アムネシアは蜜愛に花開く

奏多

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第4章 歪んだ溺恋と束の間の幸せ

壊れないものもここにある

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 浴室のタイルに背をつけて立つ、巽の悩ましい声が反響する。

「……ん……ぁ……、や、ば……んぅ……っ」

 わたしに勃つというのはあながち誇張ではないようで、由奈さんがしていた時よりむくむくと猛る様に、驚くと同時に嬉しいし愛おしくなる。

 それでも由奈さんに少しでも巽は変化を見せたのだろうかと思えば、やりきれない嫉妬に駆られて、念入りに愛すことを決めた。

 わたしは座りながら天を仰ぐそれを口に含み、舌でぺろぺろと筋張った表面を舐めたり、リップ音をたててエラの張ったカサの部分にキスをしながら、両手の掌で太くて固い陰茎を上下に扱く。

 するとまるでわたしから溢れる蜜のように、先端からぬるぬるとしたものが零れる。
 滑りやすくなったそれを懸命に扱いていれば、それはさらに怒張して質量を増しながら、なにかの生き物のようにびくびくと動く。

「く……は、……あ……っ」

 段々と大きくなる巽の喘ぎ声に興奮してしまい、もっと巽を喘がせたい気持ちが強くなる。
 技術はなくても愛情を多く込め、愛撫を濃厚にした。

 巽は洗ったばかりの濡れた髪を壁のタイルにつけ、喉を曝け出しながら苦悶の表情で荒い息を繰り返す。
 そしてゆっくりと薄く目を開くと、虚空を見つめた。

 なんて色っぽい感じ方をするのだろう、巽は。

「アズ……は……っ、こんなこと……、あいつに、してたのか……?」

 上擦ったその声はハスキーで色っぽい。

「ううん、はひめれ」
「上目遣い、やめろ……ああ、くそっ、なにか……屈辱だ」
「どうひれ?」
「喋るな……ああ……、お前……、本当に初めて……なのかよ……?」

 先端を細くした舌でぐりぐりと抉るようにすると、詰るような目が向けられた。

「んんん?」
「くそ……天然、こわっ。俺が……弱いのか? ああ……イキそ……。アズ、外せ……もう駄目だ」
「やら」

 太いそれをえずきながら飲み込み、涎を垂らした唇をすぼめるようにして出し入れする。
 すると、巽が震えるようにしてわたしの頭をぐっと掴み、奥を突く仕草を見せた。

 顎が外れて吐くかと思った瞬間、巽は口からそれを外そうとしたが、わたしは離さない。

 逆に果てが近いことを彼の震えで知り、その先端を音をたてて強く吸った。
 慌てたような巽の声と共に、熱く苦いものが喉奥めがけて何度も飛び散り、口の中がそれに満たされた。

「ばっ、アズ、吐き出せ!」

 わたしは熱いそれを一滴も残らず呑み込む。

「美味しかった」

 満足げにそう笑えば、巽は鍛えられた身体の肌を紅潮させて、彼の白濁液で満ちたわたしの唇を奪い、舌でわたしの口腔内の残滓を掻きだした。

「まずっ、美味くねぇじゃないか、こんなもん」
「そ、そう?」

 巽はにやりと笑って、流し目で言う。

「お前さ、かなり俺のこと好きなんじゃねぇ?」
「……っ」
「顔真っ赤だけど」
「う、運動したからよ」
「運動って……」

 巽はシャワーを出して、わたしの口を漱がせ、そして唇を重ねた。
 彼の味がしなくなったことに満足したのか、わたしを横抱きにすると、寝室へ向かう。

 途中、お情け程度にタオルで身体を拭かれたが、まだ互いに湿ったままの状態でベッドに横たわる。

 横向けになると、巽がわたしの頬に手を置いて、顔を覗き込んできた。
 濡れた黒い瞳に、身体が熱くなる。
 
「言って。俺が好き?」
「……巽のドS」

 わたしは口を尖らせて巽の首に両手を巻き付かせると、巽の耳に囁く。

「好き」

 ああ、巽に好きだと言えるのは、なんて気持ちがいいことだろう。
 妙な感慨を覚えているわたしとは違い、巽は耳まで真っ赤になって慌てていた。

「な、なんで!? 言えと言ったのは……」
「急に素直になんなくてもいいから! ああ、本当に……っ」

 噛みつくように唇が重なり、舌が絡み合う。
 キスの合間に出るのは、甘い声。
 わたしが喘げば喘ぐほど、蕩けるキスは濃厚となり、優しく頭を撫でられる。

 優しいキスに酔い痴れている間に、巽の手がわたしの胸をやわやわと揉み、固くなっている胸の蕾をこりこりと捏ねた。

「んんっ、ん、ふ……ぅっ」

 悶えると、ちゅぱりと音をたてて巽は唇を離した。
 そして何度かあたしの顔に啄むようなキスを寄越すと、柔らかに目を細めた。

「ここ、凄く硬くなっている。キスで? それとも俺のを舐めて?」
「し、知らないっ」
「だったら、ここは?」

 わたしの片足が持ち上げられ、巽の足が間に入る。
 素肌が重なるだけで、身体が蕩けそうに熱い。

 巽は濡れた前髪を掻き上げながら妖艶に笑い、わたしの秘処に指を滑らせると、口端を吊り上げた。

「ぬるぬるだぞ、お前」
「言わ、ないでっ」

 花弁を割るようにして、表面をゆっくりと擦る巽の指。
 くちゅくちゅといやらしい音をたて、わたしの身体に甘い痺れをもたらす。

「ああ、んっ、ああ、ああん」

 巽が乱れて喘ぐわたしを嬉しそうにじっと見つめている。

 熱を帯びたその目が優しくて。
 見つめられていると思っただけで、身体が熱くなる。

 彼に触れられ、見つめられている部分が、気持ちよくてたまらない。

「アズ、気持ちいい?」
「ん。気持ち、いい……巽、気持ちよくて……たまらない」

 巽――。
 あなたの指でこんなに感じてしまう、いやらしいわたしを見て。 

 もうわたし、あなたには隠さないから。
 秘めていた気持ちを、あなたに届けるから。

「巽、ん……ああ、巽っ」
 
 巽に欲情しているの。
 巽だから、こんなに濡れて熱くなるの。

 そう眼差しで訴えると、薄く開いた巽の唇からため息のような言葉が吐き出された。

「アズ……あまりにも可愛くて、指ではなくて俺のでキスしたくなる」
「え?」
「たまんねぇんだ。俺の……剥き出しの部分で直に感じて」

 巽が、さっきわたしが舐めたものを手で掴むと、その硬い先端でわたしの秘処に滑った。

 堅くて熱いものは、まるでなにかの生き物かのよう。
 脈打ち、びくついている。

 わたしのさざめく粘膜を少し摩擦しただけで、身体に奔る気持ちよさにざわっと全身が総毛立つ。

 体が、無条件に悦んでいる。

「あああっ、なに、それなにっ」

 わたしから出るのは、歓喜に満ちた甘い声。
 巽はうっとりとした顔で微笑んだ。

「悦んで……るな、俺のもお前のも」

 巽の首に掴まりながら喘ぐと、熱く息づくそれが、今度はわたしの花園全体に何度も往復する。
 その感触を感じるたび、わたしのお腹の奥がきゅうきゅうと収縮してしまう。

「巽……巽……ああ……っ」

 その質量あるものの蹂躙に、わたしの内股は快感に震えた。

「ん……っ、あ……っ」

 思わず陶酔した声を出してしまえば、わたしの耳元で巽も同調したように甘い声を出す。

「巽も……気持ちいいの?」
「気持ち、いい……。アズ……お前が……可愛くてたまらねぇ……」 

 切なげな視線を投げた巽は、ねっとりとしたキスをしてくる。
 舌を絡ませ、吸い合いながら、ゆっくりだった巽の動きが早められていく。

「ん、んんっ」
「は……っ」

 固い先端が角度をつけて花園を蹂躙する。
 互いの粘液の音が卑猥でたまらない。

「ああっ、いいっ、それ気持ちいいっ、巽……っ」
「はあっ、……お前が昨日……拒絶したけど、これ嫌?」
「嫌……じゃない。巽……巽が熱くて大きいよ、巽を感じる……」
「ああ、俺も熱くて柔らかいお前を感じる。ああ、中にぶすりと挿れてぇけど、お前の消毒もしねぇとな」

 蜜口を掠るだけだった硬い先端が、わたしの蜜壷の浅いところに入る。
 わたしは背を反らすが、疼いていた部分に滾るような巽の感触を感じて、一気に光が散る。 

「入ったの、これくらい?」
「……あああ、駄目、ああああああっ」
「馬鹿、こんな先っぽでイクなって……」

 そう笑う巽は、収縮するわたしの浅瀬から抜かないまま、わたしの頭を片腕に抱き、情熱的なキスをしてくる。
 唇が離れた時、熱を帯びたその目が甘く細められた。

「アズ……口紅、早く作ろうな……。その時は、俺を最奥にいかせて?」
「うん、うん……巽、……ああ、巽が……気持ちいいっ」
「気持ちよさそうな顔。もっと奥に、俺が欲しくなった?」
「ん……」

 素直に頷くと、巽は嬉しそうに笑う。

「俺も。アズが欲しくてたまらねぇ。だけど……繋がるのは、一ヶ月後な。十年間お前に嫌な思いをさせてちまったんだ。だから次こそ、お前と最高潮に求め合って、お前の奥に入るから。だから今は、触れあうだけで我慢だ」

 巽は蜜口から自身を引き抜くと、またわたしの秘処に滑らせた。
 そしてそのまま自分の足を引き抜くと、閉じられたわたしの足の間で腰を動かす。

 いやらしい粘液の音が大きくなる。
 身体に奔る快感が鋭利になり、わたしは悶えた。

「ああ、巽……巽を凄く感じて……気持ちいい。巽、ああ……っ」
「ん……っ、本当にお前の身体は正直。とっても可愛い」

 秘処だけではなく、太股でも感じる彼の熱と質量に、息が詰まる。
 擦られたところから生じる快感の波が、次々にわたしを襲う。

「……ああ、そこっ、が……気持ち、いい……」
「ん? ここ?」

 巽はわたしの弱いところをエラの張った部分でぐりぐりと抉るように刺激をし、わたしは仰け反った。

「アズ、アズ……俺を見て。俺で頭をいっぱいにして」
「……っ」
「俺に顔を見せて。俺に蕩けている顔を」

 巽の黒い瞳が欲情に濡れている。
 きっとわたしもそうなのだろう。

「ああ、お前の……そんな顔が見たかった。ずっと……」
「……っ」
「こうやって……抱けたかもしれないのにな、昔も。もっとお前を気持ちよくさせて、痛みを抑えることが出来たかもしれないのに」

 巽が悲しげに笑う。

「……俺、あいつを見て、無理矢理がどんなにお前にとって辛いことか、改めて反省した。本当にごめん」
「十年前は……、合意、だったの。幸せ……だったよ?」

 すると巽は泣き出しそうな顔で笑うから、わたしも泣き出しそうになる。
 
「アズ……好きだ。昔からずっと」
「……わたしも巽が好き。苦しいほど」

 甘い口づけが深くなり、巽はわたしの腰を掴んで動かした。

「んんん、んんんんんっ」

 角度を変えながら、灼熱の杭が行き来する。
 ごりごりとした刺激の連続に、わたしの目の裏には火花が散った。

 巽はわたしの胸の頂きに吸い付き、反対の手では硬くしこった蕾を押し潰す。
 さらなる快感に、わたしの身体は跳ねた。

「あぁぁんっ、巽、イク、イッちゃう……っ」

 結合部分からせり上がるものが次第に輪郭を持ち、身体に走り始める。

「いいぞ、アズ。俺のでいけ。俺のを感じながら、好きなだけいけ」

 巽は自らの腰を大きく動かし、先端から根元まで全体を強く激しく擦り上げてきた。
 まるでわたしの深層を貫きたいかのように。

「やっ、あっあっ、わたし……イっちゃう……! ……あ、また……っ」
 
 直に触れあう巽の熱と堅さが気持ちよくてたまらず、わたしは続けて何度も果ててしまった。



 巽があくまで疑似の素股の形を取ったのは――、解放したわたしの欲情の起因が、愛のための行為というより現実逃避をしたい気持ちの方が強かったのを、見抜いていたからだろう。

 巽の身体は激しくわたしを求めていた。
 彼は苦しげな顔をして、我慢をしていた。

 彼は最後まで、十年前のように激情に身を任せて、己の欲を優先することはなかった。

 最悪な形で怜二さんと由奈さんと別れることになったわたしの傷心を、快楽に逃げることでまぎらわせようとしていることを巽は悟り、泣き叫ぶわたしを何度も果てに昇らせながら、愛を語り眠らせたのだった。

「アズ、好きだ。今度こそ俺は、お前を守るから……」

 壊れないものも、ここに在るのだと囁きながら――。 

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