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第2章 終わらぬ宴
シュウの献身
しおりを挟む「よかった!! お前を探してたんだ!!」
「シュウ、なんで餓鬼が……」
「お前が抜け道に走った直後、外から金色の男が餓鬼を連れて現れたんだ。あの男、不可思議な力で部下達の首を一瞬にして刎ねたんだ」
サクは目を細め、怯えたユウナはサクの首筋に抱きつく。
「そして餓鬼共が雪崩込んだ後……あいつ、消えたんだ。きっと屋敷のどこかにいるかも知れねぇから、気をつけ……」
「もう遅いわ……」
ユウナが無気力に言った。
「皆皆……殺されてしまった。あの金の男に、父も……リュカも……」
「祠官も、リュカ様も!?」
サクはユウナの表現にあえて黙っていた。
ユウナの中で、リュカは死んだと思うことで、精神が保たれるのなら、それでいい。意味は同じ、自分達が知るリュカはもういないのだから。
「サク、餓鬼がうじゃうじゃ増えているんだよ。増殖している。警備兵は全滅だ。俺も命からがら……ってとこなんだ。すまない、俺、お前の代わりに部下を守れなかった……っ!!」
涙声で頭を下げるシュウに、サクは言った。
「謝るのは俺の方だ。酷なことをお前に押しつけたんだから。だけどお前だけでも生きていてよかった」
「サク……」
「シュウ、ここはひとまず逃げよう。ここで親父待つには危険すぎる。とにかく屋敷の外へ。正門は駄目だ。他に道はあるか!?」
「餓鬼が食い破った壁の穴がある。こっちへ……」
シュウに案内された場所は、ようやく人間ひとりがなんとか抜けられるくらいの小さな穴だった。三人となれば、時間がかかる。
視界の至る処には餓鬼がいる。
そして、この壁の向こう側に餓鬼が居ないとも限らない。
サクが頭を突っ込んで見る限り、壁の外に気配はなかった。
「よし、姫様。まず抜けて下さい」
「あたしは……」
「……あっち側に放り込みますよ?」
「……はい」
急に素直になったユウナが、壁の穴から外に出た。
「次にシュウ、お前行け」
「は!? 次はお前だろうが、サク!!」
「シュウ。俺にもしもの時は、お前が姫様守ってくれ」
「馬鹿言うな。お前は姫の護衛だろ!? 任務放棄は許さねぇぞ、サク……警備兵を代表して言うんだ。お前が次だっ!!」
そこにシュウの男気を感じたサクは、ため息をついて頷いた。
「すぐ抜けるからな」
「ああ。早くしてくれよ?」
強面のシュウが屈託ない顔で笑う。
……彼がなにを秘めているのか、それを知らずして、サクはユウナの待つ壁の穴の向こう側に上半身を入れた。
そしてあともう少しというところでシュウが、突如大声で叫んだ。
「俺……サクに憧れてた。すげぇ強いのにそれを自慢せず、気さくで人情味あるところがすげぇ好きだった」
「と、突然なにを……っ!!」
「正直に言う。俺……ユウナ姫が好きだったんだ。俺の故郷揺籃で見かけた姫に、一目惚れした!!
もっと近くで護りたくて、だから警備兵に志願したんだ」
「シュウ?」
それは初耳だったが、今言うべきことだろうか。
そう訝り、後ろを見ようとするとシュウの怒声が飛ぶ。
「いいからお前は黙って動け!!」
なに突然、気を昂ぶらせたのか。
だが一刻も早くシュウに続けねばと、サクは渋々と穴の出口に向けて体を動かす。
「最初お前にはすげぇ腹立った。ハン様の偉光を借りて、姫に近づくなんてとんでもねぇ奴だって思った。だけどお前の実力と性格思えば、姫の相手にはお前しかねぇと思った。姫の近くにいる資格があるのもお前、姫とお似合いなのもお前。だから俺は、お前だから姫とうまくいくことを応援してたんだ。昔から!!」
「………」
「好きな友と好きな女の幸せ願い、身を引くお前の辛さは、俺が一番理解してると思う。本当は……酒でも酌み交わして、もっとお前とこんな話をしたかったなっ!! 今になってすっげぇ後悔」
なにかシュウの様子がおかしいとサクは思った。
「よし、シュウ。抜けたぞっ!! 早く来……」
そして穴から頭を出して、シュウを促そうとしたサクは見た。
「俺が餓鬼を引きつける。だから、サク――っ!! 姫を……必ず姫を――……」
両手を拡げて襲いかかる餓鬼の生き餌と化し、シュウは生きたままこちらに向かってくる餓鬼の群れの中に、突進していったのだった。
「きぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
襲いかかる餓鬼の狂喜のような声に負けじと、シュウが叫んだ。
「サク――っ、早く行けぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
そしてシュウの体は――
「う、ぐ……がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
夥しい餓鬼にまみれて見えなくなった。
「シュウ――っ!!」
サクがきっと穴を通り始めた時から、餓鬼は近づいていたのだろう。
わざと大きな声を出して、餓鬼の注意を引いて。
――姫を……必ず姫を――……。
サクは涙を流しながら握った拳に力を込め、壁の外に出た。
「サク……」
事情を察したユウナも泣いていた。
「うああああああああっ!!」
サクは赤い月に向けて一度吼え、そしてユウナに言った。
「行きましょう、姫様。シュウから貰った命、大切にしましょう」
サクは涙を零しながら、頷くユウナを抱き……ひたすら駆けた。
――ハン様、サクこそが隊長にふさわしい。
――なんなら無理矢理でも姫を奪って、駆け落ちでもなんでもしてみろ!!
シュウ。あれは……お前の心だったんだな。
お前もそうしたいほどに、姫様に辛い恋をしてたのか。
――本当は……酒でも酌み交わして、もっとお前とこんな話をしたかったなっ!!
今まで見守って応援して下さり、ありがとうございました!!
先輩――っ!!
サクの唇が悲しみに戦慄いた。
餓鬼は、追ってこなかった。
……シュウの命と引き替えに。
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