけの香乃……っ」

 くちゅんぐちゃんと湿った音を響かせ、秘めた深層を抉られていく。
 突かれるたびに距離はゼロになるのに、また離れていくのが恨めしい。
 香乃が無自覚で彼を締め付けて捕らえようとすると、穂積はくぐもった喘ぎ声を出す。

「ああ、香乃。イキ、そうになるから、それは駄目」
「いいよ、イッても……」
「一緒がいい。俺は、香乃を置いて行かないから」

 唇を奪われながら、穂積の律動は激しさを増していく。
 粘膜が激しく擦れる淫靡な水音に、ふたりの荒い喘ぎ声が交ざる。
 何度も口づけを交わし、熱を帯びた視線を絡めさせた。
 
「あっ、あ……あっ、そこ駄目、穂積、そこは……」
「香乃の気持ちいいところ、もうわかっているよ。ここだろう?」

 最奥の少し手前で、ぐりと腰を回された。
 角度が変わった彼の先端が、拡張するように濡れしきる狭道を激しく擦りあげる。
 ビリビリとした快感の電流が香乃の体に走る。

「駄目、それは……あ、ああ、わたしイっちゃう!」

 香乃が仰け反り足を震わせた瞬間、穂積は香乃の波に浚われぬよう、己を一度退避させた。
 そして落ち着きを見せた香乃の中に、再度ずんと押し入ってくると、穂積は両手で香乃の両足を持ち、抱き上げた。

「なに、なに!?」

 繋がったまま浮いているという妙な不安定感に、香乃が思わず穂積の首にしがみついた。

「ひとときも離れたくないから、このまま香乃の部屋にいきたい。いい?」

 情欲の熱をまだ滾らせたままの上目遣いに、きゅんとなる香乃は、一緒に繋がった部分を締め付けてしまったようだ。不意打ちを食らった穂積が呻き、香乃は慌てた。

「ごめん……部屋に行こう。……あ、やっぱ駄目」

 牧瀬と一夜を共にしたことを思い出してしまったのだ。
 あの時は揺れていたとはいえ、今となれば穂積への裏切りのようで罪悪感が残る。

「そ、そこ突き当たりの客間に、お布団出すから……」
「……今、どうして拒んだ?」

 若干、穂積の声が冷ややかになる。
 勘のいい穂積に悟られないよう、香乃は必死に取り繕った。

「に、二階は遠いし、すぐに穂積としたい……あぁん!」

 穂積が香乃の体を揺さぶるようにして二度ほど奥深く突いてきたために、言葉が消えて甘いものになってしまった。蕩けそうなゆっくりとした律動になる最中、穂積の声が届く。
 
「……牧瀬さんとしたから?」

「な、なななな!」
「やっぱりな。だったら尚更、香乃の部屋がいい」
「ど、どうして……」
「だって上書きしないといけないだろう? 牧瀬さんのことを思い出せないくらい、俺との思い出を強くすればいい。記憶を消される方も辛いものだから、ここが俺の妥協点」

 牧瀬のことを思いやれるほどには、牧瀬になんらかの親近感を覚えているのだろうか。
 河原崎しかいなかった彼の世界に、香乃の友もきっと着実に入ってきている。
 それが嬉しくて、香乃は自分の部屋に案内した。

 だが……。

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